たんぐらむ
けっこう能天気なはんべと悪魔な伊達さんの話。






夢を見ているらしい。
壁もない天井もない、それなのに星や木々、空さえも見えない不思議な空間の中に僕はいた。
うすぼんやりと明るい空間に僕だけが一人ぽつねんと立っている。
一人じゃないですよ。不意にそんな声が耳に届く。気づけば目の前に青年が立っていた。
一瞬目が合ったかと思うと彼は指をぱっちりと鳴らした。すると辺り一面真っ暗になり星の光だけが残る。
スイッチを切り替えたように視界が入れ変わったのだ。

ああ、なんて綺麗なんだろう。
彼がとてもすごい力を持っているのだと確信もなく分かった。
そして口を開く。

「さあ、あなたの願い事はなんですか」
その言葉は何かの呪文のように一音一音スローモーションに僕の頭の中を浸透した。
長い前髪から覗かせる切れ長の目を鋭く光らせて彼は笑いかける。

――君は悪魔か。
確信めいた声にならない声を呟いた。蛇のように甘言を囁き人を惑わす存在、悪魔が目の前に立っている。つまりこれは単なるプレゼントではなくれっきとした取引なのだろう。安易に答えれば何を代償とされるかわからない。

その問いに、僕は答えることができなかった。



――そもそも僕にたいした悩みはないのだ。せいぜい明日のテストを休まないようにくらいなものである。
悪いけど間に合ってます。まるで押し売りを断るように言うと悪魔はツンと澄ました顔を止めた。そうかこれが鳩が豆鉄砲を食らったと言うのか。一瞬目を開いたまま無表情で僕を見たが今度は人が悪そうな笑みを浮かべた。

「……おいおいノリが悪いなアンタ、こんなもんは適当に『空が飛べるようになりたい』『金がほしい』『動物と話せるようになりたい』とか言えよ」
口調が変わっている。どうやら取り繕っていたのは表情だけじゃないようだ。
「そんなこと言われても」
しかし悪魔は僕の意見はお構い無しなようで願い事を勝手に探し始めた。
「んー……若いのに多い『痩せたい』『カッコよくなりたい』とかはアンタ必要なさそうだな」
おや、悪魔に外見を誉められている。だからって頭からつま先までまじまじと見られると少し居心地が悪いのだけど。

「僕はそんなことに興味はない」
「変わった奴……じゃあ高級車がほしいとか」
「置く場所がないのにかい?」
「じゃあ土地付きの豪邸はどうだ!?」
「維持費にお金がかかるじゃないか」
「可愛くねえクソガキ」
「ありがとう、誉め言葉だ」

何度か問答すると疲れたらしく悪魔はこれでもかというため息をつき、どうやら今回は随分とrealist(現実主義者)で変わり者の所に出てきたようだと呟いた。
僕の夢の中なのに何故に僕に辛辣な、しかも悪魔しか出てこないんだ。
なんだかイライラしてきたので起きることにした。夢から覚める方法なんて簡単だ。

「おやおや、随分な言い種じゃないか。第一夢だかなんだか知らないが僕は明日朝から小テストがあるんだ。しかも大嫌いな英語さ!というわけでこれ以上君に付き合ってはいられないよ」

おやすみと話を無理矢理切り上げてまぶたを閉じる。どうせ夢だと知っている。はやくこんな馬鹿げた夢から覚めよう。明日ははやいんだから。

「馬鹿だなアンタ」
そんな悪魔の声が聞こえた気がしたが深い睡魔の波に流された僕には関係ない話だ。




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