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狐のはなし B

「まあ…うまいな」
「でしょう?」
気恥ずかしげに顔をそらす政宗の目を覗こうと首を傾げて佐助は嬉しそうに笑いかける。その嬉しそうな笑顔に思わず口元が緩んだ。
「あはは」
「…ははっ」
「あははは」
「はははは」

「「あははははははははははははははははは!」」

そろそろ笑いを抑えようとした。しかしそこで二人は気づく。おかしい、俺はこんな爽やかに笑うようなキャラじゃない。もとい笑いが止まらない。

今の二人には知る由もないがこの原因は度々佐助が言っていた家の裏に生えていたというキノコである。実にこのキノコ、毒はない。ないのだが一つだけ困ったところがある品種なのである。このように笑いが止まらなくなるという奇行が起きるという。

所謂ワライダケでしたと。

「うあっはははははははははははは!ひゃは!ひゃははははははは!し、死ぬ!笑い死ぬ!くふふふふふうひひひひひひひあはっあははははははははははははははははははははは!!」
「あ、アンタっ、何食わせてんだ…ひ、はははははははははははははははははは!ひっ!ひっひっひ!うひゃっははははははははははははははははははは!!あひっ!ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」
半ば呼吸困難で涙目な二人。
ひいひい言いながら顔を上気させてなおかつ手足をバタバタさせて笑い合うふたりを客観的に見ると、ちょっと怖い。しかし本人の自由意思で笑っているわけではないのでそこはご了承いただきたい。

〜というわけで二人が落ち着くまでお待ちください〜

「…いっそ殺せー…あはは…!」
「……アンタが死ね…ふ、ふふふふふ…!」
「食べれると…ひゃはっ…思ったんだけどなあ…んふっ…んふふふふっ…ふふふふ!あはははははははははは!!」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」
落ち着きませんでした。

某所人里離れたとある山ではその日薄気味悪い笑い声が絶えず聞こえていたとか。

次の日。
太陽は煌々と昇りちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聞こえる清々しい朝である。
「………………」
「………………」
しかし一睡もしていない側としては腹立たしいことこの上ない音声でもある。
ついさっきようやくキノコの効果が消えたらしい。喉は痛い。腹も痛い。顔も痛い。というかもう全部痛い。痛くないところを探すほうが大変だ。そんな有様。
「な、なんかその…大変だったよねー…」
「……はあ?大変だったよねえ?ああ!?そうだよ大変だったな!どの口開いて言ってんだこの馬鹿!!」
「うわああああああああああごめん!ごめんね!怒るのももっともだと思うけど怒んないで!怒られんの俺様嫌い!」
「うるせえええええええええええええ!」
今にも掴みかかりそうな政宗を必死になだめる佐助。しかし無情にも政宗はすでに臨戦態勢。標的佐助に目がけ拳という名の砲撃用意。発射。
あ、これ殴られるわと佐助が身構えた瞬間。

ぽん。そんな音がした。
あわや拳がぶつけられたような音ではない。
痛みなんてあるわけもない。
その音は実は政宗が佐助が自分の命の恩人だということを思い出して急きょ弱々しいパンチをしたとかいうそんな話ではない。もう一度言う。そんな話ではない。
そもそも佐助は殴られていない。
そして政宗も殴ってはいない。殴りかかろうとはしていたが。
つまり政宗の拳が佐助の頬にジャストインパクトする直前にそこにあったはずの体が消えて現れたというわけである。
思わず狐の姿に戻ってしまった佐助が。








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