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目覚まし時計のメランコリ

朝でした。
小鳥がこやかましいぐらいにちゅんちゅんと鳴くほど朝でした。

その音に誘われてとあるアパートの一室でベッドの中に潜り込んでいた一人の青年が目を覚まします。
髪を橙色に染め上げ一見十代後半ぐらいの見た目。

「あー……」
その青年はうつろな目できょろきょろと目覚まし時計を探します。見つけました。それはベッド下でコナゴナに破壊されていたデジタル式の目覚まし(千九百八十円也、税込)。
破壊なんてものではすみません粉砕破滅全壊されていました。まるで事件現場です。

ヒビの入った液晶画面を見るとかろうじて目覚ましをセットしておいた時間が分かる程度でした。6時ジャスト。全壊

「……伊達ちゃん」
またかと何気なく一人ごちた言葉を扉の向こうの声が拾い上げます。そして扉がガチャと音をたてる。

「グッモーニー 起きんの遅えよ馬ぁ鹿」
「おはよう…また時計壊したね」
「知ーらねえ」
肩をすくめて悪びれもせずに片目に白い眼帯を付けた青年がいました。腰には黒いエプロン。
「オラ朝飯出来てんぞ。いつまでも寝てないで早く来い」
「…はーい。あ、その前に伊達ちゃん」
その堂々たるふてぶてしさに佐助は若干苦笑し、政宗を手招きます。
「…ん?なんだ」
「おはようのチューして」
「嫌だ」
さらりと言う佐助に政宗もさらりと拒みました。
一歩佐助のベッドから遠ざかりましたが、そうはさせないと佐助はじりじり近づきます。
「なんでさ、良いじゃん別に。ね?」
「ぜっっったい嫌だ」
するんなら鏡とでもしてろと言う政宗にえーそんなナルシストみたいなの嫌だよと言う佐助が腕を組んでいた政宗の手を無理やり引っ張って背中からベッドに倒れ込みました。

うわと驚いた政宗が声を漏らすのと同時に、ぼふっとベッドに沈みます。

「こ、この馬鹿!朝から何盛ってんだ、離せ!!」
じたばたと擬音が出るぐらい政宗は暴れます。そのうち数回は佐助のアバラにヒットしました。
うぐと若干呻き声が聞こえたかもしれませんが政宗はそれどころじゃないというようにさらに暴れます。

じたばた

「…ふ、少し痛い目にあったほうがいいんじゃないの伊達ちゃん…」

しかしそうは問屋がおろさぬぞよといった風に佐助が政宗をベッドに押さえつけました。
一見笑顔ですがよおく見ると青筋立ってます。顔に(倒置法

じたばたじたばた

「ざけんな!お前こそ痛い目見ろよクソ猿!!人間様に楯突くんじゃねえ!」

「は!好きなこと言ってなよ。そんなこと言われたって別にどうでもいーし。あーあ少しは年上に対する誠意ってもん見せなよね…このクソガキ」

じたばたじたばたぼかすかぼかすかぼかすかぼかすかぼかすか

はじめはちゅーしろという甘ったるい要求だったはずなのですが気付けばベッド上での大乱闘。
きっと二人の騒音はお隣さん家に丸聞こえでしょう。
だってこのアパート壁薄いもの。
近所迷惑にもほどがありますからね、よい子の皆さんはこんな大人になっちゃ駄目ですよ、全く。

「死ね!この××××!!」

「死ねって言われて誰が死ぬっての!絶対死んでやんない!!」

「×××!」

おっとなんということでしょう。怒りの余りに政宗は放送禁止用語(英語でね)をべらべら口に出しちゃってます。
これだと英語書かなくていいからとっても楽です。私が

さて、あーだこーだと色々言ってる間も言い合いはエスカレートしていました。
拳だけじゃなく枕や佐助が壊れた時計の替えに出しておいた目覚まし時計を至近距離でぶつけるわ投げるわやりたい放題ですこの2人。

枕が政宗の顔にぼふっと当たりました。
そのお返しと言わんばかりに政宗は佐助の顔面に枕、はオトリで佐助が避けるであろう先に目覚まし時計をぶん投げました。
「うぉおおおおお!!?」

しかしすんでの所で避けます。そして間髪入れずに後ろからガシャーンという甲高い音が聞こえてきました。
哀れ、壊れる目覚まし。

「あっぶね!何投げてんのさ!」
「Ah〜n?見てわかんねえのか、目覚ましだ!」
「何投げたのかは聞いてない!」
「あっそ」
ぷいと不機嫌そうにいや実際不機嫌なんですが(反語)、政宗は佐助から目をそらします。

(いらいらいらいらいらいらいら)

「……ああ、もう!」
じーっと睨みつけるように政宗を見ていた佐助ですが、政宗の沈黙にこらえきれずとうとう口を開きます。

「俺が悪かったからさー…拗ねないでよ伊達ちゃん」
佐助はぼふっと全身の力を抜いて政宗の胸に顔を置きました。

「拗ねてなんかねえ」
「はいはいそうだね拗ねてなんかないよね。あー疲れた…」



これにて朝っぱらからの乱闘は閉園。
ちなみに、政宗が作ったという朝食はとうの昔に冷め、そしてそれを食べる体力さえも残っていないふたりでした。




窓からはまだ小鳥がこやかましいぐらいにちゅんちゅんと鳴いています。




目覚まし時計のメランコリ
(やってらんないよ全く)






「ごはん、食べようか…」
「…ん」

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ…む!起きるのが遅いでござる。朝食が冷めていたので片しときましたぞ!そしてそれがし朝はパンより米派。」

「うるさい黙れ」


お隣さん家の幸村君はタダ飯食らい。








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