text | ナノ




marry me?@

・できてないサスダテ
・ゲームでいう2と3の間くらい?
・おやかたさぶぁは生きてるくらいの時期です
・全力でふざけたパラレル






00

画面の中にいる彼・彼女と結婚したい。現代人はいつしかリアルに生きる異性より、画面の中で動く彼らに恋をした。それは現実を忘れたいという想いからではない。ただ、画面の中で動く彼・彼女らはいつでも活力に溢れ、死人と化した己のささくれた心に力を与え、癒してくれる。単位が取れない、先の見えない将来への不安、人間関係の軋轢など心の闇を抱える現代人にとって、画面の中の嫁はストレスを忘却の彼方へと押しやれるオアシスとなっていたのである。
性欲という本能を超えた、相手をただ愛おしいと慈しむ想いだけが現代人を支えていた。
ただただ、純粋だった。
嫁を愛しいという想いがあれば毎日が楽しいし仕事も学校もスキップして出かけたくなり、何よりも心に抱える息苦しさに喘ぐことなく呼吸ができる。
ただただ、純粋だっただけなのだ。
いつしか彼らの想いは科学の力を借り、実現することとなる。
意識をデータ化し機械へ通し、自らを二次元へと変換する装置が製造されたのである。それは現実に姿を持たない嫁を持つ人々にとって神をも超える発明となった。
実用化こそされておらず、モニターを抽選で決めている段階だというが、人々の元来の願いがこれで叶うと抽選券を握りしめ、国民の誰もが歓喜したという。

そう、次元を超えた恋愛が、ここに成立したのだ。




01

「やあ、最近鬼の旦那が結婚したこと知ってるかい?独眼竜の旦那」
「Hello. 武田の忍。いいや、知らねえな」
「じゃあ最近空に真っ黒な穴が出来てることは?」
「見りゃあ分かる。一体何なんだよあれは」
「さあ? 俺様にも分かんないよ。たださ、あの穴から時折人影が落ちてきてるってこと、気付いてる?」
「うちの領土に落ちてきてんのもいるんだ。 第一、今この日の本であれを知らねえ奴がいるわけねえだろ」
「ごもっともで」

群雄割拠の戦国時代。
天下を己が物にと日の本を駆け抜ける彼らの元に、一つの異変が訪れていた。
空に、穴が開いたと言えばいいのだろうか。蒼天に日向に浮かぶ月のように、その黒点はいつまでも浮かんでいる。漆黒は時折ゆらりと軸を歪ませるがそれ自体は霧散する気配はまるでない。
落ちてきた人影の消息も詳細も掴めず、まるで白昼夢を見ているかのような現象に世界は揺れている。

「で、さあ。鬼の旦那、あの影から落ちてきた女と結婚したって」
「Ah?……随分と思いきったことをしてんじゃねえか、西海の鬼」
「名前なんて言ったっけな……。あ、そうだ、佐藤(仮)とか言ってたような気が、多分」
「それだけじゃ結局誰か分からねえじゃねえか。苗字はもう長宗我部になってんだろ」
「ああ、はいごもっとも」

そこで会話は途切れ、政宗は天を睨みつけていた片目を伏せる。睫毛がおぼろげに影を作り、隣に立つ同盟国の忍には、まるでこれから起こる凶兆を予兆しているように見えた。
空は蒼天としているのに暗雲が立ち込めるかのような、そんな心地がする。

「おい、武田の忍」
「なんですかね独眼竜の旦那」
「真田はどうした。今回はあいつがこっちに来る予定だったはずだが」
「急遽予定が狂いました。ごめんなさいね俺様なんかが代役で」
「Ha! 全くだ。……なんだ、こんな世間話で用事は終わりか」
伊達も武田もここの所、戦の予定はない。そのため定時連絡も互いの近況報告という味気のないものに終わることが多かったが、今回は好敵手である幸村が奥州へと足を運ぶと聞き心待ちにしていた政宗は落胆を苛立ちで表した。
そんな竜の様子に佐助は口角を上げる。ただし純粋な笑みではなく、若干の苦虫を噛み潰したような深みも含めて。

