「この漫画おもしろいよねー」

「表情から全然面白いそうに見えないんだけど」

目の前に座り漫画を読む姿をぼーっとながめる私の彼氏浅羽祐希はほんとに表情が少ないというかポーカーフェイスだ、笑った顔なんて見たこともないしむしろ笑えないんじゃないかとおもうぐらいで人をあざ笑うのならみたことがある。学校で平然と漫画を持ってきて読んでいるがそれを暗黙のルールで許されてるのもこの近寄りづらさがあるのかもしれない。
たとえ笑わなくても容姿は整っていてオタクだが私もそちらのほうは結構好んで読んだりするので話は合う。つまり一緒にいて楽なのだ。


「じーっと見つめられちゃうと照れるんですけど名前さん」

「照れてほしいなって」

「やだもーてれるー」

なんていうけど棒読みで全然そう思ってないのはすぐ分かる。


「私にもこの本読んじゃったらかして」

「読んだんじゃないの?」

「内容忘れました」

「ばかだねーこれだから名前は」

そんなことを言われても祐希なら全然気になったりしないのだ、恋をする脳は単純である。


「そういえばさ、ここらへんに新しい喫茶店ができたらしんだけど」

「へー」

「紅茶とケーキがおいしいらしんだけど」

「へー」

「一緒にいかない?」

「本屋のついでなら」

「行きたくない?」


「…行くよ、だって名前が行きたいんでしょ?」

本から目線を外しこちらを見てそう言った、なんだかんだでお願いを聞いてくれる彼が大好きだ。



「祐希は優しいなもう」

「いえいえそれほどでも」

「本屋さんいってからいこう」

「んー…」

返事をした後祐希がじっと見つめてきたのでなんだか恥ずかしくなり「顔になんかついてる?」とぺたぺた自分の顔を触って確認しながら尋ねる。



「目と鼻と口と眉毛が」

「そうじゃない…!!」

一瞬でも本気にした自分があほくさくなる。


「いや、俺思ったんだけどさー…」

「何を?」


「俺って案外名前に甘いなって」

「へ?」

いきなりそういわれても普段の祐希から出るようなセリフじゃなかったので首をかしげる。むしろ私の方が彼に甘いような気がするが、後彼のお兄さんも。



「なんだかんだで名前の言うことは聞いてあげてるじゃん」

「そうかな?」

「ほらさっきもほんとはめんどくさいと思ったけど可愛い彼女さんのために俺は行くわけじゃないですか」

「……何どうしたの」


「顔真っ赤だけど」

可愛いと言われて嬉しくならないはずがない。


「名前は俺の原動力なのかなーって」

「言いすぎでしょ」


でもそうだったら嬉しい、私も彼のために生きてみたい。



「まあそれはないか、俺の生きる気力はアニメですかね」

「ひどい……!」

そう言うとぽんぽんと頭をなでられ「冗談だよ」と言われる。

祐希が言うと冗談なのか本気なのか表情があまり読み取れないのでわからない。



「でもまあ名前がいるおかげでこんなに楽しいのかもね」

「…ほんと?」

「ほんとです」


こればっかりは素直に信じたい。


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