彼女と修羅場になったお話2
















押してダメなら引いてみろ。

桃井ちゃんにそういえばそんなことを言われたなと実行してみる。効果は抜群だったようだ。


「名無しちゃん頑張りすぎなのよ!押してばっかじゃなくてたまには引いてみたら?」

青峰君のことで何かと相談にのってくれる桃井ちゃんがにっこり笑ってそう言った。
その時は意味が全然わからなかったし自分でもそんなに押してるつもりはなかった。


ある日青峰君に呼び出されて屋上に行ったら知らない女の子とキスしてた。前の私だったら仕方ないなあって笑って許して良い彼女でいたかっただろう。でも今回ばかりは違った。
青峰君はたぶん悪くないんだろうなって雰囲気と表情でわかっていたけど、少し頑張ってみた。



「もう知らない」



それだけを告げて去っていくのはなかなか相手にしては怒っているように見えるのではないだろうか、それほど怒っているつもりはないけど少し反省してもらおう。







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「名無しちゃん青峰君に何したの?」

「……え?」

もしかしてつい最近あった屋上でのことだろうか、あれ以来青峰君とは口も聞いていなしメールも電話もしていない。謝ってくれればいいのになんて期待するのはちょっと意地悪だろうか。
ときおり視線を感じることはあるけどそれらはすべて気付かないふりをしてかわしてきた。


「青峰君がね珍しく私に相談かと思ったら"俺もうだめだ…"なんてずっとうじうじしててちょっと気持ち悪いのよ」

さらっとひどい桃井ちゃんに苦笑いしながらも「青峰君が知らない子とキスしてたからさ」というとなんともびっくりした表情をされた。


「もー!!許せない…!こらしめてやらないと!」

「いいの桃井ちゃん、私も今回は少し怒ってあげたんだ」

「で、でも…」

「まあそれ以来話してないんだけどね」

「一回も?」

「そう、一回も」

自分でも若干寂しいなと感じつつ青峰君が悪いんだもんと言い聞かせては避けてきた。



「……もうそろそろ許してあげない?そりゃあ青峰君がもちろん悪いけど…」

幼馴染だし心配するのはわける、が、


「青峰君謝ってくれないんだよね、別にそれが目的で話さないわけじゃないけど…私以外の子とキスしても変わらないのかなとかいろいろ考えちゃって、自分で言っててあれだけどすごい恥ずかしいなんかのろけみた…「名無しちゃん…!!」

ぎゅーっと桃井ちゃんが抱きついてきたので慌てて受け止める、胸が当たってるよ桃井ちゃん。


「かわいいね!もう青峰君ったらこんな素敵な彼女がいるのに!」


それは少しほめすぎだと思うんだ。

















「大ちゃんってば知らない子とキスしたんだって?」

いつものようにだるそうに寝転がっていた彼にそう言うとばっと起き上がり「誰から聞いた!」と一瞬にして切り替わるからこの男も名無しちゃんに関しては大概だなと思った。


「誰だと思う?」

「早く言えよ名無しだろどーせ」

「あたりー!」

分かってるならなんでそんなに不機嫌なのか、まあ分からないでもないけどここのところずっと機嫌が悪いし眉間にずっとしわが寄っていて先生ですら怯えているほどだ。


「好きでやったんじゃねーし」

「名無しちゃん私以外の子とキスしても青峰君はたぶん何も思わないんだ、って言ってたな」

わざとらしくそう言えばあからさまに顔をしかめる。

「名無しちゃんのこと気になってる人は他にもいるのに大ちゃんいいの?」

「…いいわけねーだろ」

立ち上がりすたすたと前を通り過ぎてどこかへ行こうとする彼に「どこいくの?」と尋ねると「便所だ」とだけ言った、彼も随分素直じゃない。


「がんばってねー大ちゃん」

初々しいカップルを見守るのが最近の楽しみになりつつあるかもしれない。




















携帯が震えた、久しぶりな人物からで出ようか戸惑ったがいつまで続けても意味がないと思った。


「はい、もしもし…?」

「名無しお前今どこにいんだ」

「え?えと、2階の「そこにいろよ!」

一方的にきれてしまった通話、なんだったんだろうと思いながらそこにいろと言われたのでここを動かないほうがいいのだろう。

数分もしないうちに青峰君が走ってやってきてなんだかびっくりして少しだけ後ろに下がる。



「…おい」

「はい…」

喧嘩した後で仲直りするカップルってなんか簡単なことで解決したりするのかと思っていたのに気まずすぎる、元はと言えばこの雰囲気も作ったのも自分なのだが。


「わる…かった…」

あの青峰君が素直に謝っていて驚く、少しは反省してくれたようでほっとする。


「それと」

体がぐいと引っ張られ青峰君の顔が目の前にきて、状況を把握するのに時間がかかった、なんでキスをされているんだろう。


「誰もいいわけねーだろ」

ぶっきらぼうにそう言い放ち、至近距離で見つめる彼の顔がほんのり赤かった気がする。


「……今度したら許さないからね」

簡単に許してしまう私も大分甘いのかもしれない。



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