text | ナノ




惑星は嘘に染まりました


・三週間遅れのエイプリル
・伊達さん電波障害
・元親好きに謝らなければいけない内容
・当たり前のように現代
・惟兎さんにこっそり捧げます











「俺佐助の正体知ってるんだぜ。」


と伊達が不意に言い出した。目の前に座る男のそのドヤ顔に、エイプリルフールも数日を過ぎているのにこの男は何を言い出すんだと皆が皆顔を合わせている。学生達で賑わう夕方のマクドナルドの店内でこの一角だけ雪が降ったかのようにしんとしていた。

それは一体何の話ですかと皆が口を揃えて問いかけると本人に聞けとばかりに伊達の指は俺に向けられる。

今日がエイプリルフールと勘違いしているのか。彼らの頭にはそんな考えが流れているに違いない。そんな馬鹿なと俺は間髪入れずに頭を振る。
何故かって?そんなもんそこでビッグマック食ってる幸村に『実は俺達女だったんだ!』なんて下手な女装をしてからかいに行っているからだ!

何故女装したのかと聞かれれば、「若さゆえ」としか答えられない。
楽しかったと言えば楽しかったが、正直もうごめんです。


四月の初日。閑静な住宅街を歩く幸村の前に女子高生、魔女っ子、スク水、メイド、ナース、ゴスロリの集団が現れた。言うまでもない、俺達だ。
おかしな集団に囲まれる異様な光景に慌てふためく幸村にネタ明かしをすると彼はいつものお決まりの台詞を吐いた。「破廉恥だ!」

嗚呼素晴らしきかな青春模様。笑い合う俺達には清々しい気持ちさえ生まれていたのに、周辺住人さんにはそうとは思われなかったらしく。

変質者として国家権力へと通報されてしまいましたとさ。


「ぎゃあああああああああ!」


何をやっているんだ!と鋭い声に後ろを振り返ると警棒を持ったおまわりさんがやってきて、地面に座り込んでいた幸村を皆で引っ張り上げて、俺達は悲鳴と共に逃げた。

仮装パーティー(with真田)は走り、おまわりさんはそれを追いかける。


一見可憐な少女達を追いかけ回す暴漢者の図にでも見えたのかもしれない。なにせ俺達はゆるふわのかわいこちゃんだ。

目の前ではゴスロリツインテの慶次に手を引かれ女子高生政宗は膝上20cmの校則違反並のミニを押さえつつ逃走。前ばかり気にしているせいで青いボクサーパンツが見えている。それならまだいい。でも慶ちゃんのガーターはいただけない。お前は隠せ馬鹿野郎。

そして隣でぶつくさ言いながら並走する元就はヴィクトリアンメイド(分からない人はググろう)でとても清楚。長いスカートを両手に握らせ裾をはためかす姿はまるでお仕事中のメイドさん。「話が違うではないか」と氷のような瞳で俺を睨んでさえいなければ。違うんだ立案者は俺じゃない。

政宗君はまた不思議なことを考えたねと、そんな俺の心は純白ナースの半兵衛に代弁された。
改めて半兵衛の姿を眺めると、なんともいえない気分になる。普段女子にきゃあきゃあ言われている中性的な魅了(かっこわらい)が何故か女の子としての魅了(少々たくましいが)にシフトチェンジしているからだろうか。性別とは何なのか。
そのせいで幸村君が若干半信半疑というか、俺達の嘘に気づけていないような気がするんです。

ああ後ろで走るおまわりさん。俺達のケツを追っかけるのもいいけど、それ以上にケツを狙っている輩がいるのでそっちを先に逮捕してくださいおまわりさん助けてくださいおまわりさん。


「……リアルタイムで貞操が危ない!」
「随分と余裕じゃねえか。」


横を向くと生足魅惑のすね毛を惜しみもなくさらけ出し、肩を上下息を荒げるスクール水着が目に入る。「………………。」半兵衛が男を見事隠しきった男の娘なら、この男は自ら溢れ出す『雄』を隠すことの出来なかった正真正銘の男だったと、こんな状況なのに冷静に判断してしまった。

水の抵抗を減らすために肌の露出度を高めた衣服は無駄な肉のついていない彼の端整な肉体のラインを紺色に煌めかせていた。世の男性を魅了する胸元部分はそれはそれは逞しく発達した大胸筋が収められており、手書きで書かれた『もとちか』という文字がパツパツに伸びていて、本来成長期の女の子が着るための物だと実感させられる。

何より嫌でも下半身に目が行く、逆三角形。

筋肉のせいで下部分の生地が明らかに足りていない。フィットしすぎ、出る、どっちが出るとか何が出るとか野暮なことは言わない。言わないが、ただ、このまま走っているとおまわりさんの目の毒になる。


「……親ちゃんよ、視界に入るな、馬鹿野郎。」
「お前さっきまで笑ってたじゃねえか!」

というか魔女っ子に言われたくねえよと元親は俺を指差す。うるさいうるさい伊達ちゃんがアンタ魔女宅のキキみたいだとか電波を受信したんだそんなの期待に応えるしかねえだろうが!
ふわりとチュールを重ねたスカートに大胆に二の腕をさらした真っ黒魔女スタイル……意外と似合うと思わないかい親ちゃん?

