新しくできたお姉ちゃん。かわいいし、料理だってできるし自分もあれくらいしっかりできたらなあと思うほどだ。幼いころから兄妹がいなかったせいでなにもかも一人でやらなければいけなかったのもあるかもしれないけれど、幼いころからたくさんの兄弟に囲まれてきた私にはわからなくて申し訳なくなる。
男ばかりに囲まれてきた生活は別に嫌というわけではなかったけれど、それでもやっぱりお姉ちゃんができると嬉しい。

だがしかしそのお姉ちゃんについて、お姉ちゃんについてではなくお姉ちゃんに関することと言った方がただしいだろうか。私の片割れでもある風斗が、珍しく異性の人間を気に入ってるのかと思っていた。まあ本人に聞いてみなければわからないのだが。




「………」


「どーしたんだよ名前風斗と一緒じゃないなんて珍しくなーい?」

「双子だからっていつも一緒にいたらおかしいでしょ…」

リビングのソファに座って何をするわけでもなく考え事していると椿兄さんがきて隣に腰をおろした。


「今日お仕事は?」

「今日はないんだよね、つまり名前とずっと一緒にいることができるんだよ!俺もううれしくって、それに今日は邪魔なあいついないみたいだし?」

たぶんあいつというのは風斗のことなんだろう、風斗も風斗で椿兄さんのことをチャラ声優なんてよんでるしあまり仲はよろしくないように見える。


「たぶん、風斗はお姉ちゃんと一緒に…いるんでは…ないですかね…」

語尾がだんだんと小さくなっていく、たぶんきっとそうじゃないかと思ったからいっただけで確信はないけれど少し寂しい気持ちになった。私じゃなくて風斗は新しいお姉ちゃんを気に入ってしまったから仕方ないと思う、ってこれじゃあまるで私が焼きもちをやいているみたいだ。


「…なになに、どうしたの名前おにーちゃんに話してごらんよ」

いつものふざけた様子ではなく、少し真面目なトーンで優しく話しかけてくれる。こういうところはお兄ちゃんだなあなんて思う。いつも梓兄さんにつっこまれたり、お調子者だけど私が落ち込んでいれば話を聞いてくれるし、なんだかんだいって椿兄さんにはお世話になっているような気がする。



「……うー……違うんだよねえ…違うはずなのに…」

膝を抱えて唸る、椿兄さんに言うのがなんだか恥ずかしい。素直に嫉妬してますなんて言えない。だって家族だし風斗は私の双子なのだ、嫉妬ではないと思う、けれども少しもやもやする。






「……椿兄さん…は嫉妬したことある……?」

微笑んだままこちらの返答を待ってくれていた椿兄さんにそう返せば「んー俺?普通にあるけど、そりゃあもう毎日ってぐらい」と言われて吃驚して「そうなの…?」と返せば頷かれた。


「名前が他の兄弟と仲良くしてると嫉妬の心でいっぱいだしさー、風斗と一緒にいるのも嫌」

「嘘つき……」

「ほんとだって、何信じてくんないの?」

まさか自分のことを言われるだなんて思わなくて少しほおを膨らませるとつつかれた。

「だって、椿兄さんはお兄ちゃんのままだし、私だって妹でしょ、そんな感情おかし…」

椿兄さんの方をみると何故か目を見開いて驚いた様子でこちらを見ている、何かおかしなことを言っただろうか。


「い、今お兄ちゃんっていってくれた!!!もー俺超感動なんだけど!!もっかい!!もっかい言って!!!」

「え、それ違うじゃん!言葉のあやっていうか…!」

ぎゅっと抱きしめられて興奮した椿兄さんをいつも止めてくれる梓兄さんはあいにくいない。どんだけ妹萌えなんだろうこの人、少し呆れてしまう。もしかするとお姉ちゃんも同じ目にあう日がくるかもしれない、いやもしかするともうきているかもしれない。


