「結婚しましょう!大好き、私ずーっと好きでいられる自信ある!」

それはさすがにないっしょーなんて付き合った当初は思ったし重いなこの子。それにばかだと思ったりもしたけれど一緒にいるうちにこっちまでつられて笑ってしまうと言うかとにかく明るい子だった。俺に会うだけで嬉しそうに尻尾が見えそうになるくらい笑顔で声をかけてくる。ファンとかそういうのは全然怖くなんてないらしく誰の前でも彼女だって自信を持っているそんな子だった。
それがある日突然ぱったり。そう、すごく突然に俺に話しかけもしなくなった。俺はどうすればいいのか戸惑っていた。
今日の朝だって目が会ったはずなのに、悲しそうな表情をすると視線をそらしてすぐに行ってしまった。知らない間に傷つけることなんてしただろうか。と頭をひねってみても何も出てこない。というか常日頃ひどいことを言ってもそれでも彼女は笑い続けて「ひどいな黄瀬君は。でもそこも好きー」なんて笑って見せる人だった。
もしかして知らず知らずのうちに彼女を少しずつ傷つけていた?そう思うとさっと顔が蒼くなる。


「あ、ねえ名無しっち……」

なんて声をかけてみようとすれば避けられる。これは本格的にやばいなと思いつつもめげずに見つけては声をかけてみようとするものの俺の姿をみるたび逃げられてはどうしようもない。
なにこれほんとどういうこと。胸がぎりぎり痛んでダメージが俺にのしかかってくる。いつもはひっついてきてうっとうしいなとか思うのに急に彼女が離れていってしまえば俺の方が寂しかっただなんて。

「……納得いかねえ」

何があったかわからないけど理由くらい言ってくれたっていいんじゃないの。なんてちょっとむかついた。
なのでこうなったら無理やりにでも聞きだすしかないなと思い、帰り彼女の教室の前で待ち伏せすることに。
出てくる女の子たちが誰待ってるのだなんて話しかけてくるけど別に関係ないじゃんねとか思いつつも笑顔で「彼女っス」と返せばあからさま落ち込んだような表情になる。それよりもいなくなってくれないと名無しっちがいつ出てくるかわかんない、とか思ってた出てきた。俺を見たとたんすぐさま走り出したもんで、そりゃあもう俺だってその反応はちょっと

「怒っちゃうっスよ?」

待つことなんてめったにないのに喜ぶべきじゃないのそこはさあなんて思ったけど今の俺には彼女を追いかける以外の選択肢は見当たらないわけで。
バスケ部の脚力と普通の女の子の足の速さを比べたらすぐに追いつけた。彼女の手を掴んで逃げないようにおさえつける。


「なーんで今日ずっと俺のこと避けてるんスか?」

「べ、別に避けてなんかないよ…きょ、今日もかっこいいね黄瀬君」

いつもなら言われるその言葉も目が泳ぎながら言われてはなんというか、余計にあやしい。避けてるっつーのがばればれだ。

「今日会話した回数は?」

「………」

「今日俺に会いに来た回数は?」

「……」

「今日、俺と目があったのに無視した回数は?」

「……」

「10回以上なんスけど、ねえ名無しっち。怒ってる?」

そう尋ねれば唇をかみしめて俯いてしまった。責めているわけではないんだけど、こんな反応されたのは初めてで戸惑う。


「…黄瀬君の浮気者…ばか、毎日毎日私に嘘ついてたの」

明らかに彼女の声は震えていて、なによりも言われた言葉に驚いた。浮気者ってどういうことだ。

「毎日私が好きっていうたびばかみたいって思ってたんでしょ」

顔をあげた彼女はぽろぽろ涙を流していて、泣いてるのを見るのははじめてでこんな状況だけれどかわいいなんて考えてしまった。そんなこと考えている場合ではなく

「浮気…?いつ、俺がしたっていうんスか」

「だって青峰君がこの前黄瀬君違う女つれて仲よさそうに歩いてたよって言ったんだもの」

「え……」

記憶を探ってみるけれどそんなこと絶対にない。嘘ついたな青峰っち、そういえば俺と付き合う前名無しっちと随分仲が良かった気がする、それでそんな嘘でもついたんだろうけど

「ちょ、待ったそれ嘘だから。俺そんなことしてないっス」

「どうりで最初から私に冷たいわけだもんね、こうなることわかってたじゃない私も何やってんのほんと」

「あの」
「今までありがとう夢みさせてくれてありがとう」

これって俺ふられちゃったの、話がすーっと流れて行っておいてけぼりにされている。青峰っちは確かにあこがれの人だけど今だけすごく恨む。

「…もうほんとばかだよね、ひっついて邪魔だったでしょ、ごめんなさ…」

俺にとっちゃ聞きたくない言葉ばかり吐きだす彼女の口を塞ぐ。もちろん彼女の後ろはすぐ壁だし逃げられない。舌をねじこませれば色っぽい声をだすのもかわいくて、息継ぎがうまくできないのもしった上で長いキスをすれば頬を紅潮させて涙で目がうるんでいる彼女はすごくそそる。今日は一回もキスしてないしこれぐらいいいだろう。
あーもーかわいいななんて考えていると力をこめているつもりなんだろうか俺を離そうと彼女が必死におしてくるけど全然力がない。

「……俺のこと嫌い?」

そう尋ねるのは自分でもずるいってわかってる。だってきっと彼女は絶対首を縦にふらないってわかってるから。

「………いつもこんなに優しくないのに、やっぱり、おかしい」

「どうしても信じてくれないんスねーそっか、悲しいな俺。頭で覚えられないなら体で教えるしかないんスかね」

抱きしめる形で彼女の背中に手を入れて背中のラインに沿ってなぞる、名無しっちに今まで手を出したことはないけれど今の俺はなんつーかすごくそういう気分になってしまっているわけで名無しっちを見てるだけで興奮する。腰も細くて折れちゃうんじゃないかと思った。泣いてるのを無理やり犯すのだって悪くないかもななんて考えすらでてきてしまった俺は最低かもしれない。

「や、やめて…黄瀬君嘘でしょう」

「本気なんスけどね、いっつも言ってるのに俺のこと大好きだって。その大好きな俺にやられるのは嬉しくないんスか」

「あの、黄瀬君信じるからごめんなさい、だからやめて」

泣きやんでいたはずの彼女の目から涙。また泣かせちゃったな、と思うと同時に後悔。冗談のつもりだったのに冷静さを失っていた。

「嘘っスよ。……青峰っちのこと信じるからこうなるんス」

「でも、黄瀬君私に好きっていってくれたこと一度もないからほんとに、そうなのかなって……」

そういえば俺はいつも言われてばかりだった。彼女がずっと好きでいてくれるから大丈夫だと心の中で思っていたのかもしれない。

「好き、大好き」

と言って抱きしめればふわりと彼女の甘い匂いがした。
好きなんだけどな、言葉じゃ表せないくらい。彼女が毎日好きと言ってくる以上に俺は彼女が好きだ。

「……熱でもあるの?」

いつもは積極的な彼女がその日以来少し消極的になってしまったのは残念だけどその分俺が毎日今度は彼女に好きだと伝える番だ。