「髪おっ立てたままはどうかと思う。」
ですよね。
にしても若くて良かったと思う。息も荒いし苦しいけど、走りながらこんなことを話していてもおまわりさんは俺達に追いついていないようだ。
第一冤罪だ。ちょっとレベルの低い女装をしたからってなんで追いかけられなきゃいけないのでしょうか。目の毒だからか?それならしょうがない。
「おい佐助!」

とても納得した。横を向き、うんうんと頷いているとくるくる巻かれた髪を揺らしながら政宗(ウィッグ装備)が声をかけてきた。
あらなんだか本当の女の子みたい。声は太いけどときめいたことは否めない。


「こっち、来い!」
「へ?」


慶次の手を離し、そのまま俺に伸ばされた手のひらを見つめると何が楽しいのかえくぼを出して笑っている。手を重ねると強く前に引っ張られた。こけそう。


「どうしたの?」
「なあ佐助。」
「ん? なあに。」


呼ばれた意図も分からないまま彼は知ってるかと俺を見る。面倒だからとメイクもせずに女装してるくせにまつげがしっかり上を向いているなんて、世の女性に喧嘩を売っているとしか思えない。そのくせそんな格好をしたって君の手のひらやウィッグの陰からのぞかせる喉仏はどこまでも男らしい。
そうだ、普通にしてたら君はイケメンだ。


「水星ってほんとはオレンジ色なんだ。」


電波さえなければの話ですが。
はあ、と生返事を返した。どうせいつものことだし、握られた手のひらが酷く熱くてそういうものかと思ってしまうのは、走ることを想定していない格好で走り回っているからだろう。有り体に言えば、脳に酸素が行っていない。
遠く後ろの方でおまわりさんはいまだ逃走中の俺達を追走中だった。どれだけ走ったのかももうわからない。それなら考えることを放棄するのも上昇する熱に浮かされることもしょうがないことのように思えた。


「………………。」


にしても水星はオレンジ色、なんて実に不思議なことを言ってたなあ伊達ちゃん。
目の前でシェイクを吸う彼を頬杖をついて眺める。水星がそんな色してるなんてまあ随分とロマンチストなことを……


(…………あれ?)
改めて思い出すとそれはなんだか聞き覚えのるフレーズだった。
目の前で(慶次の)ポテトをつまむ政宗の顔をもう一度眺める。

(水星ってほんとはオレンジ色なんだ)


「…………。」
聞いたことが、ある。馬鹿げた言葉なのに既視感にこめかみをぶん殴られた。こないだじゃない、もっと古いいつか、誰かが言っていたような気がした。


「やはり猿飛は猿か。」
「違うよ神経質そうだしタコだよ、そうだろ政宗。」
「じゃあ俺インコ。」
「佐助は団子だ!」
「お前それ願望だろ。」
「僕も毛利君と同じで猿だと思うよ。」
「半兵衛が言うと違う意味に聞こえるなー。」
「うるさいよ慶次君。」


「………………。」

まあ忘れているんだからそのままにしておくとして、というか人の正体を勝手に考えるんじゃない。俺は人間です馬鹿やろう、と口を挟もうとすると政宗がさらに追撃をしてきた。


「残念。正解は宇宙人です。」

「ど、」


どんだけ電波なんだよ!シェイク片手にそんなこと言われてもはいそうですよと俺は認められませんよ伊達ちゃん。そう訴えてみても彼は素知らぬ顔で(慶次の)ポテトを食べている。


「……ねえ、俺って人間に見えない?」
「見えるよ。」
「見えるよねえ。」


彼の隣に座る半兵衛に視線を向けると彼はフルーリーを食べながら頷いた。トレイの上を見るとマックフルーリーと野菜生活しかなかった。女子か。しかも政宗の出したえびフィレオの包み紙を丁寧に畳んでいる。俺が人外とかそういう話よりもこの男の女子力の高さに話題を変えたい。俺もう疲れた。


「佐助は宇宙人なのか。」
「違うってば。」
「頭もオレンジだしなー。」
「うるせえゴスロリ。」


ひっでえ!と大げさに悲しむ慶次を放置。俺の今の立場に比べたら一回の暴言がなんだ。いい加減人間になりたい。


「それで俺は太陽。」
「え、」


人外二匹目出ちゃったよ!と笑い出す周りに釣られるつもりが、一つ、今まで引きこもっていた思い出が顔を出した。
水星、オレンジ色、太陽、欠けていたピースがかちりとはまった音がする。


