text | ナノ




かぜっぴき B

10分後。
「出来たよー」
「………………。」

ぼこぼこぼこと、泡を立てる土鍋を抱えて台所から佐助が現れます。
「…本当に食えんのか、それ」
政宗はそれを見て露骨に顔をしかめました。
熱しすぎ。
米砕けすぎ。
なんか色がおかゆの色じゃない。

男の手料理という所もなんとも言えないがそれ以上に体調の悪化につながりそうなものは進んで口にしたくないという表れです。

「えー酷いなあ、これでも頑張って作ったんだよ俺」
眉を下げ困ったように佐助が笑います。
確かに見た目は悪いと思うけどね、などとぼやきながら米が全体的につぶれてもはや原型が留めきれていないどろどろになっているそれを小皿へと移しました。

「ほら、これ食べないと薬飲めないんだから」
「…………」

(これ食べるくらいなら風邪引いたままでもいいなあ、と政宗は思ったとか)

「んじゃ言い方変える。片倉先生に会いたかったらご飯食べて薬飲みなさい」
「う、」

そう言いまるで子供をあやす母親のようにスプーンでおかゆをすくう佐助に内心オカンみてえとか政宗は思いながら、差し出されたスプーンを口にくわえようとします。が、途中であれ、と気づきます。

「…って、何普通に食わせようとしてんだ!」
「あ、バレた」
佐助に差し出されたそれを受け入れるため何の違和感もなく口を開こうとした政宗は、はっとしたように叫びました。

そしてベッドに沈めたままの体を起こし佐助からおかゆを奪いとります。
「自分で食べる!貸せっ!」
「えー……一回でいいから『はい、あーん!』ってしてみたかったのに」
そんなことされてたまるかと言わんばかりにがつがつとおかゆを口に詰め込む政宗をいまだ未練がましそうにじーっ、と見ていた佐助は終始無視。ちなみに見た目と反して味は普通だったそうです。

「Ha!そんなにしてえんなら真田にでもしろよ」
「……冗っ談。あの人、人使い荒いんだよ。一回頼み聞いてあげちゃうとすぐ調子に乗って、佐助!団子が食べたい!とか、冷えピタがぬるくなってきたぞ!とか、子守歌を歌え!とか薬なぞ飲まんでござる!とか色々うるさいんだから」

アンタ何様なんだとその記憶が頭に巡っていた佐助の顔はまるで苦虫を噛み潰したような表情になります。

「……ふーん」
「あ、食べ終わった?市販だけど一応薬も買ってきてあるから飲んで」
いつの間にか土鍋の中身はカラになっていました。それに気づいた佐助は片付けのためいそいそと立ち上がりました。


「薬、飲みたくねえ。佐助、お前代わりに飲んどけ」
「…意味ないでしょ、それじゃ」

「うげー……まじー」
「そりゃ薬は苦いもんだからね」
「苦い薬なんかこの世から消えちまえばいいと思うぜ」
「さいですか。」
「さいですよ。」

熱のせいか、何を言ってるんだと問いただしたくなるような意見をベッドに座ったままの政宗は言いますが佐助は軽くスルーしました。
「…それだけ軽口を叩けるんならもう大丈夫だね。大丈夫なようには見えないけど(頭が)」
後半は聞こえないように小声で憎まれ口を叩きながら、佐助は再度、政宗の額に手を当てて熱を確かめます。
そして、数時間前よりは若干引いたと感じ、内心ほっと一息つきましたが顔には出すことはありませんでした。

「……うっせえよ」
「はいはい、薬飲んだんならおとなしく寝なさい。」
そう言いながらベッドに寝かしつけようとする佐助にしぶしぶ従ってばたんと倒れこみます。

「ん…頭、ぼーっとしてきた、かもしんねえ」
「薬効いてきたみたいだね。この調子なら明日には治るんじゃない、風邪」
「……じゃねえと、困るんだよ」

政宗の声は段々と小さくつぶやくように変わっていきまぶたもうとうとと下がっていきます。
それでもたどたどしく言葉を紡いで、
「明日は…喋れなくても、いいから片倉先生…の顔」
見るんだと彼はうわごとのように呟いて、
そっかと佐助の出したそっけない返事が聞こえてきた頃にはすでに彼の穏やかな寝息が聞こえていました。

「おやすみ、伊達ちゃん。」







そして彼が次に目覚めた時には部屋の中はぼんやりと薄暗く、窓の外は夕暮れ時の赤に景色が段々と染まっていました。
「……ん。さ、すけ?」

目をこすりながらきょろきょろと部屋を見渡してみますが何の気配も感じられません。
その代わり、携帯をおもしにして一枚のメモが机の上に置いてあることに気づきます。
それには、

もう伊達ちゃん大丈夫そうだし帰ります。またおかゆ作っといたから夜にでも食べといて。
明日こそ片倉先生に会えるようにちゃんと体力つけときなよ

なんて、それなりに小綺麗な感じにまとまっているけどちょっとだけ右上がりな字で書いてありました。
佐助の癖のある筆記です。

「……帰りやがった」
メモを手にとり見上げながら政宗は眉をひそめます。

部屋の中にはまだ佐助の気配がかすかに残り、床には体温計や市販の風邪薬が点々と散らばる中、政宗は彼のことを思い浮かべました。
思い出すのはあの困ったような笑顔だけ。

「……アンタ、一応心配してくれてたんだよな」

そして、赤く染まる部屋の中で彼はただ一言ぽつりと呟きました。


次の日。
案の定、というかこんな話には定番のように見事佐助に風邪が移り、鼻声と泣き声が混じったような声で政宗は朝から電話ごしで助けを求められたとか。
そして、口ではずっと文句を言いながら彼の足が向かったのは学校とは真逆の道で。

「……あの馬鹿」
風邪治したって結局学校行けねえじゃねえかとしっかり憎まれ口を叩きながらも、自然と笑っていたのは彼すらも知らない事実でした。






風邪引いたら佐助はおかゆ作りそうなイメージが。
普段の小十郎だったら対抗しそうだけどこの話では伊達さんとあんま関係ないので出せずじまい。ちくしょう







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -