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ep.04[Sever]

 鋭い痛みを感じる程度には傷を負わせられたようだった。うずくまる男へ近づき、疑問を投げかける。

「キミはイノセンスか?」
「何なんだてめえ……!治安局の奴だろう!なんでてめえが……!?」

 得体のしれないものを見たかのように騒ぐ男。シスはため息をついて男を蹴り飛ばし、バランスを崩して倒れた相手の掌に剣先を突き立てる。男は痛みに悶えていた。

「聞いてるのは俺だ。質問に答えろ。キミはイノセンスか?」
「そっ……そうだよ!俺はイノセンスだ!」
「ならば、雅という男は知っているか」
「し、知らねえよそんな奴!」

 この答えで男がイノセンスのものでないという事は明白だった。大方、イノセンスに汚名をきせてやろうという魂胆だろう。

「仕事に私情を持ち込むな、"ユイット"」

 ちょうどそこにやってきたレオンに制されてシス──ユイットはその手を止めた。灰色の瞳は揺らいでいる。

「また"あいつ"が……申し訳ありません」
「気をつけろよ」

 さて、とレオンは男に向き直る。

「殺人の容疑でお前の身柄を拘束する。が、憲兵には渡さない。裁判の必要もない……特別適者として研究棟に引き渡すことになっているが悪く思うな」

 そう聞くと男は顔色を変えた。特別適者として研究棟へ送られた者がどのような扱いを受けるのかを知っているのだろう。
 先ほどまでの威勢はどこへ消えたのか、顔を真っ青にしてただ震えていた。
 その後男は本局へと送られ、無事に研究棟へと送検されたようだった。

「総司令官、仕事の時はシスと呼んでくださいと……」
「お前は名前が多くて紛らわしい。仕事の時に急に入れ替わるのはやめてくれ」
「気をつけます……」
「それよか、シス、どうしてそんなに雅に執着する」

 執着、と反芻する。正直、ユイットは雅のことが苦手だった。あの殺気は忘れもしない。とても恐ろしかった。苦手で、できれば避けたいと思っている相手をどうして探し求めるのだろう。それは果たして執着と呼べるのだろうか。
 仮に雅を見つけたとして、彼をどうするつもりなのだろうか。もしかしたら殺してしまうかもしれないし、見て見ぬふりをして声すらかけないかもしれない。それはユイット自身にも分からなかった。

「何故……でしょうね……」

 今はまだ、そう答えることしかできなかった。
 日も沈み、空が随分と暗くなった頃、静かに雨が振り始めた。徐々に強くなっていく雨はアスタ12番街の張り詰めた空気を解していく。昼間に比べてかなり気温も低くなっている。

「シス、今日はもう帰れ。咳が酷くなっているな」
「そうですね……そうさせてもらいます」

 そしてまたいくつか咳をした。

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