べしゃり。
音に表すならまさにそうだろう、地面と盛大にぶつかった。何につまずいたのか確認したって意味ないだろう、歩いたところには平らなコンクリートだけがあったのだから、我ながらどんくさい。
急いでおきあがろうとしたが膝に痛みがはしる、ゆっくりと起き上がると膝から流れる血液。
転んだ場所が悪かった、コンクリートじゃなくて草はらとかが良かったなんて思っても遅い。特に汚れたわけじゃないけど服をたたいて払う。
誰かに見られていないか無意識にまわりを確認してしまう。
後ろを振り向いたところでこちらを見て必死に笑いをこらえている姿を発見した。
最悪だ恥ずかしい、大体普通そこは気付かないふりをして通り越していくものじゃないのかと悪態をついてみるが彼が悪いわけじゃない。
「…っちょ、ちょって待って…!」
体の向きを戻し、知らないふりをしようとしたとき彼によびとめられた。声色が笑いを隠し切れていない。
こちらに歩み寄ってきたその人物に見覚えがあった。
高尾和成君だ。
同じクラスではないけど性格が明るくて誰にでも優しくて人気者だとか。
バスケができて勉強もそこそこできる、つまり彼は人間の中でも上のほうにいる人間なのだ。
そんな人と会話することなんて思ってなかったしましてや話しかけられるとも思っていなかった。
「いやーごめんね笑っちゃって、まさかいきなり転ぶなんて思ってなくってさー」
「…いや、転んだ自分が悪いんで」
「つーかその足のまんまで帰ろうと思ったわけ?」
しゃがんで先程怪我したばかりの足をのぞきこむ。制服だしスカートだからなんだか足を男の人に見られるというのは緊張する、高尾君ならなおさらだ。
「うわー派手にやったねえ名字さん、いまだに血流れてんだけど」
「大丈夫…です」
何で名前を知ってるんだろうと思ったけどうまく言葉がでてこなかった。
「つーか敬語使うなんて律義だなーなくていいよ同い年じゃん」
笑顔を浮かべてこちらを見上げてくる高尾君にこういうところが好かれる人は相手に好印象を与えるんだろうかと納得した。
初めて会って、ましてや1度も話したことなんかないやつにフレンドリーに話しかけてきてくれるなんてできた人だ。
「あちゃー消毒しないとだめじゃねーの細かい砂も若干ついちゃってるしこのままにしたらバイ菌入るぜ」
「後で消毒するからいいよ」
今は消毒しようにも道具もないし、水だってない。
「もしかしてそれって家に帰ってからってことで受け取っていいの?」
「そうですけど…だめ…なの?」
普段使わない敬語は言いにくいというか使っている自分にも違和感がありすぎる。
高尾君は使わなくていいよと言ったのに使っている自分も素直じゃない。
「それじゃあもう遅いと思うんだけど名字さんほんとはもう歩くのもきついんじゃねーの?」
「…大丈夫だけど」
関節の部分ちょうど怪我すると確かに歩きにくいしなかなか膝も痛くて曲げられない、どうして気付いたんだろう。
「だーめ、ここの近くに公園あるから行こうぜ?歩けないならおんぶしちゃうけど」
にっと笑った高尾君に首を横に振っておく、さすがにおんぶは恥ずかしい。ちぇっなんて言っているけどたぶん冗談なんだろう。
高尾君と2人並んで歩いていることが不思議だ。本当ならこのまま家に帰っているはずなのにたった1つの出来事でここまで大きく変わるんだから不思議だ。
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「んーまあ大体はとれたっしょ、これで絆創膏とかありゃいいんだけどなー」
公園につれてくるなり設置されている水道の水で洗い流してくれた。おまけに部活で使っているタオルで丁寧に足までふいてくれてなんだか申し訳ない、血がこびりついたらどうしようかと考える。
「あの…高尾君、タオル洗って返すよ…?」
「気にしなくていいよ、ていうか名字さん俺のこと知ってたんだ」
「それはお互い様じゃ…」
「そりゃ知ってるよ好きな子のことぐらい」
「え」
しゃがんだまま手に頬づえをついてこちらをにこにこと眺めたままの高尾君に聞き間違いじゃないだろうかと疑いたくなる。
好き?っていったのか今。
「…えと……」
「今日見つけてあんな場面に遭遇したのは偶然だけど俺としては超ラッキーだったぜ?」
「……冗談?」
「あっはは鈍感な子だと思ってたけどここまでとはな」
実感がわかない、今まで突然知らない人から告白されるなんて体験したこともないし高尾君は知らない人じゃないけど目立っていて私とは違うんだと思っていたし、なにより隙って言われたことが信じられない。
「今は良いよゆっくり悩んでくれたらタオル洗ってくれんだっけ?よろしくな」
と強引に渡してから高尾君は走っていってしまった。
転んだところからまるでドラマのようだった。
高尾君のタオルを握り締めあらためて思い返し、1人で考えじわじわと嬉しさか恥ずかしさか戸惑いか何とも言えぬ感情がこみあげてきた。
「…かっこ…よかった…」
たぶんもうすぐ恋するだろう。
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