「あーもう、憂鬱だよ」
「うるさいのだよ」
「やだなあ赤司君あーかしくん」
もう答えるのをやめたのか黙々と爪を整える作業に没頭している緑間君。
私がここまで憂鬱なのにはわけがある。
最愛の人赤司君が秀徳高校にはいないのだ。
もちろん最初は一緒の高校に行こうと思ったが赤司君の進路希望先を聞いて絶望した。
偏差値が高い、高すぎる。ばかな私には頑張っても無理な話だった。
それだけじゃない、しかもそこは京都だったのだ。
隣の県とかではない遠いし気軽に合いに行ける距離なんかじゃなかった。
なので秀徳高校を選んだのだが偶然にも中学で知り合いになった緑間君と同じクラスだったという奇跡がおきたのだ。
「大体毎日のようにうだうだするなら洛山に行けば良かっただろう」
「無理なのだよ」
「真似をするな、まあお前の頭じゃ無理だろうがな」
「頭良いからって調子のるな!!ばーか!!真ちゃんのばーか!!」
なんて泣き真似をしたって効果はなく、なんともうっとおしいという顔で見下してくるだけだった。
「私だっていけるものなら行きたかったですーよーー」
「恨むなら自分の学力のなさを恨むのだよ」
一瞬彼が今日持っているラッキーアイテムをゴミ箱に捨てたやろうかと思ったぐらいだ。
猫のぬいぐるみなんて持ってきちゃって女子か、爪とぎなんてしちゃって女子か。
「何なに名無しちゃんってば洛山行きたかったわけ?」
そこで突然会話に入ってきたのは高尾君だった。
高尾君は緑間君を通じて仲良くなったというか、高尾君が話しやすい人だったのですぐうちとけることができた。
「愛しの彼氏さんが洛山にいるんですよー」
「え、まじで!彼氏いたわけ?」
真底驚いたように言うもんだから「まあね」と逆に威張ってやると笑われた。
「そんな風に見えなかったわーまじか、そりゃ遠距離恋愛ってことになっちゃうわけな」
「そうですそうです、毎日毎日心の隙間風がぴゅーぴゅーなんですよ」
「表現がおかしいのだよ、だからお前は学力が足りないというのだよ」
その言葉にかちんときたが高尾君がなだめてくれた、さすがだ。
「まあまあ真ちゃん、彼氏さんがいなくて寂しい名無しの気持ち察してやれって」
「ぐはっ寂しい…」
なんて呟くと「うるさいのだよ」なんて優しくない言葉が飛んでくる、ツンデレのツンしかない。
「でもすげえな、離れてて心配にならねえの?」
「…微妙」
「はは、デリケートなとこ聞いちゃった?でもまあ会えないってわけじゃねえんだし今年には会えるんじゃねえの?」
「わかんない…」
わからないのだ、赤司君があっちでどんなふうに生活をしてるのかもよくわからない。
電話はするけど私が一方的に話してばっかりで、赤司君はそれに相槌をうったりするだけで今思うと離れてから何も知らなかったと思った。
「……高尾それ以上は聞いてやるな」
「あはーごめんね名無しちゃん?」
「大丈夫さ、大丈夫、うん」
大丈夫なはずと呟いて内心もしかしたら浮気してるんじゃないかとか何も話さないのは話したくないからなんじゃとかいろいろ考えが巡ってくる。
遠距離ってやっぱつらい
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「遠いなー…」
東京都と京都の距離を調べてまた落胆する。
遠距離したって赤司君とずっと繋がっていられる自信はあったのに、なんだか今朝高尾君と話したせいで自信がなくなってきた。
「…………」
ため息を吐いて机に突っ伏す。
赤司君を疑っているような自分にもやもやする。
ふと着信音が鳴り響いて慌ててチェックすると今まさに悩んでいた元凶の赤司君からだった。
緊張しながらも通話パネルをタッチすると「もしもし?」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
「も、もしもし…」
緊張しながらも電話に出ると何故か少し笑われる、でもそれも特に気にならない。声が聞けて嬉しかった。
『どうしたんだい?いつもならもっと元気なはずなんだけどな』
「そ、そうかな…?」
ただ話すだけなんていつもやっているのにいつもより緊張して唇が乾く。
『今日は名無しに伝えたいことがあってね』
赤司君から切り出すなんて珍しいと思いつつ、何だろうと続きを待つ。
『来週いつになるかわからないけど、東京に行くから』
「え……」
聞き間違いかと思った、もしかしてこれは夢なんじゃないだろうかとすら思った。
『少し用事もあってね、そのついでってわけじゃないけど名無しに会えないかなって思ってね』
「えと、あの…ほんとに?」
『僕が嘘をつくと思うかい?』
「おも…わない…」
嘘なんて言わないしいつも的確で正確なことしか言わなかった彼が言うんだからほんとなんだろう。
『会えるかい?』
「…うん」
『そっか、なら良かった。日程とかはきちんと決まったらまた連絡するからそれじゃあまた』
「あ、うん」
暫し深呼吸をして落ち着かせる。
あっという間の出来事で、実感がそれほどないが赤司君に会えるということは分かった。
(高尾君エスパーなのかな…)
今年どころかもうすぐ会えるそうだよ高尾君。
「……あー良かった」
純粋に嬉しかった。
離れていると喜びも倍増するんだね