「別にマネージャーなどやる必要ないのだよ」
家に帰ってきた真太郎にそう言われた、どうして真太郎がそのことを知っているのか尋ねると「緑間の妹ぜひともマネージャーにしたいんだ」と言われたらしい。
「や、やるつもりはないよ」
「……無理する必要はないんだからな」
それだけを言うと自分の部屋へ荷物を置きに戻っていく真太郎の後ろ姿へ
「し、真太郎…もし私がマネージャーやったら助かる?」
恐る恐るそう尋ねると「力にはなるのだよ」と言った。
昔から何をやるにも無理だからやめろとは真太郎は言わなかった、病院の中ばかりでつまらい時外に出て公園で遊びたいと無茶を言った時があった。
お医者さんに相談したら絶対良いとはいわないのをわかっているからかこっそりと人目を盗んで近くの公園へつれていってくれた。体が弱いから無理をするなとは言わずやりたいことはなるべくさせてくれた真太郎。
もちろんその後怒られたのは真太郎だったけど私が言いだしたにも関わらず私のことは一切切り出さなかった。
謝っても「気にするな」とだけいってくれた。もちろんそれっきり外へは出ていない。
力にはなる。
その言葉で決断した。
「負けたら週2回だけマネージャーとかどうかな」
「は?んだそれ」
次の日青峰君に昨日考えたことを相談すると何言ってんだお前みたいな顔をされてしまった。私なりに精いっぱい考えた結果だった。
「だって帝光中って100人越えてるし毎日はさすがに死ぬんじゃないかなって思って」
「お前意外と軟弱だなテツよりだめじゃねえか」
「……軟弱だもん」
「つーか赤司に断ったんだろ?ならいいじゃねえか」
「そ、それもそうなんだけど……私やる前から諦めてるばっかだし…」
「ふーん……」
「まあ負けたらの話なんだけどね」
「お前自信満々だな今回はそうはいかねえと思うぜ?」
確かに1点差だったけど勉強は嫌いじゃない。一回勝てたから負ける自信はそんなにない、知識を得るために努力するのは辛いとは思わないし…
(ガリ勉っぽいぞ……!)
自分で思っておいてあれだがこれじゃあせっかくの高校が味気ないものになってしまう。
「さっきから何表情変えてんだ面白いぞ」
「し、失礼な…!」
むにっと私のほっぺたを青峰君がそれほど力を入れずにつねった。のだが反射的にその手をたたき落とした。
「や、ややややめてよね…っ!」
「…………」
一瞬なんだと思った彼だがすぐさま口角をつりあげてにぃっと笑った。
「顔真っ赤だぞ」
「………っ」
「ウブすぎるだろお前触られただけでそれってどーよ」
といつつまた手を伸ばしてくる青峰君にイスをひいて回避する。男の人に触られるとどうにもすぐ恥ずかしくなる。
「………弱みを握ったとか思わないでね!」
「お前頭いいのに緑間と違ってあほだよな。完全に負けた奴のセリフなそれ」
青峰君に冷静に返されて少しむかついた。
「ところでよお前頭いいんだから勉強教えろよ」
「…どうして?」
「赤点取ったらバスケできねえだろ!」
赤点取るんだ、赤点のラインって結構低かった気がするのだけれど青峰君ってそこまで頭悪かったんだ。
「頼む」
珍しく頭を下げてきたのでそこまでバスケが好きなんだなあと思いそれならば仕方ないと思った。
「いいよ」
「まじか…お前良い奴だな」
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緑間の妹についてわかってきたことがもう1つ。
男に慣れてないと言ったから触るだけで照れるのはまあおいとこう。
それとは別にお人よしだった。
赤司に断ったくせに後から考えなおしてマネージャーやろうとするとかどんだけだよ、しかも週2回だけってどういうことだよとつっこみたいところはあったが本人は必死に悩んだろうから何も言わないでおいた。
それに勉強を教えてくれと頼んだら快く承諾。
あいつの兄ならきっと「なんで俺が貴様らの勉強など」とかぶつくさいいそうなのに。
それに良く自ら仕事を引き受けているのを見かける。やらなくていい植物の水やりとかあほなんじゃねえのとか思ったけどいたって真面目らしい。
「なーテツ、遺伝子ってつくづく不思議だな」
部活が始まる前いつもより早く来ていた俺はテツと偶然居合わせた。最初は誰もいないと思って1番のりなんて少し気分があがったのに幽霊のごとく出てきてびっくりだ。
「青峰君遺伝子って言葉知ってたんですか」
「なんとなくだよ、それはまあ置いとけ。いやお前あいつのことどう思うよ」
「緑間君の妹さんについてですか?」
「それだ」
「……そうですね、良い人だとは思いますよ」
「…へー」
「自分で聞いといてその反応はなんですか」
むっとしたように言い返したのでわりぃと笑って謝る。
「それと緑間君に大事にされてますよね」
「まあな」
ここ最近のことであいつが大分シスコンだということはわかった、本人はもうそのこと自体隠さないし慣れてきた。
「話は戻りますけど青峰君は緑間君と妹さんが似てないから遺伝子がどうのこうのって言ったんですか?」
「あ?あーうん、まあな」
「そうですか?僕は似てるところもあると思いますけど」
「………大丈夫かお前」
「ええ、いたって普通です」
だって努力家なところとかそっくりじゃないですか。
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「…ということでどうでしょう……」
じっと黙ったまま何も言わない赤司君にどうしたらいいんだろうと焦る。もしかして週2って少なかったんだろうか。
「…せめて週3回だ。それと合宿にもきてもらおうか」
「えっ」
予想外に付け足されてびっくりしていると笑って「それも全部、負けなければいいんだからな?」と言ってきた。
確かに負けなければいいだけだが今の赤司君を見てるとどうにも自身がなくなってくる。
「……ま、負けない…ですよ」
「随分自信がなさそうだが」
「あ、あります…」
「そうか楽しみにしているよ」
君が負けるのをねというのが聞こえた気がして負けられないなと思った。
それに合宿なんて冗談じゃない。
でも前回のテストの差はたった一点、赤司君にしても少しのミスだっただろう。
負けたらほんとにやらなければいけないんだろうなと思いながら青峰君に勉強も教えなければいけないことを思い出して気が遠くなった。