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真田源次郎幸村、縮む

Dona nobis pacem. の続き



繰り返し繰り返し。
日常が非現実に変わる時は昔の自分の行動を思い浮かべてみよう。
きっと原因が見つかるはずである。もしくはそれに準じる何か。

まあ、見つかったからといって、どうという訳でもないのだが。


(防げるものなら防いでみろ!)









「ままままさむむねむねどの!」
前方からとんでもない勢いでやってくる幸村の姿に政宗は酷い既視感を感じた。忘れはしない。以前痛い目に合わされたあの姿がやってきたからだ!

「そそ、それっそれがし!」
真正面から突進するように政宗に抱きついた幸村の体は、以前の時と同じように政宗の腰あたりまで縮んでいた。
「ちちちっちぢんで、しまいました!」

そんな慌てふためく幸村の様子を見て、政宗の頭にひとつの確信が思い浮かぶ。
(というか、アンタ真田の忍だろ)
佐助が前みたく変化してるのだとすぐさま思った。どうせいつものように騙しにきたのだと政宗は疑る。時には小十郎に化けてみたり侍女に化けてみたりと佐助の変化は性別体格なんでもありなのである。そのせいかどんな時でも酷く疑り深くなってしまった政宗。

「Hey 忍!前にもやったネタで騙そうなんざ甘えんだよ」
よく見るとその顔は半泣きだった。その目を眺めながら軽く感心する。地味に演技上手いなコイツ。本気で泣いてるようにしか見えねえ。

「ち、ちがっ、ちがうのです!これはさすけのじゅつではないのでござる!」
しかしその言葉を信じようともせずに、政宗はにやりと勝ち誇るように笑いながら腰にへばりつく幸村もどきの両頬を引っ張った。
「うそつけ。なんだ正当法じゃ通用しなくなったら今度は泣き落としか。そんなもん誰が騙されるか!」
よほど今まであっさりと騙されていたのが悔しかったらしい。得意気に政宗は幸村もどきを見る。

「さっさとその変身解け!」
ぐいぐいと幸村の頬を限界ギリギリまで引っ張った。見た目が真田なのがちょっと嫌だ。本人もかなりの童顔だが、これは見た目だけは完璧に年端もいかない子供に見えてしまうからである。いじめているみたいだ。

「いっ!いたいいたいいたい!」
普段は政宗の心の奥底で眠っている加虐趣味(sadism)がじわじわとにじみはじめた頃、最近酷く聞き慣れてしまった声が背後から耳に入る。

「なあ独眼竜の旦那ー。ウチの旦那知らない?」
木の枝に足だけを引っ掛け逆さ吊りで現れたのはあのにっくき忍である。

「……………………あれ?」

目を大きく開いてたっぷりと十秒は固まっていた政宗。しかし勢いよく後ろを振り返ると木の上では佐助がぶらふら肢体を揺らしている。どしたのと不思議そうに聞かれるがそれに応える余裕はなかった。

勢いよく前を振り返る。目の前には小さな幸村。そしてその変化が出来る忍は俺の後ろにいる。
(嘘だ嘘だ嘘だ!)
またも軽い既視感を感じながら政宗は、こんな笑えないjokeがあるものか!と吠えた。

「あ、旦那。こんなとこにいたんだ」
しかし、信じたくないが忍がこの小さな幸村に対して旦那と呼んだのである。誤解かもしれないと辺りをきょろきょろ見回してもそれらしき人影は見つからない。
導き出したくなかった答えはいつまでもぐるぐると頭を巡っていた。恐る恐る言葉にする。

「アンタ…………本当に、真田なのか?」
いまだ両頬を掴んだままだったことに気づき、慌てて手を離す。
「……はい」
赤くなった両頬をさすりながら幸村は目を潤ませて政宗を見上げた。

「けさ、めがさめたらこんなことに」
少しは落ち着いた幸村が政宗を見つめながらゆっくりと話す。ああ、また俺の愛すべき平穏が遠ざかっていく足音が聞こえる(come back!!)夢だったらどれだけ良いことかと思い自身の頬を軽くつまんでみるが目は覚めない。

