寂しい。
恋人たちは一緒に過ごす日と決められているわけではないけど世の中ではそう思われているクリスマスに恋人がいながら家族と普通にすごしてしまって何とも言えぬ虚無感が襲っていた。
弟ですら彼女とすごすだの言って今日は家にいないのに、しばいてやろうかと思った。
でもケーキも料理もおいしかったし別に不服はない。少しあるとしたらドタキャンされたことぐらいだ。
午後3時ぐらいに突然「ごめんっス!急にインタビューはいって今日無理そう」なんて簡潔に、たぶん急いでいたであろうことがわかるメールが1通。
楽しみにしていたのもあったからその後の私の落ち込みっぷりはすごかったと思う。
けど仕方ない。黄瀬はモデルなのだ。仕事は仕事だ、私と仕事どっちが大事なのなんて束縛する女にはなりたくない。
黄瀬ファン情報によると黄瀬が苦手な子は束縛する子だときいた。
だから私は「わかった」とだけ返して携帯をみるのをためた。
「名前ちゃーんピザもあるんだけど食べない?」
「あー食べるー!」
下から母の声が聞こえてもう夜は遅いしだめだと思いながら誘惑には勝てなかった。
(黄瀬と過ごせたらもっと嬉しかったんだろうな)
窓から見える白い雪を見つめながらまた黄瀬のことを考えてしまう自分がいた。
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「…………」
食べ物を食べたらすぐに眠れるはずだったのに1時間たってもなかなか寝付けなかった。
布団に入ってもなかなか寝れないのは少なくはなかったし然程気にしないでまた眠りに就こうと思ったがふと視界の隅に点滅する携帯が見えた。
(……?)
こんな時間に誰だろうと思いつつ開くと黄瀬涼太。
「ちょっとだけで会えないスかね」
それはもう30分ほど前のメールで今更返して大丈夫なんだろうかと悩んだ。時計を見るともうすぐ23時30分。
黄瀬だって仕事で疲れてるだろうし外は寒いしなりより黄瀬は今どこにいるんだろう。
「今どこ?」
と返すとすぐに返信が来た。
「名無しっちの家の前!(^O^)」
とまあ顔文字つきで返してくれたけど家の前とはどういうことだ。
すぐさま下におりるためコートをとって寝ている家族をおこさないようにそっと下へ降りる。
「……な、なんでほんとにいるの…!」
「へへ名無しっちに会いたくて、迷惑だったかもしんないっスけどどうしても会いたかった」
玄関を開けると確かにそこには黄瀬がいて、雪も降ってるのにばかじゃないのとか言いたいことはあったけどまず先に彼の手を握る。
「…冷たい、ごめんねメール気付くの遅くなって」
ずっと待たせてしまった罪悪感、この12月の寒い外の中ただ待っててくれた彼に申し訳ない。
「こんなのどうってことないっス、名無しっちに会えたんだし。それに謝るのは俺の方で…ごめん!ドタキャンしちゃって……」
「そんなのいいよ…!ご、ごめんねほんとに風邪ひいたらどうしよう…!」
白い肌に赤くなったほっぺ、髪には少し雪もおちていて手でどける。
「もーだからいいんスよ!俺が約束破ったんだし!」
「で、でも…」
言い終える前に屈んだ黄瀬にキスをされる。
「メリークリスマス、遅くなったけどこれ」
ポッケに入れていた箱を取り出して差し出したのはネックレス。
「名無しっちに似合いそうだと思って」
にっと笑って私の首につける黄瀬、金属が肌にふれてひんやりと冷たい。
「あ、ありがとう……」
「何で泣くんスか」
「嬉しくてっ」
困ったように笑うとぎゅっと私を抱きしめる。
「ほんとにごめんっス、俺だって今日名無しっちと過ごせると思って楽しみにしてたんスけどね」
「私も楽しみにしてた…」
「寂しかった?」
「すごく」
素直にそう言うと「かわいいなーもう!」と言ってさらに腕に力をこめる。もう夜だし声は抑え目にしてほしかったけど幸せだったし涙はでるしで自分のことで精いっぱいだった。
「メールの返信もそっけなくて名無しっち何とも思ってないのかなってちょっと落ち込んだっス」
「…仕事頑張ってほしくて」
「えーもうちょっと気持ちを表してもいいんスよ?」
「……仕事なんかいってほしくなかったって言ったら黄瀬がっかりするでしょ」
「なんで?」
「束縛嫌いでしょう……?」
嫌われたらどうしようという感情ばかり渦巻いて黄瀬の顔がみれない。
「もーほんとばかでかわいいっスねえ名無しっちは」
「ば、ばか……」
ばかといわれ吃驚して顔を上げると優しい笑顔で私の頭をなでる黄瀬。そのままするりと頬に手がおりてくる、やっぱり冷えて黄瀬の手は冷たかった。
「好きな子からの束縛は大歓迎っス」
「……え」
「ちなみに俺も名無しっちには束縛したい!」
なんてどや顔で言われて笑うことしかできなかった。
「寒いし、家に入りなよ」
「あれっスルー?えっ家にってでも…」
「泊ってもいいから寒いでしょ」
「名無しっち俺期待しても……」
「束縛してもいいんだよね?」
「…名無しっちー!」
抱きついてくる黄瀬を引っ張りながらこんなサプライズっぽいクリスマスも悪くないと思った。
今年のプレゼントはもうこれでいいかもしれない。
「いっぱい愛してあげるっスからね」
耳元でそう言った黄瀬に外で冷えた体がすぐに火照った。
「…め、メリークリスマス」
「あ、誤魔化した」