「いいや、ところがそうじゃない。」
「Ah?」
「独眼竜の旦那って、婚姻はまだ?」
「それが一体なんだって……」
「いいから。ほら、結婚してたっけ?」
「同盟国の主君がどこと手を結んでいるかなんざ、あんただって知ってんだろ。」
彼ら武将にとって婚姻とかは他国との結びつきを強くする、「家」と「家」同士の利益を容易に得る為の形だけの儀式でしかない。しかし伊達家当主である政宗は現在唯一盟を結ぶ武田家と婚姻を交わしてはいない。手頃な娘がちょうど切れていたというのもあるが、煩わしいと端から案を一蹴していたためだ。
「ああ、もちろん。……じゃあ、今、日の本の有名な武将の方々が次々と婚姻交わしちゃってることは知ってる?」
「はあ?」
「さっき言った長宗我部、毛利、豊臣、竹中、石田、徳川、前田の風来坊、これみんな婚姻、もしくはその寸前まで段階が進んじまってるそうだ」
「…………相手は?」
「何も、分からない。どこかの国の姫様とも思ったけども、調べてみても何も出てこない。綿密に隠しているのかもしれないがこれだけの国で婚姻が起こるのに一つも足がつかないのはおかしいだろう?」
「そんな時にあの黒点から人影が何度も現れ、加えて西海の鬼の旦那に至ってはそこから出てきた女と婚姻を交わした、なんてこの二つの点は何かしらの接点があるはずだ。今は敵対はあるもののどこの軍も戦を行っていない。お互いが睨み合い、はたまた同盟を組み、牽制をしている状況だ。沈静化している今のうちに、内政を正したり、彼らのように地盤を固める為にも手頃な所と契りを交わして勢力を拡大する所もあるだろうね。ただ、これだけの勢力が同時期に契りを交わすことなんざ、果たして本当にあると思うかい?」
「OK. ……あんたはあの影が元凶だって言いてえんだろう?」
「いやあ、理解が早くて助かるね」
佐助は空を眺め、その異物を忌々しげに睨んだ。
「あれが現れてから、日の本、少なくとも武田はおかしくなっちまってる。」
「実はね、真田の旦那がここに来られないのもそれに巻き込まれているからなのさ」

堅物ないしは免疫のない真田は突如現れた女人に言い寄られているものの耳朶までを真っ赤に染め上げては逃げ惑っているという。その姿を思い浮かべたのか政宗は笑みをこぼした。
「というわけでこの件を終わらせない限り旦那は中々こっちに来られそうもありません。大将がさあ、『これも良い機会じゃ!』って言ってその女の味方をしてるんだから俺様が甲斐に戻る頃には本当に宴のひとつでも挙げてたりして」
「Ha! 言い寄ってきた女とあの黒点とに一体どんな関係があるって? 真田だってとっくに元服を済ましてんだからそろそろそれくらい考えても良い頃じゃねえか」
それこそあんたのお節介だの主人が取られたようで寂しいのかだの、忍の過保護さに呆れたのか小馬鹿にしたように笑い出したが、そんな政宗に佐助は首を緩やかに横に振ってみせた。
「関係のない女だったら良かったんだけどね……俺様、見ちまってるんだよ」
「Ah? 見たって一体何の」
事だ、と政宗が言い終わる前に佐助は指を立て、見るの嫌だと言うようにそれを指した。「旦那に言い寄ってる女が、あれから落ちてくる所をさ」