「残念ながら夢じゃないんだよ、独眼竜の旦那」
諦めて現実と向き合って。衝撃のあまり今にも倒れそうな幸村と政宗を余所に至極楽しそうなのを隠そうともせずに笑う佐助。

「…さすけ、それがしはなぜこのようなすがたになったのだろうか」
幸村は政宗にすがったまま弱々しく問いかけた。やっぱり原因はコイツなのかと政宗は半ば諦めたような視線を佐助へ向ける。

「さあ、どうしてだと思う?」
笑ったまま表情をぴくりとも動かさずに佐助が聞き返した。その表情を見て政宗は何故か佐助が怒っているように見えた。
「むむむ…さっぱりわからぬ!」
頭を必死にひねって考えているみたいだが、どれもてんで的外れらしく佐助の表情は固いままである。

「きのうは、けさとおなじくらいにめがさめて、さすけがよういしたあさげをたべてからはらごなしにたんれんをして、ひるげをたべてからてあいをして、ゆうげをたべてからけいこをしていたでござる!」

言い方を変えてはいるがつまりは一日中道場にいましたと。というかアンタにも少しくらいは執務あるだろ。いまだ腰に抱きつく幸村を見下ろしぼんやりと思う。

「…アンタ拾い食いでもしたんじゃねえの」
自分が縮んだ訳で無し。もはや政宗は幸村が縮んだ理由などどうでもよくなっていた。そもそも俺に関係ない。何でいつもいつも巻き込むんだよ馬鹿。どうでもいいからさっさと終われと願いながら適当に呟く。
「お、独眼竜の旦那、鋭い」
すると佐助が両手をぱちぱち叩きながら言ってきた。

「は?」
まさかその言葉を拾われるとは思わずすっとんきょうな声を出す。
「…ひろいぐい?」
その一言に幸村は必死に記憶を思い出しているようだ。

「ひろいぐいとはどこからがひろいぐいになるのだろうか」
軽くうつむき加減で真剣に考えはじめる。馬鹿じゃなかろか。
「…地面に落ちたら」
ちなみに3秒以内に食べられれば問題無し。
「もとからおちていたものは?」
「問題外」
むしろそれが一番悪いわ。あきれたように呟くと幸村はわなわなと震えはじめた。どうやら何か思い出したらしい。


「…さすけ、てんじょううらにおいてあった、あのだんごは、その」

「ああ、あれ?不思議だよなあ、ちょっとした知り合いに頼んで作ってもらった特注品だったんだけど、気づけばなくなってたんだよねえ。手に入れるのほんっと、苦労したんだけどなあ。というかなんで旦那が知ってんのかな。俺、誰にも言わなかったはずなんだけど。不思議だよなあ本当!」

枝の上に立ち尽くす佐助の声色は段々とが強くなる。恐る恐るどんな表情になっているのか幸村が覗き見ようとしたが風に揺れる葉が影となってそれは叶わなかった。

「…………………」
ああ、そういうことか。

「さ、さすけ…?なぜそんなにこえをあらげるのだ?おれがわるいのか!?あやまるからそんなこわいこえをだすな!」

「俺?…やだなあ、別に怒ってなんかないじゃない。ああ、そうそう悪いけどしばらく休みもらうから朝ご飯は自分で作ってよね」
「うそだ!ぜったいおこってるじゃないか!ゆうきゅうもきゅうりょうもこんどのいくさがおわったらまとめてわたすからやすまないでくれ!」

「アンタ、そう言って何ヶ月分渡してないと思ってんだよ…!」
苛々をもはや隠そうともしない佐助の声に幸村は慌てて弁解するがそれは逆効果だったらしくさらに機嫌は悪くなる。


「…なあ、俺帰っていいか?」
そしてぴりぴりと痛むような空気の中、そう呟く政宗の声がむなしく響いた。




だから俺には関係のない話だろ!
(ここは我が家のはずなのにどうしてこうも居心地が悪いのだろうかと、ぼんやり思ったり)





本当に縮んだよ幸村な話。
どんな団子だよとか拾い食いすんなよ幸村とか色々思うところはあるけどあえて触れず。

というか幸村が佐助に給料あげないのって普通ですよね?
当たり前みたいに給料寄越せ休暇くれよみたいな佐助書いてたけど自分。

あれ、武田軍に毒されてないかこれ。







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