※少しの年齢操作有










先輩が私より年下だったらとか、私と同じ年齢であってくれたらと何度も願った。
ずっと想いを寄せ続けてとうとう卒業のこの日。思いを伝えることはずっとできなかった。卒業するのは私でなくて先輩。きっと第2ボタンとか貰いに行く女の子殺到するんだろうな。
人見知りが激しい私にも話しかけてくれて、なんで先輩は先輩なんだろうって思った。卒業したらもう会えないし先輩がどこに行くのかも知らない。何にも知らない。


つんと鼻の奥が痛くなった。
卒業生でもないのに卒業式で泣いてる人なんて、と思い涙をぬぐおうとしたけれど周りを見れば私以外にも泣いてる人が結構いた。ならばこのまま今だけは泣いてもいいかもしれない。きっと私以外に泣いてる人も好きな人がいなくなって寂しいとか、良くしてくれた先輩がいなくなってしまうとかそれぞれ理由はあるんだろう。

寂しい、背中を眺めることができるのもこれで最後だ、しっかりと目に焼き付けておかないと。そう思うけれど視界はぼやけてしまう。


(最後、なんだなあ…)

実感して余計に胸が痛んだ。





卒業生の見送りにはたくさんの人が列を作って花束をあげたり泣いたり、笑ったりしていた。どうにもそこにいることができなくて遠くからぼーっとながめていた。
おめでとうございます、と最後くらい言いたかったけれど勇気が出ない。泣いてしまうそうだった、そんなかっこ悪い最後は自分でも嫌だった。

掲示物も何もなくなった空っぽの教室に次に入るのは自分だったらいいな、先輩と同じクラスになれたら嬉しい。
先輩が出てくるとひときわ女の生徒たちの声が大きくなったような気がする、誰にでも優しく親切な高尾先輩は後輩からも人気があった。
泣くことあるのかなと思ったけれど先輩はないておらず、やはりそこには笑顔があった。
皆に手をふったり、笑いかけて最後に一緒に写真をとったりまるでどこかのアイドルのようだと思った。


「名字ちゃんだよね?後でさ高尾が待ってるって」


後ろから声をかけられ驚いて振り向くと高尾先輩とよく行動とともにしたいた人が困ったような表情でそこにいた。

「あいつも自分で伝えればいいのにさ、俺でわりい」

「い、いえ全然…」

「じゃあ伝えたから俺は行くね」

待ってると言われたものの何か卒業記念にあげるものももってきているわけではないし急に言われてどうすればいいかわからなかった。
けれども嫌なわけではないので素直にその先輩が伝えた言葉に従うことにした。




「制服のボタン見事にないんですね」

「もしかして名前ちゃんも欲しかった?」

花束を抱えたままそう笑った、欲しいと喉元まででかかったけれど言うのはやめておいた。

「第2ボタンはまだ誰にもあげてないんだよね、この後打ち上げもあってさー時間ないから手っ取り早く言うけど名前ちゃんさ俺の第2ボタンもらってくんない?」

ポケットから取り出されたものは確かに制服のボタンで、貰ってほしいといわれて先輩を見つめる。

「え、ちょっと待って何気付いてないの」

「何がですか」

「何で」

「先輩落ち着いてください」

慌てた先輩を見るのはなかなかないことだった。


「だーかーら、俺名前ちゃんのこと好きだからあげたいんだけど」

充分アピールしてたつもりなんだけどなと付け足して手に握らせた。これじゃあ私が貰ってしまって、祝ってあげなきゃいけないのは私のほうなのに。何もあげることができない。


「…いいんですか、私なんかで。離れ離れになってしまうのに」

「それでもずっと好きでいる自信ありまくりなんだけど、名前ちゃんは違うわけ?」

にやりと笑う先輩はきっともうわかっている。

「もちろん、ありますけど」

「そんじゃあ後日改めてよろしくな名前」

手をひらひらふって言ってしまう先輩の背中をながめて最後にならなくて良かったと思う。あまりにもさくさくと物事が進んで行ってしまってこの後会うとなると緊張すると思う、というか今ですら心臓が激しく動いている。上手にポーカーフェイスはできていただろうか。

それに最後の呼び捨ては反則だろう。それにどうして私も先輩が好きだと言うこと知っていたんだろう。先輩は私の答えはきかないまままるでわかっていたかのように自分の思いだけを告げて言った。





「ね、どうよ俺の言ったこと当たってたでしょ」

「ふられたら立ち直れないとこだったんだぜ?信じてみるもんだな」

「あの後輩ちゃんよく高尾のこと目で追ってたからな、ていうかお前恋に関しては意外と奥手なんだな」

友人に今日で最後なんだから告白しなきゃ男じゃねえって言われて、確かに俺だってこのまんま離れるのは嫌だと思っていた。そこで言われたのがあの子も俺のことが好きだということ。そんな都合のいい話あるかと思ったわけだが聞けば聞くほどそうなんじゃないかと思って思い切って実行に移してみれば大逆転。まさかのだったわけだ。両想いだったならもっと早く伝えてれば良かったなヘタレ野郎俺のばか。

「なんて嘘だけど、ほんとは知らなかった。お前がさっさと告白しねえから適当に言ったのにまんまと信じるんだもんな高尾」

「は?」

「お前普段は周りのこと良く見てるくせに恋のことはまわりが見えないんだないやーでもすげえな俺って預言者になれるんじゃね」


ちょっと待ってくれよもし俺がふられたらどうしてくれてたんだという視線を送るもなにやら自分があてたことの余韻にひたっている彼には何を言っても無駄だろう。

「……えーちょっと嘘でしょー。名前にどうやって会えばいいわけ」

「彼氏彼女にやっとなれたんだから堂々とすればいいだろ」

そんなこといわれたってこちとらお前のせいで彼女の返事きかずにきたんだぞ。すげー恥ずかしい奴じゃん俺。
でも恋が実ったってことには変わりないんだよな、そう思うと複雑だ。


「ふっきれろ」

ふっきれるさ、今日からもう俺は愛しのあの子の彼氏のポジションにつけたんだから。