自覚してからこれといって変わったことはないし普段通り毎日が流れていく。
好きになったとはいえ告白して当たって砕けろなんて思わないしこれまで通りで良いと思った。






「日誌って何かけばいいんだろうね」

「今日の出来事をぱぱーっと書けばいいのよ」



今日あったことを短く書く欄はいまだに真っ白で、日直になるとこれを考えるのに私は苦労したりするのだ。適当にかけば先生にやり直しをされるし、かと言ってあまり真面目にかいても先生に読まれると思うとなんだか気恥ずかしい。

友人には先に帰っていいよと伝えたのでゆっくり考えようと思った。
教室に残っていた人たちもそれぞれ部活に向かい教室の中の人は時間経つにつれて減っていきやがて誰もいなくなった。
しんとした教室に聞こえるのはグラウンドで部活をする声だけだ。

野球部が走っているのを見てユニフォームは長袖だし肌の露出がすくなくて暑くないのかあなんて関係ないことを考える。

手に持ったシャープペンシルは一向に動かない、日誌ごときに何をこんなに悩んでいるんだろう。








「名無しさんさん?何やってんの?」





頬づえをついていた顔を上げ、声がしたほうを見ると高尾君が身を乗り出して教室の窓からのぞきこんでいた。
まさか高尾君がいるなんて思わなくて心拍数が早くなる。




「今日日直で日誌が終わらなくて」

「まじか、そんなん適当にかいときゃいいのに律義だなーよっし俺も考えるぜ」




そう言うなり教室に入ってきて私の前の席に腰掛けて体をこちらにむける高尾君、ここまで近い距離ははじめてかもしれない。





「名無しさんさん字綺麗だな」

「そうでもないよ。緑間君のとかのほうが全然、お手本みたいに綺麗なんだもの」

「あー真ちゃんはやべえよな!まじであれなんであんな綺麗にかけんのって感じ」


たぶん真ちゃんというのは緑間君のことなのだろう、気難しそうに見える彼を真ちゃんと呼ぶぐらいだから仲がいいんだろうなあと思う。


「今日の真ちゃんのラッキーアイテム見た?あいつカエルのかわいい置物持ってきててさーピョン吉なんて呼んでんだよ」

「かわいいね」

おかしくて笑うと「だよな」と高尾君もまた笑った。

全然話したことなんてないのに何故か普通に話せるからこれも明るい性格の高尾君がすごいんだなあと思う。


「今日の日誌真ちゃんのことでもういいんじゃね?」

「それもいいけど緑間君が見たとき怒っちゃうかもしれないから」

「名無しさんさんやさしーのな」


にっこり笑う高尾君にまたどきどきする、笑顔も素敵でいちいちときめいてしまう。
気付かれませんようにと心の中で祈る。



「そういえば高尾君どうしてここ通ったの?」

「んーちょっと先生に呼ばれちゃってさー、その帰りにたまたま教室にいる名無しさんさん見かけてそれで何してんのか気になって」

「…ということはもう部活始まってるんじゃないの?」

「大丈夫だってー!嘘ついとけばばれねえって」

高尾君はじゃあ貴重な部活の時間を割いて今ここにいるということになる。



「だめだよ高尾君、部活いかなきゃ」

「でも名無しさんさんまだ日誌終わってないじゃん」

「日誌のためだけに部活の時間減らすの申し訳ないもの」

「日誌のためじゃなくて俺は名無しさんさんのためにここにいるのになー」


ちょっとだけ頬をふくらませた高尾君の言葉に少しだけ意識してしまう。


「だ、大丈夫だから…!ね」

「……もーしょうがねえなまあ確かにさぼんのはだめだし、いっちょ頑張ってきますか」


ゆっくり立ち上がる高尾君に自分でいったのにちょっと寂しいと思ってしまった。




「今日は初めて名無しさんさんと話せてラッキーでした」

「…え」


「俺だったら日誌そうかくんだけどな、なんつって」


にっと笑ってそのまま出ていった高尾君に聞くことはできなかったけどそれってどういうことなのかぐるぐる考えると期待してしまうからやめておこう。


誰にでも優しいからそんなこと言うんだよね、期待しちゃだめなのに。





「やっぱり好きだなあ…」


ぽつりとつぶやいた言葉は夕日がおちてきた教室に消えていった。

シャープペンは気がつくと動いていて、





"全然話せずにいた人と仲良くなれた気がして嬉しかったです"






思わせぶりだとしても私はそれが嬉しかったから。
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