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ep.02 [Each]

 二人はしばらく無言で相手の様子を伺っていた。すると雅は何かを思い出したように「ああそうか」と呟くと前を向き歩いていく。

「ちょっと待てよ!何なんだよアンタ!俺を疑っておいて気まぐれに無関心になって、誤りもしないなんて何様のつもり?」

 気づけば焔は声を荒げていた。一方の雅は顔色ひとつ変えずに振り向き、じっと焔を見つめる。

「……何処に謝る要素があんの」

 その雅の言葉に腹を立てた焔は、自分よりも幾分大きい雅に掴みかかる。雅は掴みかかられた事によって何かが切れたのか、そのおとなしさを一変させ、焔の手首を掴んで引き剥がした。
 同時に、手首から手の甲にかけてピリッとした痛みを感じる。掴まれたことによる鈍い痛みとはまた違ったもの。焔は驚いて雅の手を振り払う。その手を見れば、手の甲に内出血の痕があった。

「何したんだよてめえ……」
「……別に」

 能力を使ったんだろうと直感で理解する。そっちがその気なら……と焔は周りを見渡すが、生憎火種になるようなものはない。すると丁度通りかかった大人に喧嘩を制止された。

「おい雅、喧嘩はまずいって!悪いな、お嬢さん。こいつは怒らせないほうがいい、死ぬぞ。」
「(お嬢さん……ねえ)」

 男になだめられ雅は落ち着きを取り戻したようで、殺気もみせなくなった。焔は納得いかないといったように顔をしかめると、改めて雅の正面に立って尋ねる。

「じゃあ、なんで俺をここに連れてきたか、理由だけでも教えてくれたっていいだろ?」
「……そのテの情報屋、あの近辺で子供を狙う野良が居るって」

 雅は再び前を向いて歩きだした。男は雅に「頼むから、喧嘩だけはすんなよ」と念を押し、去っていった。焔は気まぐれな雅を猫かよと思いながらも、もう何も言わずついていく事にした。
 一件の家の前で、雅は足を止めた。表札は無いが、おそらくここが雅の家だろう。表札があったとしても雅の名字を知らないから意味がないのだが。家の前でぼーっと突っ立ってる焔に雅が声をかける。

「……伊崎、なにしてんの」

 焔はその声で我に返ると、いそいで家へ入った。リビングにはソファーの代わりにウッドチェアが置いてある。特に変わったところはなく至って普通の家だ。
 焔自身から非日常を求めて逃げ出してきたはずなのに、帰る家があるという事を羨ましく思い、少しだけ家に帰りたくなっていた。どのみち国内は閉鎖されているため帰ることなどできないのだが。
 雅は突っ立ったままの焔に座るよう促すと奥の部屋に入っていく。焔は近くにおいてあった白い椅子に遠慮がちにちょこんと腰掛けた。
 手持ち無沙汰になった焔は室内をきょろきょろと見回す。洋風民家独特の小洒落た窓に白くて綺麗な壁。壁には少々凝った作りの振り子時計が規則正しいリズムを刻んでいる。
 焔が東国では珍しい振り子時計に見惚れていると、奥の部屋から雅がひょこっと顔を出した。

「伊崎、こっちおいで……ココア、飲める?」

 その部屋はどうやらダイニングらしかった。

「あ、うん、飲める」

 無口で無表情で高身長な、少し怖そうなイメージを持つ雅がココアを飲むという意外な可愛らしさに、焔の緊張は少しほぐれた。

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