text | ナノ




marry me?A

04

「……以上があんたのところでやった調査結果だ」
佐助は報告を終え、竜の表情を盗み見るが眉間の皺がその結果に満足をしていないことをありありと告げている。
「おい……そんな顔をしないでくれよ独眼竜。俺様だって俄かには信じられねえ話だけど、今までの騒動と確かに辻褄は合うんだ。まず、そのいち。あの穴はこことは別の日の本に繋がっていて、俺達のことを知っている。そのに。向こうの『さんじげん』?って所では俺達が人気で結婚したい女性が多々存在していて、とうとう結婚を申し込みにきた。そのさん。これは一度も結婚していない者に限る。ほら、各地で婚姻が進んでいる理由もこれなら納得いくだろう」
「……確かな情報か」
「ああ、あの女の知ってることは全部吐かせたつもりだ」

「ただし一つ問題がある、独眼竜。独り身の武将の所には、空から人が現れる。つまり今回の騒動、真田の旦那の問題は解決する方法がなく、俺様もあんたもいまだ標的ってことだ」
政宗は眉間に深々と浮かび上がる皺を緩め、落胆と困惑、そして少しの安堵を溜息にした。
「ま、害が無いってことが分かったんなら上等か……」
「害ねえ……。なあ、あんたは知らねえ誰かと結婚したいのか?」
「No! 生憎女に現を抜かしている場合じゃないんでね。あんただってそうだろう?」
「俺様は元より結婚なんて出来る立場じゃないっていうか」
「つまり知らねえ奴とするつもりはねえんだろ」
「……まあ、そういうことになるかな」
この騒動の原因を知るも互いに『さんじげん』の住人に標的として見られることに変わりは無く、佐助の情報も根本的な解決は至らずに徒労に終わった。
「旦那の件は、まあ本人の自由意思に任せるとして。なあ色男、あんたはどうするつもり?」
「小十郎にでも警備の強化をしとけって言えばなんとかなるだろ」
「だと良いけどね」
前田の風来坊はともかく、城内で日々政務や鍛錬を行う彼らの元に『さんじげん』から来た彼女達は突如現れ、婚姻を結ぶ所までこぎ着けているのだ。警備はあまり意味がないのだろうと佐助は溜息を吐く。
――じゃあ、残された手段はひとつか。もっと利口な解決策があるのかもしれないが、佐助の頭に思いつくものはこれしかなかったのだ。単細胞、滑稽だと笑わば笑え。目の前の男はその端正な顔をどのように歪めるのだろうか、そんなことを想像すれば佐助の不安はどこかへと飛んで行ってしまう。そうして、忍の腹は据わった。

「ねえ旦那。あんたはこの結果に不満があるだろうけど、働いた分の報酬はいただきますよ」
「……しゃあねえな。何が欲しい? ちゃんと頑張ったあんたへのご褒美だ、少しくらいなら弾んでやるよ」
「金かい? いいやそれも魅力的だけど欲しいものは物じゃない」
「Ah?」
「独眼竜、俺もあんたもこの騒動から抜け出せる方法があるんだけど、協力してくれるだろう?」


03

「ああ、怖かったよな。悪い、ついやりすぎちまった」
任務も終わり今すぐにでも政宗の元へ戻ることも可能だったろうに、佐助はこの場に残る選択肢を選んだ。目の前で腰を抜かした彼女を哀れに思ったか、それとも事情を聞き敵意をぶつけるのも馬鹿馬鹿しくなったのか、とにかく佐助は怯え震える彼女と目を合わせる為に膝を曲げた。
「あんたって、奥州に現れたってことは誰が目的だったの? ……。ああ、やっぱりあの男が狙いか。人気があるねえ、全く。え、いいよ俺様も人気があるとか、例え本当だとしても武田に帰らなきゃ確かめられねえだろうし」
床に置かれたそれを持ち上げ、渡した。
「喉乾いてるだろ? ほら、どうせもう冷めてるんだから飲んじまいなよ、あの殿様にあげるものだってこんなにぬるくなってちゃあ、まずいって雷が落とされちまうんだから」
緊張の糸が解けたのか、顔を綻ばせる彼女に佐助も緩々と表情を崩す。
「……なあ、こんな手荒なことした俺様が言えた義理じゃないし、わざわざ『さんじげん』って所から来てるあんたにも申し訳ないんだけど、あの男のことは、その、諦めてくれ…ないか」
湯呑みを傾ける彼女は訝しげに瞬きを繰り返すが、佐助は独白を語るように、ぽつりと言葉を漏らした。
先刻彼女を襲っていたこの忍は血も通っていないと錯覚させるほどに、任務のため尽力し、彼女を畏怖させた。しかし今目の前にいる男はまるで彼女の世界にいる同世代の男達のように恋をし、恥じらい、こいねがうことを決して忘れてはいない、等身大の男だった。あの時まで身を潜めていた感情はすっかり表へと現れてしまい、忍の変化に彼女は驚き目を丸くさせる。
「悪いけど、あの男だけは渡せないみたい、でさ」
その言葉に主語はなく、いつまで経っても誰のことと口を割らなかったが、彼女は目の前の男が誰を慕い、恋焦がれているのか気付いたようだった。


