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ep.00[Prologue]

 空が白み始めた。
 一夜あけて静けさを取り戻した旧市街。
 昨晩から降っていた雨はいつの間にか雪へと変わり、街を白く塗りつぶしていった。
 閑静な街を冬の明け方の冷たい風が駆け抜ける。青年はコートをぎゅっと握りしめた。
 青年は一人歩いていた。彼はどこに用があるというわけではなく、ただふらふらと歩き回っていた。
 生まれつきの病気せいで真っ白な髪に冷たい雪が降る。青年は青白い空を見上げた。

「レット兄さん、アルバート、エミリー、皆いなくなっちゃった」

 彼は寂しそうにつぶやいた。
 人間はいつの世も、同じ人間同士で戦争をし、力の無いものを滅ぼしていく。何度悲劇を繰り返しても学ぶことを知らない、とても愚かな生き物だ。
 法によって差別され、迫害を受け、理不尽に殺される。彼らはずっと苦しみ続けてきた。そして未だその偏見は収まるどころか日ごとに密度を増し、彼らに鋭く襲いかかる。

「いつか平和な日常が訪れますように……」

 青年は目を瞑り、静かに涙を流した。
 3日間に及んだ"狩り"は今までよりも凄惨で規模の大きいものだった。今回は何人の人が連れて行かれたのだろうか。何人の人が殺されたのだろうか。
 雨が狩りの後の悲しみや憎しみ、怒りといった負の感情を綺麗さっぱりと洗い流し、雪がそれを覆い隠す。
 人の記憶に触れることの多い彼は旧市街に縛られた感情を過敏に感じ取ってしまう。それはとても心地のいいものではなく、長居すればそれこそ気が狂ってしまいそうな感覚に襲われる。

「雅……」

 どこに行ったのだろう、と呟く。その声は先程とは違い、とても弱々しいものだった。


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