「涼太はよく泣くよね」

「人のこと言えるんスか?」

口角を吊り上げて笑った。

男の子なのに良く泣く人だったと思う。
最初に泣いたのは私が涼太に告白されたとき「はい」と答えたとき。一目ぼれだったし自分がこんな有名人と付き合えるだなんて思ってもみなかったので少しぐらい夢を見ても良いだろうと思い返事をした。すると彼の大きな瞳からは涙がこぼれた。慌てふためく私に「ごめんなさいっス、嬉しくて…」と泣いたのが最初。
噂とは大分食い違っていてなんだか良い人なんだなと感じた。

次に泣いたのは私が違う男の人といたとき。
クラスで話しているうちに仲良くなって、たまたま出会って立ち話をしていたのを見ていたらしく「誰何スか」と珍しく怒ったように聞かれたように素直に友人だということを伝えたのに信じてもらえなくてさすがに私も怒るとびっくりしたような表情を浮かべてから目に涙を浮かべた。「ごめん、名無しっちのことになるとどうしようもなくて」と一生懸命に謝る彼にすぐに怒りは収まっていた、そんな嬉しいことを言われたらしょうがない。
それになんだかんだ言って涼太がなくのはたいてい私のことなのでそれほど悪い気はしない。

ちょっとしたことですぐに涙を流してしまう彼は感動する映画やそういったものではあまり泣くことがなかった、むしろそういったものは私の方が泣いてしまうことが多かった。「あんまり泣かないんだね」と言うと「泣いたら涙で名無しっちの顔が見れないっス!」泣き顔はあんまり見てほしくないんだけどなと思ったけれど火照った顔で彼の方を見ることはできなかった。

そして今度は私が彼に泣かされる番だった。

「結婚しよう」

普段見ることのない真っ直ぐした目で伝えられ、私の目からは勝手に涙がおちた。
抑えることはできなくてあ、泣いてると気付いたのも少し遅れてからのことだった。

「もー泣き虫っスねえ」

そう言って笑う彼に涼太が言えることじゃないじゃない、そう思ったけれど成長した彼は昔より涙を流すことはなくなっていた。むしろ私の方が増えたのではないかと思った。
もちろん悲しいことより幸せで流す涙の方が多かった。

「昔俺良く泣いてたっスよね、でも今は名無しっちのほうが泣き虫じゃないスか」

ぎゅっと抱きしめて耳元で懐かしむようなそんな感じで優しく言葉を紡ぐ。

「結婚しよう」

もう1度優しく言われた言葉にまた私の涙が止まらなくなった。
よろしくお願いします旦那様と呟けばちらりとのぞく耳が真っ赤になっていてくすりと笑みがこぼれる。


「もーやだ、俺幸せで死んだらどうしてくれるんスか」

「そしたら私も一緒に死ぬよ」

「それはだめ!」

すぐさま否定する彼に「どうして、死ぬときも一緒にいたいものじゃないの?」と聞くと「もう、冗談っスー…」と顔は見えなくてもなんとなく拗ねているのがわかった。

「私が先に死んでも追いかけてこないでね」

「なんでスか?」


「好きな人には最後まで幸せな人生を歩んでほしいから」

「名無しっち…、死ぬわけじゃないのになんでそんな」

「もし私が先に死んでしまったら、浮気も許す、夜遊びも許すことにしましょう」

「名無しっち…!」

涼太が大きい声を出して頬を手で包み込んでこちらを振り向かせる、また泣かせてしまった。そんなつもりはないのに、久しぶりに見た彼の涙はきっと悲しいほうの涙なのだろう。


「けれど、ずっと上で見守ってるからね」

「な、なんで…そんなこというんスか浮気なんてできないっスよぉ…」

「しないでしょう?」

死んでもなおずっと見守り続けることができるのならできればそうしていたい、最後を見届けることがたとえできないとしてもずっと


「俺がすきなのは、これからもずっと名無しっちしかいない…」

まだ結婚する約束をしただけでお互い泣いてしまうなんておかしいね、と2人で笑った。

「死ぬなんて言わないで、まだ生きてるのに」

「幸せすぎて死にそうだって言ったの涼太なのに」

「………ごめん」

「嘘だよ」

泣き虫でもいいのだ、誰かのためを思って泣ける彼の涙が私は誰よりもすきなのだ。


「泣かないで旦那様」

「じゃあ泣かせないでもらえるっスか俺のかわいい奥さん」

愛しの泣き虫さん、幸せになりましょう。