仲がたとえ良い相手でもずっと一緒にいれば相手の欠点は見えてくるしそれがきっかけでその人と一緒にいることが嫌になることだってある。
涼太と今まで一緒にいて嫌になったことはないけれど1つだけ嫌だなと思ったのは人の気持ちを考えずにずけずけ意見を言ってくるところ。
「だーかーら!!名無しっちは髪下ろしてる方がかわいいの!」
「あ、ありがとう…」
涼太がこの前雑誌でポニーテールかわいいって言ったからやってみたのになんでそんなこというの。私じゃ似合わないってこととかいろいろ心の中では思うけど本人を目の前にしたら私は何も言えないのだ。
この間も久々におしゃれしてかわいくしようとして頑張ってお化粧だってしたのに私の顔を見たとたん「メイク濃くないっスか」だなんて言ってきてさすがに落ちこんだ。
かわいく見せようとして頑張ったのにそりゃあないよ涼太、心にふさりときちゃうよさすがに。
「無理におしゃれとか着飾んなくていいんスよ」
「な、なんで私せっかく頑張ってるのに」
人の努力をそんな一言で終わらせるなんてひどいと思ってちょっとむきになって言ってみると
「だって似合わないじゃないスか」
ぴしりとそれまで保っていた私の心が完全に折れた。そうか似合わないから今まで散々ひどいこと言ってきたのかだったら最初からいってくれれば何もしなかったのに。
おしゃれして好きな人にかわいく思われたいと思うのは悪いことじゃないと思ってたのに似合わないなんて言われてしまったら今まで自分は何してたんだろうって気持ちがずんと沈んで行く。
「そ、そんなに…言うことないじゃない…」
じんわりそれまで耐えてきたものが崩壊して涼太の顔もぼやける。涙がぽろぽろ出てきて抑えることができない、きっと今ひどい顔してるんだろうなまた涼太に何か言われちゃうのかななんて思うとさらに悲しくなる。
「な、泣くほどひどいこと言ったっスか!?」
当の本人はそれぐらいのことで泣くことなんてないだろうと言った様子でちょっと焦っていたけども私にとっちゃ泣くほどのものだ。
「だ、だって…ポニーテールだって涼太が雑誌のインタビューで好きって言ってたからやってみたのに…っ、この前のデートも涼太にかわいく思われようとしたのに…似合わないのわかってるけど…う、ううっ…っ」
それ以上は嗚咽して言葉が出せなかった。
ああもう情けない、こんなに泣いて涼太はまた呆れるんだろうか。そんなこと頼んでないとか言ってせせら笑うんだろうか。
「ごめん…」
顔を抑えて泣いていた私にふわりと香水の匂いが鼻をつく。背中にまわされた腕に抱きしめられたんだなということはわかったけど今は涼太の腕の中でも全然気持ちが嬉しくなることはなかった。
「…は、離してっ…」
「やだ」
ぎゅうと力が強くなるその腕を必死にはなそうとするけど叶わなかった。
「俺…名無しっちがね、ほかの男に捕られるのが怖くて。めいっぱいお化粧してくれた時もほんとはすごいすごい可愛かったっス…。でも、スカートとかはいてると名無しっちのこと他の男がみるしなんか嫉妬しちゃって……、学校でも名無しっちがね違う髪型してきたとき気付けるのは俺だけで良いとか思って名無しっちのことかわいいとか言ってるの許せなくなって」
その後にもう1度小さくごめんと涼太はつぶやいた。
「な、なにそれ…ばか」
「うん、ばかなんスよ。名無しっちのこと思うとどうしようもなくばかになっちゃうんス」
涼太の表情は見えないけど安心したのは確かだった、なんだ似合わないとかそういうこと思ってたわけじゃなかったんだ。
「俺は名無しっちだったら何でも可愛いと思う、だからねそれ以上何もしなくたって充分かわいいんスよ」
こちらに目線を合わせて微笑む涼太に何も返せなかった、なんでこうも恥ずかしいセリフをさらりと言ってしまうのか。
「で、でも……」
「でも…?」
「りょ、涼太の好みの女性には近づきたい…し…」
インタビューとかでよく答えてるのをみるとちっとも私にあてはまるものがいつもないと思っていた、だから少しばかりは努力してしまうのを許してほしい。
涼太の方をみると耳まで真っ赤にして唇をかみしめていた。
「涼太…?」
「だからね!!そういうのがもう可愛いっていうんスよ!!何なの名無しっち俺を殺したいの!」
いきなり大きい声を出す涼太にわけがわからず首を傾げていると、「ああもうこれだから…」なんて言っていきなり頭を抱えるのでさっきから忙しいなあなんて思っていると肩をがっと掴まれて
「雑誌とかのは全部適当だから!俺のタイプは…その…、名無しっちそのものなんスよ…」
涼太につられてこちらまで顔が赤くなる。
「……好き名無しっち、大好き、愛してる」
そう言うとそのまま顔を近づけてきて、そうなると流れに身をまかせるしかなくて目を閉じると涼太のキス。その後もほっぺやおでこ首いたる所にキスをして
「俺のためにいつもがんばってくれたんスよね、ありがとう」
涼太がどうしようもなく好きで、だから今も頑張りたいと考えてしまって涼太にはかなわない。