なんだかむかむかするなと思っていた。お腹の調子がずっと悪くて夜ごはんもあまり食べられなかった、皆心配してくれたけれど正直に言っても心配させるだけだしすぐに治るだろうと思っていた、女の子の日でもなければ思い当たることもなかったし本当にすぐに治ると思っていた。


「………っ」

はずなのだが痛みはましてずきずきと痛んで夜も眠れない、もしかして何かの病気になってしまっただろうかと思ったけれどそれはないだろうと思う。確信はない。薬を自分で持っているわけじゃないし医者の雅臣さんを今深夜の時間に起こすことなんてできない。ベットの上で横になれば治ると思っていたけれどそんなことはなく、ただ痛みに耐えるだけで辛い。どうしたらいいかわからない。こんなこと初めてだ、どうしよう。少し吐き気もするし気持ち悪い。


とりあえずベットから起き上がり上に行って水でも飲もう。そう思ってゆっくりと部屋できっと眠っているであろう兄弟たちにに気付かれないように足音も消すように歩いてエレベーターのボタンを押す。


食あたりとかはないと思う、しっかりしている右京兄さんが御飯を作っているわけだしそうだとしたら今までの信用を少しなくしてしまうほどには信じている。


「…ストレス…とか…」

自分で呟いておいてあれだがたぶんそれも考えられない。今まで辛いことがあったら全て誰かに聞いてもらったりしていたしそれだけで少し心が軽くなったりしていた、自分で抱え込むことなど自分には重すぎて出来なかったのだ。

そこでふと思い当ることを1つ。
その愚痴を聞いてもらっていつもアドバイスをくれたりしていたのは私の双子の兄で、そして今ここにはいない風斗なのだ。そういえば風斗とはどのくらいあっていないだろうと考えると結構会っていないような気がする。


「…………いた…」

お腹をさすりながら治らない腹痛に早く治ってよと暗示をかける。













いつもの慣れた5階にはもちろん誰かいるわけがない、時計は深夜2時を過ぎていたしもしこんな時間にここにいる処がみられたら過保護な兄弟たちは心配に心配をしまくるだろう。それは姉の絵麻姉さんにもいえることなのだが。


コップに水を注いで一気に飲み干して一息つく。もちろんちっともよくならないしこんなの気休めでしかなかった。けれども少し期待を抱いていた、それはたった今打ち砕かれてしまったけれど。やっぱり雅臣兄さんに素直にいっとくんだったと後悔するもおそし。


暫くの間ソファに寄りかかってしんと静まりかえった空間に心を落ち着けていた。普段なら夜だし怖いと思うんだろうけど今は何故かそれが心地よく感じたから不思議である。
ここで寝たら怒られるんだろうけど部屋よりこちらのほうがよく眠れそうだなあ、なんて考えたときに誰かの足音が聞こえた、ああやばいなあばれたら困るんだけどななんて思いつつ今の状態では早く動くことなんてできず、もう心のどこかで謝れば許してくれるかななんて諦めていた。
そう考えている間にも足音はこちらにむかってきていて、






「何してんの」


上からのぞきこまれて目を開けるとそこにはずっとあってなかった風斗がいて、何でだろうと考えたけれど答えはでてこなかった。


「風斗……」

「こんな時間にここにいるなんてさ、僕今日仕事終わって家に帰れるって連絡してないはずなんだけどな…」

おかしーななんて呟きながら移動したのは私の隣で久しぶりに風斗にあえてすごく嬉しいけれど今この状況じゃ喜ぶことすらもいつものようにはできなかった。嬉しいはずなのにきっと今の自分の顔には眉間にしわが寄っていてひどいんだろうな。