日向が沈み闇夜へと苦界が変わろうとも、かの影の姿は消える事なく地上を見下ろす。佐助が仕事を終えた半宵の時分、そこには闇の中で潜むように呼吸をし、いつしか全てを飲み込むのではないかという重圧が佇んでいた。この光景に一体いつから慣れてしまったのだろう。
空を仰ぐ佐助の目に焦燥が浮かんだ頃、それに異変は訪れた。蠢く影を形成する軸がゆらりと揺れ、何かを吐き出す。暗闇の中で動き始めるそれはどうやら、人、それも女人のようだった。まるで夢物語のような光景に佐助がただ唖然としているとその人影は姿を消したという。

「それから真田の旦那の所にその女が近付いてきたのさ。昨夜の事は夢でただの空似だと思おうとしたんだけどね、どう見てもあの時現れた女だった。あんな影から現れた女が他国の間諜とも思いづらい」
「mysterious! 手掛かりはあの黒点一つだけって訳かい」
「ええ、全くもって。」
そこで政宗は腕を組み、一つの提案をした。
「じゃあ決まりだ。あんたはしばらくここに残って異変を探してもらう」
「うちの領土にもここ最近人影が落ちてきたって言っただろう? 各地の名立たる武将を選んでるってことはそろそろ俺がtargetになるはずだ。その人影を代わりに探してきな」
「頼む相手が間違ってない? なんで俺様があんたの命令なんて効かなきゃいけないの」
「あんたは原因を知りたい、俺は俺の領地に現れた異変を消したい。利害が一致してる同士が協力することはおかしくねえだろう?」
「……なんか上手く使われてる気がするけども、まあいいさ。ただし報酬は弾んでくれよ? ただ働きなんて趣味じゃねえからさ」
「働き次第、だな。ほしいもんがあるならその身体で情報を稼いでこい」
「はは、上等」


02

「あんたが新しく入った女中さん?」
突如現れた人影に意表をつかれたのかその女中は手に持っていたお盆の存在を忘れ飛び上がる程に驚きの声を上げた。面食らう彼女の手から零れ落ちかけたそれを代わりに支えると、お盆の中の湯呑みは波紋こそ浮かべるも返ることなく佐助の手へと収まる。
「危ないな、もう」
唖然としていた彼女は慌てて盆を受け取り、佐助へと礼を伝える、も彼の向ける視線、いや眼光に心臓を掴まれるような悪寒を抱いた。全てを暴き心内を覗き込むような、そんな居心地の悪さに彼女は踵をひるがえそうとしたが、やはりそれも忍に邪魔をされる。低く呟かれたその言葉に女中は立ち止まらざるを得なかったのだ。
「ねえ、この城にどうやって入り込んだの? あんた。」
その一言が彼女の何を刺激したのか目を泳がせる様子に佐助は確信を抱き、さらに疑問を重ねる。
「城下であんたがあの影から落ちてきたことを目撃してる奴がいたんだ。言い逃れようなんて考えない方が良い。俺様はこの城の城主にあんたたち異端の調査、質問に答えない場合は……」
点。女中の視界には眼前に現れたその鈍色は点のように見えた。眼球は半分以上が点に侵された視界の、見えうる限り奥まった箇所に目を向ける。
怠ることをせず刃を研がれ、磨かれ、人の命を奪うことに特化したそれは、忍が片時も手離すことなく、時に身を守り、時に敵の喉元を刈る事を目的とした武器。
いまだ彼女に突き付けられた苦無は主の言葉を主張するかのように、鈍く、瞬いた。「排除しても良いって、言われてるんでね」
底冷えのするような声に糸が切れた人形のように女中は座り込む。しかし佐助は突き付けた刃を引っ込めはしない。この城に滞在する今だけは、忍の主は竜だ。その関係に信頼なんて物は端から存在しないが、それでも佐助は仮初の主の為、そして自らも渇望をする真実を知る為に、ひとつの、しかし根本を表す疑問を問うた。

「さ、そろそろ答えてくれよ? あんたは誰だ」
観念したのか、女中が重々しく口を開きそれを全て聞き終えると佐助の姿は忽然と消え失せた。








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