コップに入れたお茶の中の氷が全てとけてもうすでに最初ほどの冷たさはないのだろう。私はといえばもうすでに飲み干してしまったしついでに言うと暇をつぶす方法すらも失ってしまった。今日は休みだから私の家に行こう、という彼の提案を受け入れてあげたというのに先程から彼はなにやら雑誌をよみふけってかなり時間がたっている。つまり私は放置されている。これはあんまりである。

「尽八、まだ読み終わらないの?」

「待て、今良いところなのだ」

少女漫画を貸してあげたところそれに夢中でこの会話ももう何度したことであろう。良いところって、全部が尽八にとっちゃいいとこなのかよ、とつっこみたくなったけれどもそれすらも今は無駄なのだろう。少しぐらい構ってくれてもなあとは思いつつもそれを口にだすことは恥ずかしくて無理だ、ベッドの上に頭をうめれば自然と眠くなってきた。ああ、やばいなあとは思いつつも尽八は漫画に夢中だし少しだけなら


「なあ名前」

もう少しで眠れそうだったのにタイミングの悪い男め、もしかして狙ったか。と思った毛れどそれはきっとないのだろう。

「なに?」

依然として体はベッドから動かさないまま答えると尽八は「この漫画の男はなぜ好きな人のことを諦めてしまったのだろうな」と聞いてきた。いやいや知るか。私は作者じゃないんだから。


「あーあれだよ…きっとね、好きな人だからこそ、好きな人と幸せになってほしかったんだよ」

とにかくそれでも答えなければならないしどこかで聞いたことのあるようなありきたりなセリフを並べて答えれば「ほう…」と声をもらして「主人公のことを諦めた男は協力してやるのに、それに気付かないでなんとももやもやするな」と不満げに声をもらした。

「尽八が他の人のことを好きだったら、付き合っても嬉しくないし。じゃあいっそ幸せになってほしいからがんばるんでしょ」

「オレは名前が好きだぞ!!」

何を言うか!と声をあげて漫画をおいてベッドのほうに寄ってきた尽八に「もしもだって」と言えば「おい起きろ、きちんと頭をあげて言うのだ」とぺしぺし腕をたたいてなんとも鬱陶しい。さっきまで漫画に夢中でこっちのことなんて見向きもしなかったのに。こうなれば意地でも寝てやろうかという考えが一瞬浮かんだけれど無理そうである。


「わかってるわかってる、私も大好きだよ」

「適当に言うな!!愛情が感じられんぞ!」

そうなれば強行手段ともいうべきか、尽八が私の脇に手を入れてうつ伏せからなんとかして自分のほうを向かせようとしたので必死に踏ん張っていると少しくすぐられて力が抜けた。せこい。


「わっはっは。オレの勝ちだな」

「せこいよ」

この体制もなかなかアウトでは、と思った。上に私にまたがるようにして乗っている尽八が動けないようにがっしり固定してきている。無意識ってたちが悪い。心臓が少しうるさいのは気のせいだきっと。
なんとなくむかついて頭につけているカチューシャをとってやれば「あっこら!」と少し怒る声が聞こえたけれど無視だ無視。


「…なんでいっつもカチューシャするの?ださいッショ」

「巻ちゃんの真似をするな!!地味にショックだからなそれ!」

長い前髪が垂れてきて若干邪魔そうに顔を歪める尽八をみてこっちの方が絶対かっこいいんだけどなあと思った。カチューシャをださいと巻ちゃんに言われたエピソードは聞いたことがある、ださいださくないではなくただ単にしていないほうがかっこいいのになとは思った。


「やっぱりカチューシャでいいよ、かっこいいもん」

「……そ、そうか…そ、うだろうな…!」

急にしどろもどろになってうろたえる尽八にこれは照れてるなと思いにやにやすれば「笑うな」と言われた。顔も少し赤くてかわいいなと手を伸ばせばそれを掴まれてそのまま抱きくるめられた。尽八の良い匂いがふわりと鼻をかすめる。前に香水でもしてるの?と尋ねたことがあるけれどしていないと答えた。それでも良い匂いがするから不思議だ。


「やはりオレは離すことができんよ、他の男を好きになってもな」

「そんなことあると思ってる?」

「きっとないだろうな」

くつくつと笑う声が耳元で聞こえる、自信満々な顔をしきっとしているのだろう。


「なあ名前このままだめか」

カチューシャがない尽八というのはやけに色っぽくてだめだ。ペースに流されそうになるもすんでのところで踏みとどまる。

「だめです」

「な、なぜだ!」

「だってずっと少女漫画読んで私のことほっといてたからその報いですね」

「……一か月」

ぽそりと呟かれた言葉に確かに考えてしまうものがある。男の人の性欲とかどうなのだか知らないけれどこれまでの頻度のことを考えればきつかったのだろうか。というのも全て尽八との時間があわないというのが主な理由だ。

「ずっと我慢してたんだ…今日も一回触ってしまったら抑えられなくなりそうだった…」

「…それで漫画……?」

「う…いや…うう…」

認めたくないのだろうかうなってなかなかイェスとは言わない。


「…だめか?」

髪をかきあげるしぐさだってかっこよくてたまらない。きっと尽八は私がそういうのに弱いとわかってやっているのだろう。

「……で、でも」

止めさせようとしても首筋に顔をうずめて吸いついてくる尽八に抵抗ができない。

「すまんな、もう何を言ってもきっと聞くことができない」

にやりと笑う尽八におとなしく本を読ませたままでよかったかなと考えるももうすでに遅かった。