「おかえり……」

「ただいま…ってどうしたわけ、なんでそんな辛そうな顔してんの」

いつも通り素っ気ない言い方だなあなんて思いつつ心配してくれてることが分かって嬉しくなる。


「大丈夫だよ…にしても風斗お仕事今日は…」

「名前が作り笑いするとすぐわかるし大丈夫じゃなさそうだから僕は聞いてんだよね」

ぐっと距離と縮められて頬に手を添えられ自然と顔は風斗の方へ向かい合う形に。



「ちょっと、お腹が痛くて…」

「……ごめんそういうの男の俺にはわかんないや」

「ち、違うの…そうじゃないの…理由がわからないの」

一瞬女の子の日だと勘違いしたのかさっと視線をそらしたけれどそうじゃないとわかるとなんだとつぶやいた。


「薬は?」

「飲んでない……」

「ばかじゃん、もしかしてお腹だして寝たとかじゃないの」

「違うよ……もう……」

もっと強く反論したいのにそれができない、風斗も本当に私が辛そうに見えたのかそれ以上はいつもみたいな意地悪なことは言ってこなかった。


「お仕事で疲れてるでしょ…?もう風斗寝てもいいから」

「名前は」

「もうちょっとだけ、ここにいたら部屋にもどる…よ…」

「……兄妹なのにさあ、少しくらい頼ってくれてもいいんじゃないの」

風斗のためを思って返答した答えが気に食わなかったのかむすっとした表情に変わり、なるべく優しく脇に手をいれると持ち上げて自分の足の間に座らせた。


「ふ、風斗…?」

「とりあえずさ、冷やさないほうがいいでしょ。ねえ、ちゃんと食べてる?前より肉つき悪くなったような気がするんだけど」

腰にまわされた腕を振り払いたくなったけれど風斗にこうして抱きしめてもらうのも久々でなんだかそれができなかった。


「ありがとう…」

「ほんと感謝してほしいよね、こんなことしてあげるの名前にぐらいだし」

「うれしいなあ」

きっと今日も仕事で疲れてきて本当は今すぐにでも眠りたいぐらいだろう、それでも今こうして私につきあってくれているところとか普段表には出さないけれど本当は優しい人なのだ。


「そろそろ私も部屋に戻るし、もう寝た方がいいよ風斗も」

少しましになったような気がする、立ち上がろうとしたとき後ろからそれを止められ


「名前の部屋いってもいい?」

いつも聞くまでもなく勝手に入ってくるのにこうして許可をとるあたりまだ心配なんだろうな、静かにうなずくと風斗が立ち上がり一瞬のうちに抱きあげられた。

「えっ…!ふ、風斗いいよ、歩けるよ」

細い体の風斗に持ち上げてもらったりなんかしたらきっと腕がしびれてしまうんじゃないかとひやひやする。


「何心配してるわけ、僕がこうして運んであげるんだからさ黙って従ってればいいのに。体調悪いんでしょ、これ以上悪くなったらやだし…」

風斗はこんなに優しかったっけ、と思った。久しぶりだからぬくもりも全部忘れてしまっているからそんな風に感じるだけなのかわからないけれど少し大人になったのかななんて思った、座っているときはあまり意識しなかったけれど身長も少し伸びたような気がする。


「大きくなったね…」

「なにそれ、僕だって成長するよ」

少し笑った風斗に微笑み返した。















結局風斗は私の声を無視して部屋までご丁寧に運んでくれた、実の兄弟にこんなことされるなんてなんだか気恥ずかしいけれど風斗だからまだ許せるような気がする。



「あ、ありがとう……」

「お腹良くなった?」

「う、うん…不思議なことにさっきよりは…」

当然のことながら私の部屋にくるということは風斗も一緒に寝るということになるのだが久しぶりで緊張してしまう。兄妹相手になに戸惑ってるんだと自分に言い聞かせる。


「じゃあもう寝よう、明日オフだから買い物に付き合ってよね…」

本当はすごく眠たかったんだろうな、というのがわかるほど風斗はベッドの上に寝るや否やすぐに寝てしまった。
のは、いいけれどがっちりと抱きしめられたままなので私が寝られるか心配である。



「…おやすみ風斗……」


寝顔はあんまり変わらなくてかわいいのにな、なんて思いながら夢の中におちていった。







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自分の隣で寝る彼女がやっと寝たのを確認して目を開ける、目の前にはすやすやと眠る名前。気付かれないよう寝たふりをしたわけだけど少しは演技力がついてきたんだろうか、だったらいいのに。


「…………心配させないでほしいんだけど」

久しぶりに会えたら具合悪そうだし本当になんなのか。あんなに元気がないのは久しぶりに見たしこちらとしても内心すごく焦っていた。僕がどれだけ想ってるのかきっと鈍いから気付いてないんだろうな。

本当は離れたくない、仕事のときだって兄弟たちに何かされてないか心配でたまらないのに。

抱きしめる腕に少しだけ力をこめる、僕からずっと離れていかなければいいのに。とんだシスコンだって思われたってかまわない、僕はそれくらい彼女のことが好きだから。

明日の朝には彼女が元気になってるといい、そして僕と2人きりで楽しいことたくさんしようよ。こうして今だって名前のことで頭がいっぱいなんだ。どんな女の子にだってそれはできないことで




「好きだよ……」


たった1人の僕の一番大切な女の子、早く元気になってよ。