「や、やりません…」

俯いてぽそりとそう言った、赤司君の目を見たらなんだかうんと言ってしまいそうになるからだ。



「そ、そうっスよねーもう俺名無しっちがうんって言ったらびっくりしてたっスよー」

「の割には表情が残念そうだぞ黄瀬」

「う……そりゃあちょっとはやってほしかったなーって気持ちはあるんスよ」

「でもまあしゃーねえな、こいつ体よえーんだぞ赤司」

くいと指をさしながらフォローを入れてくれる青峰君に感謝の気持ちでいっぱいだ。マネージャーという裏方の仕事でも体力があまりない私にとってはきついのだ。



「それもあるから俺は誘ったんだ」


「はあ?」

青峰君はわけがわからないと言った様子で首をかしげる、もちろん私も同様に赤司君の意図がつかめなかった。



「君が病弱でつい最近まで病院で暮らしているようなものだったのは知っている、だからあの緑間が過保護になりすぎる理由でもある。マネージャーは黄瀬が入ってから真面目に仕事をしてくれるやつがいなくなってな、しかも君は体力がないときた、俺の言いたいことはわかるかい?」

途中黄瀬君のひどっなんて声が聞こえた。

「…わかんないです」


「マネージャーは体力もつくし、緑間の近くにいれば心配をかけることだってないんじゃないか?」

新しいことに挑戦してみたいという気持ちはあるものの実際行動にうつすとなるとそれは違う。軽い運動で息切れしてしまう体に病院で真太郎の世話になってばかりいたのに近くにいることによってさらに迷惑をかけてしまう。


「やりません」

「…へえ俺からスカウトなんて珍しいんだけどな」

部活の主将ともあろう人からの誘いは確かにすごいことなんだろうけれどそれは私にとって何の価値ももたない。


「私には向いてないと思います」

きっぱりそう告げて次の授業の準備があるのでといってその場から立ち去った。

















「お前そんなに嫌なのかよ」

教室につくなりひじをついてそう尋ねてくる青峰君に若干の気まずさもあったが

「青峰君、一緒に反対してくれてたじゃない」

「まあ…でも赤司の言うことも一理あるなとか思ったんだよ」

「裏切り者……」

「言い方がわりいからそれ」

「…真太郎にはもういっぱいお世話になったのに…私がバスケ部のマネージャーなんてやったら……」



「お前は緑間中心でまわってんのかばーか!」

軽く頭にチョップをおとされ痛いと唸りながら青峰君を少し睨むと


「とんだブラコンだな」とさらに鼻で笑われて少しいらっとしたが指摘されてそうかもしれないと少しだけ納得したのは確かだ。



「1人ぼっちの時に誰かにいてもらうっていうのはすごい力になるんだよ青峰君」

それで彼に私が伝えたいことは伝わったかはわからないがそう伝えると「ふーん」とだけ言った。


「真太郎、部活を抜け出すときがあったでしょう?」

「ん?ああそういやそうかもな」

「あれね大抵病院にいくためなの、私の体調がすぐれなかったり悪くなるとすぐ来てくれてね。だからもう私のせいで時間を無駄にするようなことはしてほしくないの」

「無駄かどうかなんてあいつじゃなきゃわかんねえだろ」

「……」

青峰君の言葉に何も言い返せなかったのだが毎回真太郎が病室へ足を運ぶたびに申し訳ない気持ちばかり募っていった。それは日に日に重くなっていきもう来なくていいといったときもあった。けれど真太郎は「俺が好きできてるんだ気にするな」とそれだけ言ってくれた。
救われた気はしたけどまだどこか苦しい。私という存在に縛り付けている気がしてならない。


























「初めまして!!桃井さつきっていうの!さつきでいいよ!」

お手洗いから戻ると自分の席の前にそれは美人な女の子が立っていた。もしかして自分のクラス間違えてしまったんだろうかと思ったが教室にいるクラスメイトの顔はいつもとかわらないしなにより黄瀬君と青峰君もいる。


「え、えと…」

私も挨拶するべきなんだろうけどなかなか言葉が出てこなかった。
というより目の前の子は誰でどうしてここにいるんだろうという疑問が出てきてちらりと青峰君を見るとばつが悪そうに頭をかいた。


