「…いくことにします」
担任の目をなぜか見ることができず俯いたままそう告げる。たぶん先生は笑顔なんだろう「そうか、ありがとな」とだけ言った。
私になりにいろいろ悩んだ結果、両親にもOKは貰えたし背中を推してくれる人がいる。ということで留学というものに挑戦してみることにした。
不安はある。行ったことのない土地で5カ月もできるか心配だしそれ以外にも心の中ですっきりしない部分もある。
「………」
ちらりと高尾君のいるほうを見ると男子と楽しそうにおしゃべりする彼の姿。
私の事なんて何にも思わないんだろうなと思うと少し哀しくなる。
今から英語みっちり勉強しなきゃなあなんて考えて思うのはちょっと面倒だなという気持ち。そんなことなら行かなければいいだけの話なんだろうけど留学の目的は少しの期待を抱いた他の理由もあったりする。
高尾君を忘れられるかもしれない。
離れていればその人への気持ちは薄れるというのを良く聞くし、自分の気持ちが少しでもなくなるのなら離れてみようと思った。一方的な思いをずっともっていても苦しいだけだった、それをここ最近痛感した。
最初は付き合いたいとかそんなこと考えていなかった。ただ見てるだけで良かったのに気持ちはどんどんふくれていつの間にか本気の恋をしてしまったらしい。
「悔しいなあ…」
君を好きになるだなんて悔しいよ、高尾君。
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「名無しさんさん!」
聞き覚えのある声にもしかしてと思いながら相手を確認するとやっぱりこの間の彼だった。
「名無しさんさんも一緒に行くんだよね?俺、その…嬉しい」
「…5カ月だけどよろしくね?」
笑ってそう言うとにっこり笑って頷いてくれた。とりあえず悪い人ではなさそうだったので良かったと安心。5カ月間も一緒にいるのだからもし苦手な人となったら行く前から気分は盛り上がらない。気さくな人っぽいしこれならやっていけそうだ。
「それでさ俺のほかにももう1人行くんだけど」
「うん、誰なの?」
「3組のさー佐藤って男子わかる?」
「……え?」
「あーやっぱしらないかー、だよねでも良い奴なんだ!」
知らないとかそういう問題の前に、男子しかいないだなんて聞いてない。てっきりもう1人は女の子だと思っていたのに。さすがに男子の中に女が1人だけいくだなんて気まずすぎやしないだろうか。先生もそこを詳しく説明してくれればよかったのになんて今更思うけどきちんと聞かなかった自分にも悪いところはある。
「……そ、そうなんだ」
その後の彼の話は全く耳に入ってこなくて内容も全然覚えていない、ただこれからどうしようという考えばかり浮かんでいた。それほどコミュニケーション能力は高くないし困った時とかどうすればいいんだろうとかそんなことばかり考えていた。
「ところで名無しさんさんは何で行こうと思ったの?」
疑問を投げかけられていることに気付いて慌てて返事をしようとしたけど考えがまとまらない。どうして?と聞かれると先生に誘われたからとかそんな理由しかでてこなくて、もう1つの理由だって言えるはずがない。
「俺はちなみに将来英語関係の職業につきたくてさー」
「…私は、」
「なあ、その話俺も混ぜてもらっても良いかなー?」
急に聞こえた声に驚いて傍らにいた人物を見ると笑顔を浮かべた高尾君がたっていた。
「実はさー俺も誘われたんだよね」
それじゃあ意味がないのに、どうしてまた近づいてくるの。