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ep.04[Sever]

 自分が雅という男を探す理由。おそらくエトはこの件に関して何かを知っているのだろうけれど、今までそのことでこちらに干渉してきたことは一度もなかった。どうでもいい時に出てきては状況とシスの心を乱して消える。そのくせ重要な情報は何も教えてはくれないなど、鬱陶しいったらありゃしない、とユイットは愚痴をこぼす。彼の自分嫌いも相変わらずで、このままではいけないと内心思いつつも、結局和解できないままにずるずると10年もの月日が流れてしまった。けれども受け入れるかと問われれば否というだろう。
 体調がすぐれずいつもより早く帰宅したが、ミッシェルはまだ帰っていない。さっきよりも咳が酷くなっていて、息をするたびに喉がひゅうと音を鳴らす。息苦しさで身体もだるく、夕食を作る気力もなくて、キッチンで水を汲んで薬を飲んだ後、そのままふらっとソファーに倒れ込んだ。

 どこかで誰かの声がする。よく聞きなれた自分の声が脳に直接語りかけてくる。ずいぶんと長いことエトとつきあっているが、未だに媒介なしの直接の干渉は慣れず気分が悪い。

『キミは雅を探さなければならない。それは既に決められていることだから、逆らう必要も疑問に思う必要もないんだ』
「理由も知らされずに私がはいとでも言うと思っているんですか」
『言うよ。キミは俺だから。同じ完璧主義者として、上の命令は断りたくないだろう?』

 そう言って、彼、エトはくすくす笑った。シスがエトを疎ましく思うのは、この上から目線の物言いに腹が立つせいでもある。

「それでも理由くらいは教えてくれてもいいでしょう」
 エトは笑うのをピタリとやめて、静かな声で言う。
『だって、そんなことをしたらお人よしなキミはこの件を降りるだろう?それは俺にとって大きな障害となることは事実。困るんだよ、勝手な事をされちゃあ。 皇族直々に、研究棟経由での命令だということだけは伝えておいてあげる』

 皇族の命は絶対。レトリア国民の多くは小さいころからそう教えられている。皇族の名を出されては、嘘であれ本当であれ迂闊に逆らうことはできなくなる。そうやって、何も知らずに自分という存在にがんじがらめにされているのだということを思い知らされる。結局どれだけあがいても抵抗しても、シスはエトからは逃れられないのだ。

『キミは雅を探すだけでいい。』

 今度は諭すような、優しい語り口で話す。それきり声は聞こえなかった。
 キッチンからトマトのいいにおいがする事に気がついた。どうやらあのまま眠ってしまったらしく、帰ってからすでに2時間が過ぎていた。

「ミッシェル、帰ってたの」
「そんなところで寝てたら腰痛めるよ」
「そうだね」

 ミッシェルが掛けてくれたであろう毛布を綺麗に畳んで、キッチンへ行って鍋を覗く。

「うわあ、ミネストローネだ」
「ユイさん、体調悪いみたいだったから、消化のいい食べ物をね」
「うん、ありがとう」

 ユイットは高いところにあるカップを取りだした。
「ねえミッシェル、完璧主義は嫌い?」
 先ほどの事もあってか、急に不安になって訊ねてみる。するとミッシェルは、ユイットが惚れたその笑顔で

「そんなことないよ。私ユイさんの真面目で丁寧なところ、大好きだもん」

と答えた。

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