「名前ってばそんな風にいつもよんでくれないしさ、いつもそんな風に呼んでくれてもいいんだよ?」

「…お兄ちゃん妹のお話聞いてくれる気あるんですか」

「どうしたのほんとに。いつも可愛いけど今日とびっきり可愛くて俺倒れそう」

「…倒れるならもう呼ばない」

「ごめん嘘」

さっきまでの真面目はどこにいったのかもうすっかり椿兄さんのペースになってしまっている。


「……椿兄さんは梓兄さんが誰かにとられちゃったら悲しい………?」

「そりゃーね、だって俺梓大好きだし」

そのセリフには少し危ないものを感じるけれど兄弟としてお互い信頼しているということを知っている。正反対のような二人がいるから二人で成り立っている、と私は思う。けれど、私たちはどうだろう、私がいなくても風斗は風斗で成り立っている。私だけがきっと兄妹離れというのをできていないんだろう。



「だめなんだよ…だめなんだよつばにい……」

つばにいに抱きしめられたままだったので背中に手をまわしてぎゅっと抱きついて顔をうずめる、これじゃあだめだってわかってるし、私だって風斗の重荷にはなりたくない。けれども少し風斗が離れていくのが寂しいと感じる、そんな自分だって嫌だし、自分でも気持ち悪いななんて思う。


「そんなに落ち込むことないって、名前の言いたいことはなんとなくわかる。双子ってずっと一緒にいるしもうそれが当たり前だって感じちゃうから、突然できた違和感になれることができないだけなんだよきっと。これからゆっくり慣れてけばいいじゃん?」


ね、と優しく囁かれて小さくうなずく。

「その分俺がたくさん一緒にいてあげるよ」

「……ありがとうつばにい…」

「てっきりいらないとか言われると思ったのに、俺本気にしちゃうよ?」

普段なら自分から滅多にこんなことしないだろう、いつもは必ず誰かいるリビングに誰もいないからというのもあるかもしれないけれどなんだか今日は誰かにこうして慰めてもらいたい気分だった。つばにいとあずにいのように性別が同じ双子だったらなにもここまで悩むことなんてなかったのだろうか。
ぽんぽんと頭を撫でてくれるつばにいの手が心地いい。


「眠いねつばにい……」

「寝てもいいよ?そんな眠そうな顔してて寝るなっていう方が鬼畜だしね」

少し相談して気持ち的にも落ち着いたからだろうか、瞼はだんだんとおちてくる。相変わらずつばにいには抱きしめられたままでこのまま体重をかけるのはなんだか悪いと思ったけれどもうそれすらも億劫になるくらいには眠る体制にはいってしまっていた。ひと肌にくるまれて眠るのはいつ振りだろう、幼いころは風斗とよく寝たななんて思った。今となっては風斗の仕事の都合などで一緒にいれないことがいつの間にか多くなってしまった。
ああそうかやっぱり私は寂しかったのかもしれない。


「おやすみ名前」





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「…………」

リビングにただならぬ不穏な空気を醸し出して立たずむ人影が1つ。




(…どういう状況なんだよこれ)


久々にオフでゆっくり寝て、起きてきたらこのありさまだ、名前に学校のこととかいろいろ聞かねばならないことがあったのになんだこれは。この状況は言った何なんだ。
自分にとってすごく受け入れがたい、不愉快な光景だった。

なんで、よりにもよってチャラ声優と名前が一緒にいるのか、一緒にいるだけならまだいい、まだ許せる範囲であるのに


「抱き合って寝てるってなんなんだよ…」

自分が家をあけている間にここまで仲が深まるものなのか、自分が家に帰ってくると名前はいつも誰よりも僕のことを優先してくれていて、なのに、それなのに。
今はこのチャラ声優と一緒にいて、しかもこんなに仲よさげに

ふつふつと少しずつとある感情が湧きあがってくる。



「……ねえ、起きて名前」

耳元でそう囁くも一回で起きる気配はなし、そりゃそうかなんて思いつつ今度は先程よりほんの少し声量をあげて「起きて」と言うと少し反応してピクリと動いた。



「………う……」

少し唸り声をあげて顔をあげた名前自分の状況に驚いたのか慌てて下になっている人間から手を離しておこさないようにゆっくりと起き上がった。

「気分はどう?」

「……ま、まあまあだよ……」

チャラ声優と一緒に寝てまあまあとか言われるとちょっとそれはそれで僕としては嬉しくない。そして先程までのことを思い出しているのか顔を赤くしているのも気に食わない。


「ふ、風斗どうしたの…?私に用事があった…とか?」

双子だし僕の機嫌があまり良くないことは分かるらしい。おそるおそると言った様子で尋ねてくる名前に「なーんでチャラ声優と寝てたわけ?」と笑顔で尋ねれば、何かを言おうとしたものの「眠たかったんだもん…」と言った。否、言い変えたと言った方が正しいだろうか。嘘だな、と僕は思ったわけで。


