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この4文字を飲み下せ(言えるわけがない、「愛してる」だなんて)

「あんたが嫌いだ。」
「俺は好きだぜ。」
「俺は嫌い。」
「その目も手も口も髪も声も、みーんな好きだ。好き好きラブラブ愛してるぜ佐助。」
にぃ、と彼の独眼竜は笑う。そのしたり顔が嫌いなんだ。反吐が出る。
そんなこと、あんたにだけは言われたくないんだ。
「気持ち悪い。」
「Love.」
「そんな言葉使われたって忍なんかにゃわからねえよ。」
「sorry, あんたに惚れたって意味さ。」
「馬鹿々々しい。」

なあ、誰の目にも触れずにさっさと死んじまえよ、独眼竜。
「あんたなんか、大っ嫌いだ。」
そんなことを言われたって俺の手から得物は消えないし、あんたの手からも竜の爪は消えたりはしない。互いに首に突き付けた刃の鈍色がその存在を主張するかのように光っていた。竜の吐く、脳の味噌がとろけそうなほどの甘言は、病のように俺の頭を浸透していく。戯言を吐かれる度にじわりじわりと心地の悪い物が解かれ、握りしめた得物が消えていく幻覚に陥る。伽藍堂の手のひらに竜は何を願えというのだろうか。甘い毒に狂った頭を抱えて、全てを忘れたいと溜息を吐きだした。
奥州の竜は毒すらも吐けるなんて、あんたこそ人でなしだ。
気づけば竜の瞼は閉じられていた。戯言が終えば問う事も答える事も何一つ交わされる事はなくなる。爪が首から離れるならば、それが終いの合図だ。俺は踵を返すだけで良い。後ろ髪を引かれる想いなんて感じる訳もないのだ。
片目を閉じた竜にかける言葉も馬鹿々々しい愛の羅列もあるわけもない。左様なら。その言葉さえもこの空間には似つかわしくない。

超えられない線を戯れに覗こうとするのは馬鹿のすることだ。
握りしめた得物を放り投げその体に触れたいと請うのは馬鹿のすることだ。
嫌いと自ら吐きだした毒に心を痛めつけるのは馬鹿のすることだ。

あんたの戯れに踊らされる馬鹿は俺だ。

「俺はあんたが、嫌いだ。」
「偶然だな、俺は好きさ。」
嘘つきのあんたに付き合わされて、嘘を吐くのはもううんざりだ。



【報われない恋で10題】
嘘つき伊達と踊る佐助。









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