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さながらかぼちゃをくれるあしながおじさん@

・ハロウィン小話そのに
・アニバサ二期終了後のおはなし


01

「佐助!お前に届け物だ」

彼の主である幸村が何かを山のように抱えて走り寄ってきた。それはまるで佐助の髪のような橙色の中身をしており、頑強な見た目通り一度湯に浸からせないと調理することもままならない色鮮やかな食物、南瓜だった。
「は、俺様に?」
「そうだ」
幸村の両手に存在していた大量の南瓜が佐助へとなだれ込む。が、こんな物を急に贈られる理由が見当も寄らない。まさかこれが給料だとでもいうのだろうか。
「南瓜のお面を付けた南瓜仮面という御仁からだ!」
「……うん、ああ、そうなんだ」
ふざけんな、抗議を唱えようとするもその言葉は喉の手前で呑み込むことにした。どうやら武田軍の給料が現物支給に変わった訳ではないようだ。ささやかな安心と、己の両手に抱えられた南瓜と目の前で嬉々とする主に目眩を覚えつつ、佐助は別の言葉を喉から発した。
「旦那ぁ、知らない人から物をもらったら駄目だって言ってるだろう」
「知らぬ者ではない!南瓜仮面殿だと言っているだろう!」
「はいはい南瓜仮面殿ね南瓜仮面。……なあ旦那」
「なんだ佐助」
「南瓜仮面って、どちらさん?」
南瓜がひとつ、腕の中から転がり落ちた。

「む、お前は知らぬのか。天孤仮面殿と天狗仮面殿の知り合いだと申しておられたから、てっきりお前とも旧知の仲だと」
「生憎俺様の知り合いにそんな御仁はいません」
幸村は顎に手を当て頭を傾げたがどうやら手合いへ向かうようで踵を返す。
「しかし折角お前へと受け賜わった物だ、ちゃんと受け取れ」
「こんな大量、どうしろっていうんだよ……」
「調理でもしたらどうだ、この時期の南瓜は甘いぞ」
こんな時だけ正論を返す主が腹立たしい。


「南瓜、南瓜ねえ……」
膝を曲げ、正体不明の南瓜仮面とやらに贈られた南瓜を数えてみればゆうに十個は超えているようで。手持ちぶさたに転がしてみると堅い皮は軽く擦れただけではもろともせず、依然緑色をしている。ふと、ひとつだけ色も大きさも異なるものが紛れ込んでいることに気づいた。佐助の薄い手のひらをころんと転がり込むように小さな橙色は両の手に。
「おかしな色をしてるけど、これも南瓜か……?」
こんな色は初めて見るが多分自分の知っている南瓜と同じものだろう。何せ南瓜仮面と名乗る者が送りつけてきたのだから。答えもどうせ分からないのだ、佐助はそう思い込むことにした。
さて。そう呟いては佐助は目の前の南瓜を一撫でする。厨房にでも行って丸々お裾分けでもすればたまには旨い飯にありつけるかとかそんなことを考えていると幾度と耳にした異国語が聞こえた。
誰だと考えることも馬鹿々々しい。姿を見ずとも見当は付いている。

「やあ、独眼りゅ」

そうして声のした方へと顔を上げるものの、佐助は少し固まった。言葉も途中で切れてしまったのだが現れた男はそんなことには気も留めず「俺の名前は南瓜仮面だ」などと言葉を否定するものだから佐助の思考はますます停止する。
「独眼竜じゃあ、ない?」
南瓜仮面、とオウム返しに唱和すると嬉しそうに頷く男の顔には深緑の仮面が乗っている。それは奇しくも俺の足元に彩られた野菜と同じ形をしていた。その仮面からはみ出した部分を眺めれば濃茶色をした御髪、藍の装束、黒炭のように黒々とした甲冑に、腰にぶら下げた六爪。何故だろう知り合いになんだかとてもよく似ている気がする。いや、すでに名前だけは分かっているが、呼びたくない。信じたくない。仮にも主の好敵手であるあの男がこんな真似をするわけがない。のに。

