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君らしい笑顔、尖った唇

『これでも純情』の続き、相も変わらずオタクな伊達さん(♀)。
と、彼女に恋をする佐助の話。
CUBEさんへ捧げます。





「伊達ちゃん、こら」
俺が片思いをする彼女は、今日も今日とて妄想に勤しんでいるらしい。せっかく二人で出かけているというのに、急に黙り込んだかと思えば、道行くイケメンを眺めては何かを呟きはじめる。今日は優男と線の細い神経質そうな男の組み合わせか、彼女の中ではどっちが攻めでどっちが受けに変換されているのかな。知り合いに似ているような気がするけども気にしない。必修科目で何度か顔を合わせたような気がするけど気にしない。
罪悪感などどこへやら。
最近では彼女のライフワークでもある妄想には、俺が被害に遭わなければ彼女の好きなようにさせていた。これも表現の自由だ、彼女の個性だと目を瞑る。
恋は盲目、都合の悪いことにも盲目に。
それでも犠牲となった彼らへの多少の罪悪感に、こうやって注意はするのだけども。

「今日は神経質攻×優男受にする」
「ああ、そう」
すまないI君T君、君たちのことは忘れない。彼女の脳内で思う存分痴態を晒してやってくれ。
「……。心が痛いよ伊達ちゃん」
「俺は今幸せだ」
「でしょうね」
どうして知り合いの痴態を想像、いや妄想しなければいけないんでしょうか。しなければいいんでしょうけど、生憎隣にいる彼女が妄想を垂れ流すものですから、イメージが次から次へと頭の中に流れ込んでくるんです、ええ。
ちらりと彼女に視線を向けると、とても幸せそうな顔で頬を緩ませているものだから、喉へやって来たため息は飲み込むしかない。

(俺にだって好きな子くらい、いるんだよ)

「…………。」
彼女はあの言葉をどう捉えたのだろう。答えは無いまま、彼女は何食わぬ顔で俺の隣に寄り添う。何も聞かない俺が悪いのだろうか。ただ一言、君が好きだと言えば答えは返ってくるのに。
それなのに、君の友達としての立ち位置さえも失ってしまうことが、酷く恐ろしい。
無防備に笑う君が好きだ。
好みのシチュエーションを思いついてにやりと女の子らしくない、でも君らしい笑顔になる君が好きだ。
綺麗な切れ長の目が細く閉じて、眉毛も八の字に動かして、三日月みたいに唇をにいと伸ばして、前歯をちらっと見せる、まるで子供のような君の笑顔が好きだ。
君の笑顔をこれからも一番近くで見つめていられるのは俺でありたいのに、いつだって臆病な心が邪魔をする。
佐助、と俺の名前を呼ぶ君の形の良い唇に、何度触れたいと望んだことだろう。他の男の事を考え肩を震わせる君に、何度その背に手を回し、俺だけを見ていてほしいと望んだことだろう。
俺の葛藤を知らない君は、今なお妄想の世界に潜り込み、綺麗に微笑みつつイケメンの絡みを堪能している。
そんな顔さえ魅力的だと心が揺れるのは、惚れた弱みというやつだろうか。
それでも、決しておもしろい物ではない。

君を笑わせられるのは、俺だけであってほしいのに。

彼女の名前を、音にはせず、呟く。
他の男なんて、見ないでくれ。俺の方を向いて、笑って、俺の名前を呼んでほしい。
いい加減君の返事を知りたいと、燻る想いを持て余している男がいることを、気づいてほしい。
そんな願いを、俺はあとどれだけ抱えていれば良いのだろう。

「…………。」
彼女の妄想はまだ終わらないようだ。
「神経質な方が優男の肩を引き寄せて、告白して、照れた表情もあなたは綺麗だ、なんて歯の浮くようなことを言ったら萌えるな……良いなこれ……なあ佐助、あんただったらこのシチュでどんな告白の言葉を吐かせるよ?」
「君が、好きだ」
「……お、『好き』ねえ。ふうん、随分ベタだなあんた。でも普段は無愛想なタイプがそんなこと言ったらギャップにやられるか……」
「違う、そうじゃない」
不思議そうな顔をこちらに向ける君の細い肩に触れ、引き寄せた。一つしかない彼女のガラス玉は俺の情けなく、それでも真剣な表情をしっかりと映し出している。
そんな顔をするな、勇気を出せ、猿飛佐助。

「俺は、君が好きだって言ってるの、伊達ちゃん」

君があの時みたいに、照れた顔をしたって、俺はもう、後へ戻る気はない。
君の肩に頭をうずめて、返事を待つ。彼女の照れた顔は見たいけど、それ以上に自分の照れた顔を見せたくなかった。中学生の恋愛じゃないんだから、もっとましなことを言えば良かったのに。そんな後悔ばかりが心の中にやってくる。
それでも、このままずっと手を取りあって、君の笑顔を眺めて過ごしていけたら、俺は誰よりも幸せになれると思うんだ。そんなことを言ったら君は笑うでしょうか。その前にこの真っ赤な顔をどうにかしないと、いつまで経っても君の顔が見れそうにないけども。
「……ねえ、今回も、返事はおあずけ?」
肩の上から彼女の顔をのぞき見ようと視線を上に向けると、彼女も顔を赤らめてこちらを見ていた。端整な顔が、君の片方しかない目が、僅かに揺れているような気がした。どうしたの、そう声をかける俺の言葉は彼女の声にかき消される。「冗談、だろう?」
彼女の肩から顔を上げ、真正面から見たその顔は、君を好きだと知ったあの日の、綺麗なままで。
それこそ、冗談だ。
君が唇を尖らせて照れる姿が、どれだけ俺を駆り立てているのか、君は本当にわからないのだろうか。

「こんなこと、嘘で言えやしないよ」
「あんたと付き合ったって、俺はこの趣味を止めたりはしない」
「君の個性だものね」
「あんたを妄想に使うことだってあるかもしれないぜ?」
「ええ、構いません」
「あんたと誰かを脳内でくっつけることだって、あるかもしれないのに?」
「妄想の中の男に負ける程、俺様は落ちぶれてはいないよ」
「ああ、そう。じゃあ、ええと……」
「ねえ、もう良いでしょう」

耳まで真っ赤に染まった君の頬に、ほんの一瞬、唇を寄せる。俺の顔もきっと真っ赤だろうけど、今日はお互い様ってことにして、一緒に帰りませんか。もちろん、手をつないで。

「……帰り、コンビニ寄る」
「いいよ、行こうか」

君の妄想癖も、ちゃんと許容するから。
きっと君は簡単には好きだと口に出してはくれないだろうけど。
君に萌えは与えられないけど、誠実な彼氏として、ちゃんと隣にいるから。
ずっと妄想されるときっと寂しくなるから、たまには俺に構って。
そして、そして。
君の妄想の中に俺と、君の姿が共にあればいいな、なんて。
俺は酷く馬鹿げた妄想をしてみた。



佐助くん念願の両想いになれました良かったね話。
伊達さんはこれからも妄想は欠かさないと思いますが、隣に佐助がいる時は今までよりも若干自重するようになりました、若干。
良かったね佐助。

きゅ、CUBEさん、好き勝手に書きすぎたのですが、少しはご希望に添えれたでしょうか…!
乙女化甚だしい佐助が頑張ったおはなしですが、伊達さんが三次元もいける強者腐女子さんですが、受け取っていただけると嬉しいです!








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