それは忘れていたのも不思議なくらい鮮烈な記憶だった。
幼い頃の、馬鹿みたいな記憶。
君と二人だけの秘密の記憶。
















知ってる?と俺は君の名前を呼んだ。
太陽の隣にある水星って星はね、どの星よりもあったかい太陽に近いんだ。
え?最近理科で宇宙について習ったから知ってるって?
うん、そうだね。俺も習ったよ。

じゃあ伊達ちゃん、俺しか知らない秘密を教えてあげる。
ね、びっくりしないでよ。

君は太陽で、俺は水星人なんだ。

………………。
ええ?おかしいことなんてないでしょう。
だって、君がいつもそばにいるから俺の髪の毛はおひさま色に染まってしまったんだよ。
おひさまは赤色じゃないのかって?
夕日の色を想像してごらん。
きれいなオレンジ色でしょう。
ほら、これで分かってくれた?
俺の髪はね、君に恋をしたから橙色なんだよ。







「……………う」
そだろと小さく呟くと政宗がこちらを向いたような気がする。そんなことより思い出したやばい思い出したこれ、幼い俺こっぱずかしいぎゃあああああ!
というか電波野郎俺じゃねえか!

好き?恋をしただあ?恥じらいを覚えた思春期にそんなことを言えるほどに俺はこの男を好きだったのか?
古すぎて、そんなこと何も覚えていやしない。


そりゃあ小さい頃は素直で笑顔も可愛い子だったかもしれないけど、いっつも電波でエイプリルの時みたいに馬鹿なことを考えるのが大好きで人を振り回す迷惑な男の何を好きになれと!
……まあその、どれだけくだらないことでも成功すると馬鹿みたいに喜ぶから俺達も協力をするのですが。いつまでも童心を忘れない友人がなんだかんだと皆は好きなのでしょう。

そういえば笑顔は昔のままだから、もしかして無意識のうちに好きになってるとか、まさかなあ。
試しに目の前を向くと記憶と被るあの笑顔。
おや、心拍数が上がっているぞ、俺。


(これはもしかして、そういう意味、ですか?)


…………。羞恥に赤く染まる顔を手の甲で隠してみるけどそんなもん焼け石に水だ。急に固まった俺に皆の視線はすでに向いている。

絡みつく視線を振り払い、通路の隅まで政宗を手招いた。
「だ、伊達ちゃんちょおっと耳貸して。」

昔のあれ覚えてたのと恐る恐る聞いてみると、にやりと口の端を上げて彼はよう水星人と俺のことを呼んだ。無情だ。思わず腰が抜けそうになるがゴミ箱の存在に助けられる。


「いつ思い出すか楽しみだった。」
「人の古傷をそんなゲームみたいに……。」

羞恥というナイフをざくざく刺され、俺はまるで黒ひげ危機一髪のような気持ちなのに彼はあっけらかんと笑っている。
やめてください。残った穴はひとつです。もうこれ以上は無理なんです。

それなのに「で、その髪の色。」と彼は指を指した。結果がどうなるのか分かっているのにナイフを突き刺そうとしている。い、意地が悪い、意地が悪い、アンタ意地が悪い!


「水星人は今でも俺に恋してるのか?」

「……さ、さあ。どうだろうね!」


こんな男が好きだなんて、それこそ嘘であってほしかったです四月馬鹿。





大学生設定でした。
現代設定だとみんな仲良くしてるのが楽しいです。
(三成君出したかったけど似合いそうなコスが思い付かなかったんだと言ってみる)


ブレザー伊達さん、魔女っ子佐助、スク水元親、メイド元就、ナース半兵衛、ゴスロリ慶次…に囲まれる真田くん、かわいいと思います。

ちなみに水星人がどうのこうのという部分は徹頭徹尾嘘っぱちですやりすぎた。


書けなかったエイプリル余談。
近くに置いてあった慶次の車でおまわり振り切っちまおうとみんな車に乗り込む
→一人乗り損ねたスク水元親が交番まで連れていかれる
→職質
→みんなで事情を説明して釈放。

なんてハートフルな出来事がありました。
スク水姿でおまわりさんと話し合う元親、素敵。


なにも考えないで書いたら残念な話になりました。全体的に意味がない。
佐政だと思います、佐助の潜在的な片思いとかです多分。




>>惟兎さんへ

エイプリルに電波な伊達さんを書くつもりがなんか気持ちが悪い集団の話を書いてしまいました…
全体的に頭が可哀想なやつらです。
あと元親の扱いがとてもおかしい。
でもバサラメンツが現代にいたら多分こんなんだと思います反省はしているwww

エイプリル話を書く気力を与えてくれたあなたにこっそり捧げます。
いらない場合はスルーでww







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