「Hello.」
その言葉を使う男を佐助は彼以外に知らないのだ。
「……どうも、頭でも狂ってしまったんですか南瓜仮面さん」
次いでなにやってんだあんた、そう問いかけると南瓜仮面はきっと仮面の下で笑みを浮かべているのだろう、子供のように胸を張って話し始めた。
「伴天連ではこの時期に南瓜をくり抜いて頭から被るeventがあるんだとさ」
残念ながらこの国の南瓜と種類が違うらしいので被り物は仮面で代用をしたとかなんとか言葉が続くが佐助の頭にはてんで入ってこない。
「ああ、そうですか。あんた随分暇なんですね」
「shout up! 暇なわけねえだろ、この時期にゃうちの天狗仮面は畑の収穫でてんてこ舞いさ」
「……手伝えよ」
険しい人相をした龍の右目がせっせと畑仕事に精を出している姿が頭の中に浮かんだらしい。佐助は苦虫を噛み潰したような顔をした。奥州はどうやら平和なようだ。
「で、俺からのpresentは気に入ってくれたかい?」
「ええ、しばらくは食いっぱぐれることはないです、そこはどうも」
右目は今頃何をやっているのだろうか。さっさと回収に来いこんな馬鹿殿。まさか抜け出してる事にも気づかないで畑仕事に精を出しているのか。「勘弁してくれよ」佐助の無意識に出したため息は地面で寝転ぶ南瓜へと衝突した。
膝を伸ばして立ち上がり、緑のそれを踏まないように避けつつも、目の前で顎を上げて笑う男の顔へと、正確には仮面へと手を伸ばす。
佐助はもう一度深くため息をつきたくなった。
あんたの首にようやく手が伸ばせたってのに得物も持ってねえんだもんなあ、馬鹿らしいったらねえよ。なんてことを考えていたのだ。

「それで、今日は一体何の御用ですかね、独眼竜」
「真田と軽く手合わせに来ただけさ、別に深い意味なんかねえよ。おい、返せよ、仮面」
「返したらまた南瓜仮面様になるんだろう? やだよ面倒くさい」
仮面を取り返そうと伸ばされた政宗の手首を掴み、佐助は彼の精悍な顔を覗き見る。その声色に不貞腐れているのかと思ったが竜の顔は穏やかに笑んでいた。
「竜があんたの為に用意したんだ、ちゃんと食えよ」
「なあ、どうして」
拘束していた片手が払われる。そしてその手は佐助の頬へと伸びた。
「少しくらいならあんたに構ってやってもいいぜ?……お、真田」
一寸遠くから響き渡る声に名を呼ばれ、政宗は顔を逸らす。
「…はいはい、はやく向こうに行ってやって」
お戯れも程々に。触れられた手のひらから佐助が半歩離れるやいなや、目的のものへと走り去る政宗の後ろ姿を目で追ってしまうのは無意識か意図的か。名残など欠片も残さずに彼は佐助の目の前から消えてしまった。
それなのに、別れの間際呟かれた言葉は旬を迎えた南瓜のように淀みなく、甘い。

「あんたみたいだろう、それ」

何を指しているか、そんなことは愚問だ。この場にある橙は彼と、そして。
佐助はひとつ南瓜を拾う。一等小さい、まるで己の髪のように橙色を浮かべるそれを。
「……あんたの中の俺様も、こんなちっぽけな存在なのかね」
南瓜に返事など出来るはずもない。
佐助は自分の呟きがとても面白くないものに感じて、この場を立ち去ることにした。そもそも何もない場所だ、珍客の登場によりそこが賑わしくなっただけで。その客も既にここにはいない。
竜に理由を聞けばよかった。どうしてこんなものを贈りつけてきたのか、と。佐助には独眼竜の考えていることなど毛先一本程も理解が及ばない。元来竜と忍は互いを嫌いだと罵り合うような関係だったのだから、それも仕方のないことだが。
豊臣の一件が無ければ今頃武田と伊達は盟を結ぶことなく、戦地での再会を遂げてしまうほどに危うい薄氷の交わりというのに。
「何、気軽にやって来てるんだよあんたは……」
切欠を与えたのは武田だということを棚に上げ、次いで自虐を呟いた。







まだ続きます







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