「今日ってポッキーの日なんだってさ」
そう言ってぽきと良い音を鳴らして友人がポッキーを口に含む。11月11日、棒ばかりならんでいるからポッキーの日なのかなあなんてぼんやり考えながら1つ貰って食べる。チョコが口の中で溶けておいしい、食べるのは久しぶりだ。
「あーあーあたしにも彼氏がいたらなあ!」
「どうして?」
ポッキーの日というのはバレンタインと一緒で何か恋人たちに関係のある日なのだろうか。
「違うでしょ!ポッキーゲーム!」
「ああ、そういうこと」
ポッキーゲーム、相手と両端からポッキーを咥えて食べ進めて多く食べたほうが勝ちみたいなゲームだった気がする、記憶はあいまいだしルールはよくわからない。実際にみたこともないしやってるのを見たとしたら漫画の中でぐらいだ。
漫画じゃポッキーゲームはおきまりのちゅーで終わるからルールがよくわからないのも仕方ないと自分自身に言い聞かせる。
「あんた彼氏いるじゃない」
「…なによ」
にやにやとしてこちらを見てくる。大体言いたいことはわかる。
「やらないの?ポッキーゲーム」
「やんないよ、恥ずかしいし、持ってないもん」
「じゃああげる、もう1箱持ってるんだよねー」
がさごそと鞄の中をあさり「はい」とポッキーの箱を1つ取り出した。先程とは違いストロベリーらしい、どうして2箱も持っているのか不思議だ。
「貰えないよ」
「いーいーの!イベントにのっかって買っただけでほんとはストロベリー味好きじゃないし。それにそれよく見てよ!」
パッケージを指差されて見るとポッキーの形がハートマークになっているらしい。かわいいしこんなの知らなかったなと驚く。
「ぴったりでしょ?ね、あげる。てか貰ってくれなきゃ困る」
渋々頷いてもらうことにした、なんとなく得をしたような気分になる。
「その代わりちゃんと黄瀬君とやるのよ!」
ウインクをされても何も返せない、するつもりなんてないのだから。
「…やらないって」
*
黄瀬君の部活が終わるのを待つ間友達から貰ったポッキーを取り出す。
先生に見つかったら怒られるところだが今の時間帯教室に戻ってくるのもよっぽどの用事がなければないし大丈夫だろうとおもいつつ1つ取り出す。
チョコのかかっていない部分を目を細めてみてみると確かにハート型でかわいい。味だけじゃなく今は見た目も大事だなとつくづく思う。
甘い。でもおいしい。ストロベリーでピンクでハートなんてなんだか恋愛っぽい。
1つ食べ終わると2つ目を手に取っていた、ストロベリーは好んで普段食べる味ではないがなんだかおいしく感じた。
「名無しっちー!」
と声がふってきて体を起こしてそちらを見ると黄瀬君が笑顔でこちらに駆けよってきた。
「あれ?もう部活終わり?」
時計をちらりと見るがまだ終わる時間じゃないはずだ。
「あー休憩中っス!」
「いいの?こんなとこまできて」
「大丈夫っス!皆自由なことしてると思うんで」
「そっかー、あ、黄瀬君甘いもの平気?」
「へ?まあ大丈夫っスけど…」
ポッキーを1つ取り出し黄瀬君の口の前まで持っていく。
「はい、あげる」
「え、え、あの名無しっち?」
「いらない?」
「も、もらうっス…」
疲れているときには甘いものが良いと聞くし、部活で疲れている彼にはちょうどいいんじゃないだろうか。
「今日ポッキーの日らしいから」
「へえそうだったんスねー…名無しっちこれ一本ちょうだい?」
「ん?いいけど…」
私があげたのを食べ終わるともう一本口に入れて気に入ったのかなと思っているとにこにことこちらを向いて「そっち側くわえて?」なんて言ってくるからまさかと思った。
これはポッキーゲームってやつですか。
「む、無理…!恥ずかしい」
「えーちゅーだってしてるじゃないスかー。ていうかしゃべりにくいんでほら早く!」
せかされてどうしようか悩む、まさかほんとにすることになるとは思わなかった。
やるしかないと思い覚悟を決めることにした。
反対側を咥えたはいいが予想以上に近くて緊張する。
徐々に食べ進めていくと必然的に顔も近くなって言って心臓がさっきからうるさくて鳴りやまない。
もう限界だと思いぽきりとへし折って顔を話そうとしたとき黄瀬君に頭を押さえられそのままキスをされる。
口の中に溶けたチョコが広がる、やっぱり甘い。
「ごちそうさまっス」
ぺろりとなめて至近距離でそう言った黄瀬君がとにかく色っぽくて彼が部活に戻った後も火照ったままだった。
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