「そっか、じゃあ僕とも寝よう?ね、いいでしょ?」

「え、ええ…だって今寝たばっかで…」

「無理やり起しちゃったしさ、申し訳ないから」

名前の腰に手をまわしてぐっと距離を縮めて囁けば、ほらね僕のお願いに彼女は逆らえなくなるんだ。耳が弱いってことも狙って言えば照れちゃって何も言えなくなるんだもんねかわいい。


「つ、つばにいに何かかけてあげなきゃ…」

「いいってそんなの、馬鹿は風邪ひかないよ」

こんな時まで人このことかよ、ほんとおせっかいにもほどがあるよねチャラ声優なんてほっとけばいいのに。

「そんな言い方だめだよ風斗」

困ったような表情で言う名前の言葉だって今は素直に聞いてあげられない、なんたって僕の機嫌を損ねたんだからさそこんとこわかってんのかな。


「僕名前に言わなきゃいけない大事な話があるんだ」

「……わ、わかったよもう…」

あっさり演技にひっかかってくれる名前はつくづく変わってないなと思った。






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「なんで私の部屋なの……?」

「まあまあいいじゃん、それとも何見られちゃまずいもんでもあるの?やらしーなあ名前」

「なっ!ないよ!」

いつも部屋にきているしそんなものないってこと風斗だってわかっているだろうにどうしてこう一言つけたしていくんだろうか。


「それで、大事なお話って…?」

「ないけど」

「へっ?」

「だあーから、ないって。しいていうなら僕がいない間に兄弟に変なことされてない?」

「大事なお話って聞いてたからもう…!ちょっと、心配したのに損した…!」

「僕にとっては大事な妹に何かされてたらそれはもう大問題なんだよ、わかる?つか何を心配したわけ?」

それを言った途端に顔をばっとそらして「何も…」と呟く。嘘をつくのは上手じゃないと自分でも自覚しているけれど誤魔化さずにはいられなかった。


「ちょっと僕がいない間にそんなに信用できなくなっちゃったの…?」

「……そ、そういうわけじゃっ」

「なら話してくれてもいいんじゃない?」

「も、もうやだ風斗いじわるになってるお姉ちゃんとこいってよ…!」

「なんでそこで姉さんがでてくるわけ」

「…風斗最近だって……っな、なんでもない…!」

途中でいいかけて気付いてやめる。これをいったらどうなる、そこで何かが変わるんだろうか。


「最近僕がなに?」

「…忙しそうだよね」

「それじゃあ文章が繋がらないんだけど」

誤魔化そうとしてもなかなかきわどいところを突かれて良いわけができない。口げんかに勝てたことなかったもんなあなんて思った。



「……最近お姉ちゃんとよく一緒にいるね、って思った…だけなの」

それ以上余計なことをいってしまっては先程の会話の中心になっていた嫉妬の心のようなものが風斗にばれてしまいそうで怖かった、いやもしかすると私が何も言わなくても風斗の考えがわかることがあるように風斗も私の考えがわかりきっているかもしれないけれど。そう思うとすごく恥ずかしくて、すごく嫌だった。この気持ちはわかってほしくないものだった。


「新しくできた家族だしどんな人か最初って気にならない?ていうか僕より名前の方が一緒にいると思うんだけど」

確かにはじめて女の子の家族ができるなんて嬉しくて、いろいろお話したりショッピングしたり一緒にいる時間は多かったと思う。けれど、同性と異性とじゃそれは別の問題じゃないか。
知ってるんだ、この間だって久しぶりのオフの日に二人でデートしたってことも、だってクラスの子で見たって子が騒いでいたから。
もちろんそんな言葉言えるわけもない、兄妹なのにそんなのおかしい。自分が嫌だ。



