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拍手喝采満員御礼ではあらず

(さあさあ皆さまご一緒に、両手広げて笑いましょう!)












自分の知らない何処かの言葉を使って、楽しそうに両手叩いて笑う政宗に

「なにがそんなに楽しいの」
と佐助が聞く。

すると今度は嬉しそうに
「さあな」
と、一番政宗らしいといえる笑顔が佐助の視線と絡む。

「アンタはいつも楽しそうだ」
そんな気持ち、俺にはわからない(だって必要ないじゃないか)。
木の枝にぶら下がり逆さまになった政宗の笑顔を見つめた。

一体なにがそんなに楽しいのだろうか。こんな時にはなんの助けにもならないこの頭を、それでも頑張って絞ってみれば答えが出てくるのかもしれない。しかし佐助は考えようとも思わない。
そんなことは知る必要なんてない。そう思ったからだ。

なんでアンタってそんなにわからないことだらけなのかね。小さく漏らしてもその言葉は目ざとく政宗に拾い上げられる。

「why? 何故とか理由なんて、そんなこと聞いたってわかるもんじゃねえだろ。それともアンタはなんでもわかるのかい?」
それこそ、まさかだろう。
仕事柄そっちの方が便利なんだろうけど俺にだって知りたくないことぐらいある。使えるものはありがたく使わせてもらうけど
そう佐助が毅然と答えると
「だろうよ」
政宗がさもありなんと頷いた。

変な奴だ。自然と佐助はそう感じた。
しかし、それもそう感じるのは無理ないのかもしれない。
政宗は佐助が今のように敷地内に何度侵入してもなにも言わないし誰も呼ぼうともしない。
まさに今のように双方実りのない会話をぽつぽつと話すだけだ。

少しぐらいは警戒してくれたほうがこっちとしても楽しいんだけど。
そんなことを思うくらいに。

「ねえ、殺さないの?こんな絶好の機会なんてもうないかもしれないよ」
まっすぐに伸ばした手を獲物に見立てて自身の首に当ててみる。でなければその腰に下げた六爪はなんのためにあるのか。

「興味ねえ」
しかし政宗は腕を組んだままいつもみたく、にやにやと楽しそうに笑ったままで(そんなに笑う人だなんて知らなかった)。

「そういうアンタはどうなんだ?」
俺を殺すか?と佐助の腰に下げた獲物に視線を向け、政宗は抑揚のない声で質問を返した。
「え、俺?」

どうだろう。
そりゃ俺もそうしなきゃいけない立場だし。個人的にはほんの少しくらいなら興味あるけどでもやっぱ大将のこともあるし。旦那は怒るだろうけど。やだなあ。この人がいなくなれば俺の仕事もぐっと減るだろうし、旦那の世話だけ(本当はそれ俺の仕事じゃないんだよ)すればいいんだし。ああそれだけでもちょっとは救われる。
あれ、でも。それでも


「俺も、興味ないのかな」
「……へえ」
一瞬目を見開き、しかしすぐに目を細め政宗は笑った。
砂塵とただ赤が舞うあの場所にいるアンタしか知らなかった。こんなに幸せそうに笑えるなんて考えたこともなかった。今さらになって考えるとそんなの当たり前なのかもしんないけど。
アンタを殺すのは俺じゃない。

政宗のそんな無防備な笑顔を見ていても、不思議なことに佐助は笑おうとはしなかった。
何故か笑わないし、笑えない。
これじゃあいつもと逆じゃないか。

「……変なの」
あ、口に出てた。
呟いた言葉を再度政宗は拾い上げる。
「そう、かもな」
そして何か歯切れ悪く言葉を紡いだ。

普段の佐助なら何かしら返事を返していたがその時、不意に感じた釈然としない気分の悪さに佐助は反応を返すこともなく政宗から背を向ける。
背中ごしに何かを告げようとしている気配に気付いたがそのまま音も無く次へ次へと木に飛び移り帰路を急いだ。


暗い暗い空の下、佐助は道無き道を走る。
どこに向かってる?そんなの決まってる。帰るんだ。

あの場に残り話してしまいたいことはあった。
政宗が何を告げようとしたのにも興味はあった。

しかしあのまま政宗の前にいたらきっと佐助の中の何か大切なことが変わっていたのだろう。
今も昔も死期さえも佐助の帰り道はひとつなのだ。赤く赤く勇ましい愚直なまでにまっすぐな主の元が。

それなのに脳裏に浮かび消えようとしないのは綺麗に染められた憎らしいまでの空の色。

その色はあと数刻もすれば佐助の視界を染め上げるのだろう。
佐助の大嫌いな時間がやってくるのだ。
主と政宗が眩しく輝く日向の時間が。
日陰の自身にわかるはずもない時間が。

思わず立ち止まり大切な主の顔さえ今は思い出したくなくて佐助はぱちりと目を閉じた。

そして思い浮かぶ。
思い浮かぶのは主でも同郷の忍でもない。
佐助の頭を占めるのはただ一人。

口端を軽く上げて笑う。そんな政宗のあの笑顔はおかしなことに嫌いじゃないのだ。
多分佐助はまた政宗の元へと足を運ぶのだろう。誰に拒まれたって知るものか。佐助はそう思いながら立ち止まるのを止めた。
動き始める視界に目もくれず佐助は歩を進める。

どれだけ急いだって、こんな情けないことを誰かに言うほど落ちぶれたつもりもないけれど。















「…また来たよ」
「hello」

また佐助の知らない何処かの言葉を使って、楽しそうに両手叩いて笑う彼に向かって

「なにがそんなに楽しいの」
と聞いた。

すると今度は嬉しそうに、にやりとではなく、にこりと
政宗にしては珍しく人なつこい笑みを浮かべる。不思議とその笑顔はとても似合っていた。
そして怪訝そうに眺める佐助に両手を叩いて大きく広げて叫ぶ。

「アンタが隣にいるからさ!」












珍しく佐←政ちっく。
そして佐助さんこうやって何気に会いに行ってる癖に会いに行く理由に気付いてない。鈍感佐助にもえ。







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