「こいつがお前と友達になりてーんだとよ、友達いねえから」

「いるから!!勝手に変なこと言わないで!」

「まあま桃っち、名無しっち驚いてるっスよ」

名前の後にっちとつくということは黄瀬君が前に言った"認めた人"なんだなと認識する。
黄瀬君がなだめるとはっとしたようにこちらをむいて



「改めて言うね桃井さつきっていうの、みどりんの妹さんだよね?」

「そ、そうです…」

みどりんとは真太郎のことなんだろうかと不思議に思ったが妹と言われた時点でたぶんそれは私なんだろう。

「さっききーちゃんが言った通りお友達になりたくて!あ、あと私バスケ部のマネージャーもやってるんだけど…」

お友達になりたいと言われて嬉しい気持ちがその後に続いた言葉によって一瞬でとんでしまった。青峰君がばつが悪そう顔をしたのはこのことだろうか、マネージャーに誘いたいから彼女はこうして私に友達になろうといってきたのだろうか。


「名無しっち…?」

黙り込んでしまった私に黄瀬君が心配そうによびかける。


「なんでもないよ」と笑って彼女の言葉の続きを待つ。


「バスケ部のマネージャーやってるって言ったよね?それで私赤司君から名無しさんちゃんを誘ったってきいてそれでみどりんの妹だし余計きになって」


「こちらこそよろしくね」

うまく笑えていたかわからないけどさつきちゃんが嬉しそうに目を細めたので大丈夫だ。
嬉しいのに嬉しくない。


「よかったら今度見学に…」

「やめとけさつきもいちょいで予鈴だぞ」

「あ!ほんとだ、またね名無しさんちゃん!」

手を振る彼女に手を振り返してゆっくりと席につく。


「嬉しくなかったんスか?」

そう尋ねてくる黄瀬君に首を横に振る。


「…嬉しいよ」

「あーやっぱあれだな、いきなりすぎたよなわりぃ」

青峰君が謝るなんて珍しかった、私の態度はそれほどわかりやすくでていたのかもしれない。嬉しいのにどこか素直に喜べなかった。




「嬉しいんだよ、ほんとに」


マネージャーに誘うことが彼女の目的ではなかったら。




「…桃っちは良い人っスよ!無理に誘ってるわけじゃないんスよ」

「そうだぞーお前マネージャーって単語でてから顔強張りすぎだ」

ばっと顔を抑えてそうだったのかとさつきちゃんに少し悪いことをしてしまった気分になる。



「気付いた…かな…」

「洞察力はすぐれてると思うぞ」

青峰君のその一言でさらに落胆する、できれば今すぐ謝りに行きたい。


「もうだめだよ…せっかく言ってくれたのに……」

その時間からめっきり気力がなくなり机に突っ伏してばかりいた私に黄瀬君は心配してくれたのだが青峰君は少し呆れた様子だった。
マネージャーなれば済む話なんだろつまりなんて青峰君に言われたけどどうしてそうなるのかやっぱり青峰君の頭は不思議だった。黄瀬君のほうはぜひマネージャーやってほしいんスけどねーなんていってくるので聞かないふりをした。

そんなときだった、気配もなく急にすっと現れたように声が響いてきた。





「青峰君、この間かした辞典返してください」



「あーテツじゃねえか…どこやったっけなー」

顔をあげるとこの間体育館で目があった少年がそこにたっていて、こちらを見るとぺこりと頭を下げた。



「この間はすいません見苦しいところをみせてしまいましたね」

「だ、大丈夫です…こちらこそ…あの後なだめるの大変だったですよね?」

「まあそれなりに緑間君も素直じゃないところがあるので」

黄瀬君と兄の言い合いは遠くからでもわかったし見ていて大丈夫かとおもったあと彼がなにやら言ったらしくあの場はおさまった。


「あれ黒子っちと名無しっち知り合いなんスか?」

話が分かっていない黄瀬君は自分が原因だとも知らずきょとんと首を傾げる。


「君のせいなんですけどね」

「え、ちょ、黒子っちそれどういう意味なんスか」

どうやら彼は黒子君という人らしく彼も同じく黄瀬君に認められた人物であるらしい。
辞典をみつけた青峰君が黒子君に渡すと中身を少しめくり不機嫌な様子で「落書きしないで下さいって言ったはずなんですが」といった。


「だって授業中暇なんだぜ」

「それとこれは別でしょう、自分のノートにでも書いてください。ああそれと緑間さん僕は赤司君のに賛成ですよ」

「えっ」

突然話をふられて驚いていると


「緑間君の機嫌が悪くなったとき仲介できるの僕は君ぐらいだと思うので」


それだけを言うと黒子君は行ってしまった。



「………皆ぐるだったの?」

若干疑うような視線をむけると「ちげえよ!」「違うっス!」と返された。


「だって、なんで皆して…」




「それだけお前にやってほしいんだろ、理由はどうあれそこはかわんねえだろ」


青峰君はおばかなくせに良いことを言うから嫌になる。



「案外いいもんかもしれないスよ?」

皆して揺らぐようなことを言わないでほしい。


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