「…そ、だね……ごめんね風斗」

やっと出てきたのはそんな言葉で、このままじゃ何も自分の中では解決しないままなんだろうけどもうそれでもいいと諦めの気持ちがでてきている。


「………嘘つき。」

腰かけていたベッドから立ち上がり私が座っていた床に風斗も座った、今は表情すらも見てほしくない。

「僕に言いたいことあるんじゃないの?」

「ない……」


「そんな顔して?ほんとにさ何か言いたいくせに言わないのってすぐ表情に出るよね名前。我慢するくらいなら最初から言えばいいのにそういうの全然可愛くないから。自分じゃ隠してるつもりなわけ?ばればれだよ僕には」

呆れるようなばかにするような声で笑う風斗の言葉が胸にささる。別に風斗が毒舌なのは今にはじまったことじゃないしいつもならさらっと流すことができるのに、じんわりと目頭が熱くなって俯いて見られないように必死に我慢する。泣きたいわけじゃない、悲しくもないのにそれなのに自分の気持ちとは裏腹に涙がでていく。


「泣きたいのも我慢しなきゃいいのに、だからさ言ったでしょ、そんなの僕には隠してもだめなんだって」

風斗の手がすっとのびてきてつたう涙を拭う。
いじわるなことを言うくせに、それは私のためを思って言ってくれてるってことがわかるから、余計嫌になる。



「……私、すごく兄離れできないよ風斗…」

「いいんじゃない別に」

「風斗も…成長したし、そこらへんはね区別しなきゃって思ってて…だからお姉ちゃんのこと気になってるのかなって解釈して、いろいろ考えたんだけどやっぱりだめで……」

結局は風斗が成長してしまっていつかは自分から離れていってしまうとかんがえて嫌になって、とんでもないブラコン思考であることに行き着くのだけれど別に風斗が誰かと恋愛をするのは自由だしもしそういう相手ができたならば応援してあげたい。本当はただ



「……寂しかった…」




「それを言葉にして僕に伝えなきゃわかんないでしょ」

ぎゅっと抱きしめられて「なんでそんないろいろ悩んで勝手に解釈しちゃうわけ?ばかなんでしょ?それでいろいろため込んで僕には言わないで、意味分かんないよ」といろいろ言われたけれど全部当たっている。


「兄妹だし双子だからさ大抵の名前が思うことは理解できてるつもりなんだけど、僕が全部全部理解してくれると思ったら間違いだからね、たとえ名前が正しいと思ってても僕がそれを認められない時だってある。たとえばさっきのやつね、姉さんのことは確かに気になる存在であるけど名前が思うような感情とは違うってとこね」

風斗の言葉を聞くとなんだやっぱり私の思っていたことは筒抜けだったらしい。分かっていたんだなと思うと同時にそれまで思っていたことがすべてすっと抜けていくようなどこかすっきりした気分になる。



「つまりはさ、嫉妬、してくれたんでしょ」

ね、名前と囁かれて顔が熱くなる。認めなくてあえて自分の中でもその言葉だけはださないようにしていたのに


「ち、ちがう…く、ないかもしれないけど違う…!!」

「いいってそんなムキになんなくて僕としては嬉しいけど?」

楽しそうに笑う風斗に完全にからかわれてるなと思った。


「だからってさ僕以外の兄弟にあんなことしないでよね、チャラ声優とだって抱き合って寝てたしあれは何、仕返しに僕を嫉妬させたいの?」

「ち、ちが…!」

「そんな林檎みたいな顔して言われても説得力ないんだけどね」

違うのにうまく言えないのが悔しい、風斗の肩をおして体を離そうとするものの力がこめられていてそれができない。


「まあ安心してよ」

ぐっと風斗の顔と距離が近くなって


「僕が名前から離れることはないからさ」

にっこりとそう言って笑う風斗はかっこよかったけれど、自分が言った言葉をふまえてのセリフだと思うとやはりはずかしい。けれども嬉しいと思ってしまう自分がいるのだ。
きっと狸寝入りをしているであろうつばにいに後で御礼を言おう。