「青峰君お勉強できないんだね」
「うるせえな!!だから今こうしてお前に教えてもらってんだろ!」
青峰君に勉強を教える約束だったので言われた通り放課後の教室を使って勉強しているのだが根本的なところからさっぱりな彼に勉強を教えるのはなかなか難しいことだった。
少々彼の頭の悪さをなめていたかもしれない。
「そういえば部活は?」
「あ?テスト期間だっつーの。だから皆さっさと帰ってんだろーが」
「…そうだった」
なるほど、だから彼も今こうしてここにいることができるのかと納得。
「大体よーなんで勉強ってあんだよだりぃわ…」
「……それは」
頭の悪いからそう思うんじゃないかなという言葉は呑み込んで「将来必要だからだよ」と答えた。すると何とも不思議そうな顔をして「はあ?」だなんて言われた失礼な。
「もしも青峰君が将来プロのバスケットプレイヤーになったとする、バスケって海外に強い選手が多いし同じチーム内に必ず外人さんはいると思う。それでチームプレイのバスケで会話できなかったら困るでしょう」
「そんなんジェスチャーで充分だろ」
さすが青峰君だなと思った、考えることが野性的というか彼ならまあそれで通用するかもしれないともう呆れるしかなかった。
引き続き勉強をし始めたけれど何度も何度も同じところでつまづいてしまう彼に何度私の心がくじけそうになったことか。けれどわかって問題が解けて嬉しそうに笑う彼をみるのは嬉しかった、自分が役に立てていると実感できるからだ。
けれど彼につきっきりで教えたせいか家に帰るとどっと疲れて自分の勉強はそれほどできなかった、勝負のことがあるのにと頭の中でわかっていてもいつものように励むことはできなかった。
(まだテストまで時間あるし…)
*
「も、もうテスト明日だなんて…!」
「お前ならどうせ今回も余裕なんだろ」
「青峰君に勉強教えて自分の勉強そんなしてない…」
「え、名無しっち青峰っちに勉強教えてたんスか?」
黄瀬君が身を乗り出して驚いたように聞いてきた「うん、放課後にね…」と答えると「えーなにそれずるいっスー!俺も教えてほしかった!」
「うるせえなモデルの仕事があるからとか言ってすぐに帰ったのはお前だろ」
「そうだけど…でも俺だって今回赤点取ったらやばいんス!」
「私も今回1位とらなきゃ……」
机に突っ伏すと「なんでだよ?」と青峰君が尋ねてきた、ああそうか言ったのは赤司君だけで他には言っていなかった。もし負けたら彼らにも関係のあることだから言っておいた方がいいんだろうか。
「……私、負けるの気に食わなくて。いろいろ悩んでマネージャーやったら真太郎に恩返しできるしって思って、勝負受けることにして」
「それってつまり…負けたらマネージャーになるんスか?」
「……そうなっちゃう」
「ていうかよーいろいろ悩んでそうなったんなら赤司に負けても別に良いんだろ?」
「そうっスよー!マネージャーやろうよ名無しっち」
明るく笑う黄瀬君に何とも言えぬ気持ちになる。
「…うー……でもなあ……」
何もしてこなかった私にとってできることは勉強のみ、それ以外誇れるものはない。負けたくはないし、でも真太郎の力になれるのなら頑張りたい。
とんだ矛盾である。
「うじうじすんな!負けろ!」
「青峰っちその応援の仕方どうなんスか…」
「…もう結果に任せる」
このままだと永遠にうじうじしそうでなんだか嫌だ、できるだけやって負けたならそれまで。おとなしくマネージャーをやろうと思った。