「ただいまー…」
小学校のときから幼馴染の女の子が俺にはいる。中学も一緒でまさかの高校も一緒だった、これを腐れ縁をいうのだろうかと思ったけど俺にとっては腐れなんて言葉を使うにはもったいなくて嬉しいものだった。もしかして神様のご縁だろうかと思ったほどだ。
幼少のころの思い出はあまり覚えていないけど1つだけ覚えているとすれば俺が彼女をずっと好きだということ。
ずっと思い続けてきて中学でやっと俺の思いが報われた、報われたというよりかは告白するのに何度も踏み止まってやっと伝えたら彼女も俺のことが好きだったというわけだ。もちろんその時は人生で一番幸せなんじゃないかって思ってぐらいだった。
そして今現在大学生になった俺と彼女は同棲というものをしており、同じ屋根の下暮らしている。いきさつはどうだったか忘れたけど毎日彼女に会えるというのは嬉しい。
いつもならただいまと投げかけるとすぐに玄関まできてくれるのに今はそれがない、今日は俺より早く帰ると言っていたからいるはずなのにどうしたんだろうかと首をかしげる。
しんと静まり返った玄関で靴をぬぎ速足に家の中へ入る。
「名字ー?」
部屋の中に入っても彼女の姿はなくて不思議に思っていたときソファの上で眠る彼女を見つけた。寄りかかって眠っていてたぶん疲れていたんだろうなと思った。
寝息を静かにたてて眠る彼女にタオルケットをかけて頭をなでる。
(…あー落ち着く)
起こさないようにそっと隣に座り、彼女を見ているだけでなんだか心が安らぐような気がした。昔から彼女には自分の心を癒すなんだか不思議なものがあった、いつも笑顔で怒ることなんて滅多になかった。母性的というのは失礼だろうからとにかく彼女は昔から包み込んでくれるようなそんな暖かさがあった。
「………ん」
瞼が少し動いて彼女の瞳がうっすら開かれる、「おはよう」と声をかければ少し驚いてからおはようと笑って返してくれた。
「ごめんね、眠ってた」
「もっと寝てても大丈夫っスよ。名字疲れてるスよね」
「んー……じゃあそうしようかな…」
こてりと体を俺に預けて小さくそう呟いた彼女。よほど疲れているんだろうかと少し心配になった。
「今日はね、全然うまくいかないの」
目をつむりぽそりと呟いた。彼女がそんなことを言ってくるのは珍しかった。弱音を吐くことはなかったしむしろ俺の話を聞く側だった。
「なんだかね…疲れちゃって」
つきりと胸が痛むのがわかった彼女の頭をなでるのが精いっぱいで俺は何もしてあげることができない。彼女がかけてくれる言葉にいつも俺は励まされてきたけれどいざこうして彼女が元気ないのを見るとなんにもできなくて歯痒い。
「………でもね、涼太君みてたら少し元気でたよ」
ふにゃりと笑う彼女が愛しくてたまらなかった。
「……疲れてたら、たまには強がるのもやめたほうがいいスよ」
「そうだね、…今は頑張らなくてもいいかな」
そう言うとゆっくりと眠りに入った彼女、先程よりかは少し穏やかな表情をしているような気がする。
俺は昔からずっと彼女に救われるだけでなく俺もできることなら助けになりたいと思ってきた。俺と彼女2人で幸せになれたらと。
今もそれは変わらない、できることなら彼女のそばでずっと守ってあげられるような存在に俺はなりたいのだ。
「おやすみ…」
少しずつおりてくる瞼に自分もいつの間にか眠りについていた。