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かぼちゃジャック



今日の授業は必修科目とミクロ経済だけ。二つとも午前中で終わるから今日は家で待つ彼とゆっくりしようと俺の足取りは軽い。そろそろ寒くなってきたし一緒に秋冬物の服を探しに行くのもいいかもしれない。去年買ったカーデよりも厚手なのがほしいな。具体的なイメージはないが迷った時は彼に任せれば間違いはない。センスのある恋人を持つと自分がおしゃれになったような気がするから伊達ちゃん様々だ。
恋人の待つ部屋についた。鍵を開けてただいま、買い物行こうよと彼を誘おうとする俺は言葉を飲み込んだ。何故か。それは目の前の景色を見れば一目瞭然。

「……かぼちゃ」

彼とよく一緒に座る二人掛けのソファの上にみっつ、テレビの前にひとつ、今朝トーストとベーコンエッグを並べたテーブルの上にはいつつ、椅子にはふたつ、もしやと思いトイレを開けてみると芳香剤のとなりにとびきり小さいのがひとつ、扉を閉め再びリビングを見まわしてみるとさっきからずっと見えていたけども中央に両手にかぼちゃを抱え満面の笑みでこちらを見る愛しい恋人の姿がひとつ。
「Happy Halloween!」
「は、はっぴーはろうぃーん…」
流暢な英語を発したのは誰でしょう。真っ黒なマントと頭にコミカルな表情をしたかぼちゃのついたカチューシャを身につけた彼です。
「あんたが大学行ってる間に頑張ってたんだぜ、褒めてくれよ?」
そう言って甘えた声を出す彼に湧き起こる衝動を無視することができない、のだがそれ以上に部屋の現状に頭が痛い。
「何を、やって」
「問題。今日は何日でしょう」
「さっきハロウィンって自分から言ったじゃないか」
「正解。なので今日はかぼちゃと一夜を共に過ごそうぜ」
人の答えなんて聞いていないくせに。そんな俺の心情もどこ吹く風か、彼は両の手に収まるかぼちゃと一緒に笑っている。果肉をくり抜かれた真っ黒目玉が何を思っているのか知らないが、同族に囲まれかぼちゃもさぞ満足だろうと俺は静かに息を吐いた。
ごん。鈍い音が部屋の中に響く。俺の脳内にも響く。彼の手元にあったはずのかぼちゃが俺の足元で変わらずコミカルな笑みを浮かべて見上げていた。
「……痛いよ、そんなものを投げないでください」
「違います。テンションが低いとかぼちゃ様は怒っていらっしゃるのさ」
「ああ言えばこう言うんだからぁ」
ああもう!と拾い上げたかぼちゃ様の頭を鷲掴み「かぼちゃ様を痛い目に合わせたくなければはやく要望を言いなさい!頭痛い!」恋人に叫ぶ。
「さっきも言っただろう、『Happy Halloween!』 楽しいハロウィンを恋人と過ごしたいってだけだぜ」
「頭痛いよ楽しくないよ」
「悪い悪い、でも褒めてくれよ。一人でこれ準備したんだぜ?」
最近あんた課題で忙しいって言ってたからちょっとした息抜きになればって、喜んでくれると思って、俺はこんなにも頑張りました。そう言って彼はマントの裾をひらひらと持ち上げる。う、そんな可愛こぶったって頭痛いの許さな、
「ほら、衣装も可愛いだろ。前のボタン止めるとワンピースっぽくなるんだとさ。中にジャージ履いてるけど」
嘘です可愛いから許します。ジャージは脱がせば問題ないです。
「俺あんたのそういうところ好きだぜ」
「俺も伊達ちゃんのサービス旺盛なところ好きよ、たまーにしかないけど」
両手に収まるかぼちゃ様を地面に転がして、リビングへと足を踏み入れる。

「trick or treat? さ、あんたはお菓子かいたずら、どっちが欲しい?」

おかしといたずら?どっちを選べってそんなの、質問にもなってない。
「じゃあ、かぼちゃなんかと一夜を共にしないで俺様と一緒に過ごしませんか」
「大胆な口説き文句だな、darling.」
彼の生み出す口笛を耳に背中へ手を回す。これだけ近づけばオレンジ色の塊だって視界に入らなくなる。目の前にもっと綺麗なオレンジがあるんだからこんなもん必要ないだろう、なんて小っ恥ずかしいこと言おうとした口は無理やり押し込めて。その代わり、真っ黒いマントの中へと手を突っ込んだ。
「いたずら、俺にしてくれるんでしょう? そっちの方がよっぽど大胆だ」
俺よりも君の方が恥ずかしいことを言ってるじゃないかなんて責任転嫁をすれば、彼は唇を俺の鼻の頭にくっつけて遊んでいた。
「言えてら」
「ね」
そう言っておもむろに彼のジャージを膝まで降ろしていると、何やら外が騒がしい。お隣さんかな、どたばたがちゃんと大きな物音が俺の耳に入ってきた。あれ、扉の空いた音が、

「佐助昨日の講義のノートを貸して、く……」
「…………」
「よう、真田」
押し倒した俺と押し倒された伊達ちゃんの姿を見て固まる真田の旦那。あーあーあー分かってる、このあとに言う言葉は分かってるから、とりあえず一回、伊達ちゃんにキスさせて。





ハロウィン小話そのさん
佐助「10月末、我が家はかぼちゃにジャックされました」









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