まるで高尾君とあの時話せたのが夢だったのかのように彼とそれ以来話すことはなくなってしまった。
もしかして本当に夢だったんだろうかと思ったけどあの時話したことははっきり覚えているし担任から貰ったコメントが添えられた日誌も本物だ。


なにより大きな変化は毎日してくれていたおはようの挨拶すらなくなってしまったこと。
最初は然程気にしなかったけど変化はしだいにわかるようになってきて高尾君が避けていることがわかった。
私がいる場所はうまい理由をつけてすぐにいなくなってしまう。
気付くか気付かないぐらいの差だと思うがこちらにはすぐわかってしまってそれもなんだか嫌だった。



「調子に乗りすぎたかな」

「………何が」


「この間高尾君とねお話する機会があったんだけどもそれ以来なんだかよそよそしいというか完璧避けられてるんだよね」

「…………それって」


何かを言いたそうにしている友人に「何?」と尋ねるとううん何でもないと首をふられてしまった。


「はっきり言ってよ傷つかないよ」

「いや、そういうのじゃなくてねえ…うーん高尾もなかなかヘタレなのかねえ」

「……別にいいんだけどね」


深いため息を吐く、それを見た友人が幸せ逃げるよなんて言ったけど高尾君とこんな風になってしまった時点で幸せも何もない。























そんな時悩まされるようなニュースが飛び込んできたのは1限目の授業が終わった時。





「…留学ですか」

「そうだ名無しさん成積もいいし、英語得意だろ?ホームステイなんだけどなたった5か月だ」

先生にちょっと手招きをされたのでそのままついていき職員室までくると何やらうすっぺらい1枚の紙を渡された。タイトルのように少し大きな字でかかれたのは短期留学の文字。

「意外と長いんですね、ていうかたったっていうのじゃ…」

「そうだな意外と長いかもしれないがあっちの生活もなれると楽しいものだしあっという間にすぎるぞ、行った生徒は皆楽しかったっていってたしな」

にこにこ笑いながらすすめる先生はそこまで私を海外に行かせたいのだろうか、第一私より成績のいい人なんているだろうに。


「…他には?」

「今もう2人ぐらい決まってるぞ」

「……ちょっと考えさせてもらえませんか」

英語はペラペラ話せるわけではないけど或る程度なら話せるかもしれない。けれどどうしてもすぐにうんとは言えなかった。すぐに言われても心の準備というものもあるし5カ月というとかなりの日数だと思う。

紙をみながら歩いていたのがいけなかったのか肩に誰かとぶつかる感触がとんと当たった。

「すいません…」

「いや、俺こそ…」

どっかで聞き覚えのある声にぱっと顔を上げると高尾君で、でもすぐに顔をそらしてしまった。
そういえば避けられているんだったという感情が出てきてすぐに立ち去ろうとすると


「あのさ」


私にかけられたものとして受け取っていいのか迷ったが止まって振り向くとどこか気まずそうにした高尾君がいてなんでなんだろうとは思ったけど理由は聞けない、怖かった。


「それ、留学するの…?」


「……まだわからないから」

「…そっか」

それだけを言うと背を向けて歩いて行ってしまう高尾君、おかしいなどうやって前普通に話していたっけ、そうは思ってもそれだけしか言えなくて、高尾君が何で聞いてきたのかもわからなかったしその時の高尾君の表情もわからなかった。
ああやっぱり嫌われたのかなあと思うとぎゅっと心臓が痛くなる。

高尾君はきっと私がどこへ行っても気にしないんだろうな。

近づいたはずの距離が離れていく理由もわからないまま高尾君はどんどん遠くなっていく。













「名無しさんさんも誘われたんだよね?」

そう声をかけてきたのは頭が良くて友人が以前かっこいいなと言っていた人だと思う。話すのは初めてだけどこの人も随分人懐こい笑顔を浮かべるんだなと思った。その時点でもうすでに頭に高尾君がいる自分はつくづくだめなやつだと思った。


「俺も誘われてさー、行こうと思ってるんだけどどうする?」

やっぱり彼も誘われたのか、2人決まっているうちの1人は彼らしい。

「んー…親にも言ってみないとだめだし、5カ月ってちょっと長いから悩んでるの」

「うん、でもさー名無しさんさんに来てほしいな」

「……うーんどうしようかな」

なかなか答えを出せるものじゃないので曖昧な答えを返す。苦笑いしかできなくて申し訳ない気持ちになる。



「あっちって全然別世界だと思うんだよね、無理強いはしないけど俺的には……あーごめん困るよね」

「大丈夫、相談してみるね」


別世界という言葉にちょっと惹かれた、もしかしたらあっちに行けば高尾君のことも思いだすこともなくなるのかな、短い間でも忘れることができるんだろうかと思ったけどそんなの自分でもちょっと卑怯だと思った。
忘れたいから行くだなんてなんてずるい理由なんだろうとは思ったけど








「いいわよ?」

「えっ」

お金もかかるしきっとだめなんだろうなと思ってダメ元で切りだしてみるとにこにこ笑顔で台所で料理を作り続ける母。

「な、なんで?」

「なんで逆に疑問に思うのよ?だってチャレンジしてみたいのにそれを否定なんでできないじゃない。ま、決めるのはあなただけどね」


まな板の上で包丁がリズム良くなる音が耳に響く。
もしかしたら行った方がいいのかもしれないのかななんて思えてくる。


「後悔しないようにね」

いつもはそんなアドバイスすらしないくせにまるで私の心なんて見透かしているような言葉に少し泣きたくなった。


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