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かぜっぴき A

暑い、とまだ覚醒しきっていない頭がぼんやりとそう思い政宗は重い目蓋を上げます。
体はじとりと汗をかき、だんだんと息苦しさを覚えた彼はがばっとふとんから顔を出しました。その反動で来るひんやりとした風にふう、と嬉しそうに息をつきます。
すると、

「やっ、おじゃましてまーす」
そこには政宗のベッドの隣であぐらをかいて座っている佐助がいました。
「…なんで、いるんだ、アンタ」
それを見てぼんやりとしていた頭が急速に覚醒し政宗はベッドから起きあがります。

「なんで!どうして!どうやって!鍵は!?」
「ちょ、落ち着いてよ伊達ちゃん!一応病人なんだからさ」

そう言い佐助が慌てて政宗にふとんをかぶせて寝かせようとしますが暴れて言うことを聞きません。
「玄関鍵かけてあったろ!なんで普通に入ってきてんだ!?」
「大家さんに事情話して鍵貸してもらった」
にへらと笑いながら鍵をぶら下げる彼に政宗は勢いよくそれを取り上げふざけんな、と怒ります。

「帰れ馬鹿!人の病気暇つぶしなんかに使われてたま、ごほっ、ごほ!」
「ああもう…そんな声してるんだから叫ぶなって。熱は?ちゃんと測った?」
暴れる政宗を力づくで抑えてベッドに寝かせ、佐助は呆れたような声をもらしました。

「……測ってねえよ!」
顔をふとんで隠し、ふてくされたように政宗は叫びます。
「そんなに怒んないでよ伊達ちゃん……えっと、体温計」
きょろきょろと部屋を見渡して佐助は体温計を探しましたがどこにも見当たりません。
というか、この部屋物が極端に少なくないような気が

佐助は部屋を見回してそう気づきます。政宗の部屋には家具や日用品が極めて少なく、必要最低限の物しかありませんでした。
「……無駄なもんは置かねえんだよ俺は」
ふとんの中から話しかけてきた政宗に佐助は聞き返しました。
「ひょっとして体温計、無いの?」
「必要ねえ」
「……マジかよ」
このがらんとした部屋をもう一度見回して佐助ははあ、とため息をつき立ち上がります。

「ちょっとコンビニ行ってくるから」
しっかり寝てなよ、とベッド脇に無造作に投げてあった上着をつかみ佐助は玄関へと飛び出しました。

「……ごほ」
顔を半分だけ出してその後ろ姿を何も言わずに見送っていた政宗は、その背中が見えなくなったと同時に「ふん」と視線をそらし、またふとんをかぶり目をつぶります。

そして数分後あわただしく扉が開き、佐助が帰ってきました。
「ほら、体温計!」
レジ袋の中に手を突っ込み今買ってきたばかりのそれを政宗に手渡します。
もぞりとふとんから顔を出してごほごほと苦しそうに咳をする彼は心なしかぼんやりとしていました。

「んー……」
そのまま体温計を受け取り政宗宗はうつろな目で天井を見上げます。

「どうせ氷まくらもないんだろうと思って冷えピタ買ってきといたよ。ほら、額出して」
「……冷た」
ずっと火照っていた顔にひやっとした冷気があたり彼は驚いたように肩と体温計を揺らしました。

そして電子音が鳴り、政宗は口に加えたままの体温計に目をやります。
「熱は?」
佐助は政宗が口に加えていた体温計をつかみ自分の目線にまで持っていきました。
それには『38.5℃』という数字が並んでいます。

「8度!?」
「shut up…!耳元でうっせえ、馬鹿」
動くのが辛いのか天井を見上げたままじっと動かない政宗に佐助は慌ててごめん、と謝りました。



「何かしてほしいことあったら言ってよ伊達ちゃん。何か食べる?それともまだ寝てる?」
「……腹すいた」

なんか作れ、とつぶやいた政宗に佐助は立ち上がり意気込んで台所に向かいます。
「はいはーい。んじゃおかゆ作ってあげる」

しかしそのやる気とは裏腹に、がしゃんと何かが割れた音が響いたりそれに続いて佐助の悲鳴が聞こえてきたりと、絶え間なく騒がしい台所から政宗は目が離せなかったそうです。

「……頼むから食えるもん、作れ」








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