「…あー」
風邪だ、うすうす喉が痛いとは感じていたけど起きて少しだるいと思い熱を測ると体温計が示すのは37.8という数字。
もっと手荒いうがいきちんとしておけばよかったとは思ってももう遅い、いまどき幼稚園児でもきちんとできる簡単なことだというのに。
「微熱だったんだけど」
キッチンに立つ母親に向かってそう言うと心配そうな顔して「大丈夫?学校休む?」と言われた。さすがに意外と高いと感じたのかいつもは少しの微熱ぐらいじゃやすませてくれないのに、いつもの私なら喜んで休むのだろう、が
「…明日テストなんだよねー」
今日勉強しなかったらとれる点数もとれないものになってしまうと思うとなんだか悔しいような気もした。
「行くわ」
ぶっ倒れても知らないんだからね、帰ったらすぐ病院だからねという母の言葉を聞き流しながら学校へ行くことにした。
ここまでして頑張るなんて私すごすぎだろうと自分を褒めてみる。
*
「名前さん今日はマスクなんですか?」
一応風邪だったら周りにうつしちゃわるいなと思いマスクを着用。それに気付いた黒子君が学校につくなり心配そうに声をかけてきた。
「うん、ちょっと喉いたくてさ」
もちろん嘘である、あるのは熱だ。
「そうなんですか、今風邪流行ってますし気を付けてくださいね」
「うん」
秋から冬のかわりめだからだろうか、季節の変わり目というのは風邪をひきやすいような気がする。急激に最近寒くなったもんなと思い当たることを思い浮かべ納得する。
それが風邪の原因かどうかはわからないしもしかするとどこからか菌をもらってきたのかもしれない。
(…ぼーっとするなあ)
朝より体調が少しずつ悪くなってきているのは確かだと思う。
「名前さん熱あるんじゃないですか?」
「な、ないよ!」
先程嘘をついたばかりだというのに黒子君はなかなか鋭く、読書を中断してこちらに先程より近づいてくる。
「顔も赤いですし、若干無理してるように見えるんです」
「んー…実を言うと少しだけ」
「…保健室行きますよ」
「……いや、大丈夫」
それこそその時点でせっかく決意してきたのにすぐ家に返されしまって私のここまでの努力が泡となる。
それは嫌だと思いマスクで表情はわからないだろうが笑って首を振る。
「だめです、悪化したらどうするんですか」
「どうにかなる」
「気合いで風邪を治せるのはばかだけですよ、熱を出しながらも学校に来る君も大概ばかですけど」
心配しているのかそれともけなしたいのか、たぶん後者ではないんだろうけど素直にうんとはうなずけない。
「だって、明日テストじゃない」
「僕はテストなんかより君の体調が心配です」
ただでさえ熱があるときにそんなことを言わないでほしい。
「あーもーわかった、行く行きます」
頑固なところもある彼に言いわけをしたって聞き入れてくれないんだろう、しょうがなく重たい腰をあげて立とうとしたとき体がよろめく。
「だから言ったでしょう?」
すぐに反応して黒子君は支えてくれたのだがなんせ距離が近かったのでまた体温が上がった気がした。
マスクで表情は隠れてるし顔は赤くなってるのが見られないのが唯一の救いだなあなんて思っていたけど
「名前さん熱いですね…やっぱり悪化してますよ」
それ風邪のせいじゃないんだけどね、とは言いだせないから「…そ、そう」と返しておく。
黒子君はただ私を心配してくれているだけだから余計タチが悪いというか。
こつり、と気付いた時にはまさか自分がやることにはならないと思っていたおでこで熱を測るというやつで、黒子君の両手は今私の体を支えているし仕方がないけど私にとってはもう充分すぎるほどの加熱材料で。
なんでこんな状況なんだろうとか、黒子君が近いとか、熱で働かない頭を必死に動かしたけどパニック状態とほとんど似たような状態で
「だめです、ほんと良く学校きましたね…」
「う、あ、ああ、あの…!」
もう少し離れてという前に私の意識はなくなって。
君のせいで熱が下がらないよ黒子君