「うおーすごいさすがだねえ」



「こんぐらい余裕っスよ」

そう言って笑った彼の目線の先には私の手で、マニキュアを塗ってもらっている。
美容関係に職業柄か彼のほうが詳しく、こういった作業も断然うまいのだ。

「すごいねーいつもただ塗ってた、エタノールなんて使うと思わなかった」

「爪の表面に油分が残ってると塗る際にカラーがはじいてムラの原因になっちゃうんスよーまあこれはメイクさんから教えてもらったってだけなんスけどね」

早速はじめたのがエタノールで何も知らない私は首をかしげたのだがそんなこともあるなんてすごいなと思った。ただ爪の上に塗るだけでいつもは完成なのだ。


「黄瀬君塗るの上手いねさすが」

「名無しっちさっきも褒めてたっスよ」

「褒めたくなっちゃうんだよどうしてはみでないのかなあって」

「そりゃ、まあやってれば慣れるじゃないスか」

その言葉にそうだよねと少しだけ悲しくなる。
黄瀬君とは最近付き合いはじめたばかりで彼のことは正直言うと何も知らない。
同じ学校にいて、バスケ部で、モデルが職業、昔に彼女がいたかどうかもしらないのだ。
もしかしたら今こうしてやっているように私以外の女の子にもやっていたのかもしれない。




「こうして塗ったりするの名無しっちだけっスよ?」

「えっ」

一瞬口に出してしまっていたのかと驚いて顔を上げる。

「撮影では手にも気を使うもんスから塗るけどこうして塗ってあげるのは名無しっちだけっス」

そう言って私の好きな笑顔で笑った。

「…うん」

「もー名無しっちてば案外ヤキモチ妬きなんスね」

「えっ…」

「まあ俺としては嬉しいんだけどね」

にやりと笑って言った黄瀬君に抵抗することができなかった、事実そうだったし手は彼に掴まれたままだ今すぐ赤くなった顔を隠したかったけど叶わなかった。

「…いじわる」

「そうっスか?それも名無しっちだけっス」


そう言った後また黙々と塗る作業に入る。私の手に合わせて少しかがんでいるけど上から見るとまつげが長いのが見えるなとか髪の毛さらさらだなとか結果黄瀬君のことばかり考えてしまう。


「なーにずっと見てんスか」

顔をあげた黄瀬君と目が合う。顔がやけに近いなんて感じる。

「そんなに見てた…?」

「視線を感じるんスよ見惚れた?」

「そうかもしれない」

素直にそう言うと突然黄瀬君が俯いた。

「え、え、あの…」

「あーもー…なんでそんなにかわいいんスか」

ぼそっと呟かれた言葉を理解するのに少し時間がかかったが意味がわかると恥ずかしくなる。

「い、いや……」

「マニキュア塗れないじゃないっスか!」

「理不尽…!」


とかそんなことをいいつつも着々と塗り進めていって最後の指が終わるとふーと一息つく。


「後はトップコートを塗って終わりっスね、乾くまで待つっス」

自分の手を広げてみて改めて感嘆の声をもらす。


「全然はみだしてない…」

「そんなに感動することっスかね?」

「私不器用だから普段全然できないの」

困ったようにわらうと「じゃあ」と黄瀬君は提案するように言った。

「今度から名無しっちのマニキュアは俺が塗ってあげるっス」

「ほんと…?」

私としては嬉しい限りだがそれじゃあ黄瀬君がめんどくさくないんだろうか。

「…不満っスか?」

顔に表れていたのか少し眉を下げて尋ねてきた。

「ううん、むしろ嬉しいんだけど黄瀬君忙しいし」

「そんなの名無しっちのためなら」

いろいろ黄瀬君はずるいなあと思う。こんなにも喜ばせるのうまいなんて。

「にしてもその色で良かったんスか?グラデとか何にも混ぜてない1色スけど」

「いいの」

黄瀬君の顔を見上げる。

「黄瀬君と同じ色でしょ」

「名無しっち…っ!!」

がばっと抱きしめられる。

「まだ乾いてないし危ないよ…!」

「好きっス」

「え、え」

「大好き名無しっち」


君が喜ぶなら綺麗に綺麗に塗ってあげる。



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