05

群雄割拠の日の本。
天下を己が物にと日の本を駆け抜ける武将達は、最近婚姻をした妻との新婚生活にすっかりと毒気を抜かれて隣国との睨み合いはますます深刻化した。というより、世間が幸せに暮らしているので既婚者武将はしばらくは平穏に過ごそうと鳴りを潜めているのだ。
さすが戦国武将、空気が読める。
そんな日本各地に多量に溢れかえる新婚夫婦の中、一際変わった夫婦がいた。

「最近あんたの所の領地から人影出てこなくなったね」
「本当に効果があったみてえで何よりじゃねえか」
「さっき旦那から便りが来たんだけど俺様目当ての人もこなくなったんだってさ」
「へえ、そうかい」
「何、その顔」

あの時佐助が提案した報酬とは政宗との婚姻を望むものだった。もちろんそれは空に浮かぶ黒点への対策で、一時的なものだが、提案者もまさか政宗が了承してくるとは思わず、佐助はいまだ半信半疑で婚姻関係を続けている。以前捕まえた女中が言うには「皆に人気のある目ぼしい大名はほぼ婚姻を結び始めている」と、いよいよこの騒動も解決の方向へ向かっているらしい。
そのため佐助は伊達の領地に残り、この歪な関係を続けている。
他国もこんな馬鹿げた婚姻を本気にする馬鹿はいなかった。周囲も何の為の婚姻か、二人の望む利益が何かには気付いていたのだ。可愛い妻を娶り幸せに暮らす武将達にとってそれは心底理解に苦しむ行為であったが、余所様の領地で何が起ころうとも目の前の幸せを謳歌する武将の方々には至極どうでも良いことである。

「しっかしあんたも変なことを思いついたもんだぜ!」
「俺様はあんたがこんな馬鹿げたことに付き合ってくれるってことに驚いたよ。あんた、俺のこと嫌いじゃなかったっけ?」
「だと言ったら?」
「あんたは気が触れている」
「嫌いだって思ってる相手にmarry me?なんて言えるあんただってよっぽどの変わりもんだろうが」
「俺様だってあの時は切羽詰まってたんだから、しょうがないでしょう」

選択は正しかったのか、すでに佐助には分からない。ただあの時はこれが最善の方法だと何故か思えてしまったのだ。心の中で何かが顔を出し、喉がじりじりと渇くようなその飢えに佐助は救われたとさえ思った。政宗の隣に立つ今でさえ、その答えは分からない。
佐助が独眼竜、と名前を呼ぼうとするが、一息先に政宗が言葉を発した。
「もしかして俺達が仮面夫婦だって気付いたらまた空から誰か落ちてくるかもしれねえな。ほら」
政宗は唇をトン、と指で叩く。
「今度は何?」
「俺達が誰の物かってappealくらいしておかねえと、また狙いにくるかもしれないだろう?」
「……独眼竜、あんたこの状況楽しんでるだろ?」
「さてなあ、暇だからじゃねえの?」
「……もういいよ。ほら、顎上げて」

政宗の言葉は本当か嘘かは分からない。戦の起きない現状に退屈をしていたのかもしれないし、この騒動に巻き込まれたくなかっただけかもしれないし、言い表しようのない感情に動かされた結果だったのかもしれない。それが佐助の心に微かに浮かびはじめた『独占』という想いと同等のものかは、政宗以外には解けない問題なのだ。

その答えを聞こうにも、言葉は全て唾液の中。





作中で勝手にみんな結婚させちまったのですが、その中にもし自分の嫁なる方がいらっしゃられましたら脳内で結婚式を挙げてくださいませ。
わたしも竹中さんとしたいですはんべ

本当は途中で最上とか島津のおじちゃんとかの名前も出して「coreなfanもいるもんだな…」とか伊達さんに言わせたかったんです。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -