氷室辰也という男は、
何に対しても誰に対しても笑顔で返し、物腰柔らかで、たとえば彼女が失敗したクッキーとかあげても笑ってありがとうって言って1つのこらず食べてくれるだろう。
思っていることはあまり口に出さないし基本的に優しい、けどどこか情熱的である。
だからってそんな彼の優しさに甘えるようなことはしたくないのだ。
「というわけで、だ」
「何がだ」
隣に視線を移すとあからさまに面倒くさいと言ったオーラを放っている。
休みの日に辰也への誕生日プレゼントを買いに行こうとしたのだが彼が何が好きなのか考えてもあまり思いつかなかったので、部活がオフであることを祈り彼に電話したら見事にあいていたのでこうして買い物に付き合ってもらっている。
「いいじゃない、大事な兄弟のプレゼントぐらい一緒に選んでくれたって」
「彼女のおめーが1人で決めたほうがタツヤは喜ぶだろ」
「大我そんな良いこと言えたんだね」
「帰るぞ」
「あー待って!」
ほんとに引き返そうとしていたので慌てて手を引っ張り逃げないようにする。
「ほんとに何を選んだらいいかわかんないですよ」
「知らねえよ!なんで俺なんだ!」
「どーせ大我もあげるんでしょ?」
「うるせーかぶったらどうしてくれんだ」
「……じゃあ、隣で見ててくれてるだけでいいよ」
そう言うと脱力したように「わかった」と言った。なんだかんだいいつつも面倒見が良い彼は放っておくということをしないのだ。
適当に店をのぞいていくものの自分が欲しいものはあっても彼に似合う、と思うものはなかなか見つからなかった。
男性の好みなんて普段気にしないし辰也の好きなものと言ったらやっぱバスケである。
「……うーん栄養ドリンクでもあげようかなー」
「やめとけ、引くぞ」
「冗談」
半分本気だったが栄養ドリンクを誕生日にプレゼントなんて辰也の引きつった笑いが思い浮かぶ。
「…アクセサリー……」
といつつちらりと大我の首にかけられた指輪を覗き見る。
ネックレスでも良いと思ったがもうつけているしどうしようかと迷っていると
「いいんじゃねーの深く考えすぎなんだよ」
ぽんと頭に手を置いて大我がそう言った。
「…それもそうだね」
にっと笑って大我の腕を引っ張りここらへんで近いところにあるアクセサリーショップへ向かう。
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「お誕生日おめでとう辰也」
「ありがとう名前」
にっこりと、愛想のいい笑いを浮かべて手渡した箱を受け取る辰也。
「開けても良いかい?」
「良いよ」
ふーと気付かれないように小さく息を吐く、普段身につけてもらうものをプレゼントするのは初めてだったしなにより辰也の反応が若干怖くもあった。
「ブレスレッド…かな?」
「う、うん…」
私が結局悩んだ末に選んだものはブレスレッドだった。
スポーツをしている彼に邪魔にならないようなシンプルでかつ色合いが綺麗なものを選んだつもりだ。
「嬉しいよ名前ありがとう」
「ほ、ほんと?良かった…」
喜んでもらえたなら良かったと安心していると「ねえ名前、アクセサリーってどんな意味を持つか知っている?」と笑顔で尋ねられても意味なんて知らない、元からそういうものには疎い方なので首を横に振る。
「輪になったものってね、相手を縛っておきたい、つまり独り占めしたいって意味らしいんだ」
「…えっそうなの!?ご、ごめんね重かったね」
意味を知らずに渡してしまって、もっとよく考えればよかったなんて思っても申し訳なさばかり募ってどうしようもない。
「名前に謝ってほしいからいったんじゃないんだ、むしろ俺にとっては嬉しいことだし俺の愛はこんなもんじゃないかもしれないよ?」
「…辰也」
ああやっぱり優しいとじわりと胸が苦しくなる。
「独り占めって素敵だと思わないかい?好きな相手が自分だけ独占できるんだ」
「……迷惑じゃない?」
「もちろんさ、大事にするよ」
なんたって愛しの彼女からもらったんだしね、と付け加えて腕にはめる。
「ありがとう名前」
「…ううん、こちらこそおめでとう辰也」
そう言って自然と彼の顔が近付いてきて触れるだけのキスをする。
「でもほかの男と出かけるのは感心しないよ」
頬に手を添えて、少しばかり先程と違う態度でそう言った。
「え…」
「大我と2人きりで、ね?」
「な、なんで知ってるの…!」
「偶然見つけてね。俺の方も名前を独り占めしたいな」
顔の距離が近いしなにより美少年といわれる部類に入る辰也に間近で言われると心臓がさっきから脈打ってうるさい。
「だからプレゼント名前も欲しいな」