たくさんいる人の邪魔にならないように隅っこのほうに移動して練習を眺める。
知らない人の近くによることができない、というか気まずいというのも理由の1つだがバスケを見るだけで声をすごく張る女の子たちについていけなかった。

真太郎がシュートを決めるたびどうやってあんなにボールが遠くまでいくんだろうとか、なんであんなに正確に入るんだろうとか、病院では教えてくれなかったことを初めて見れたような気がして不思議で新鮮だった。
バスケ部の副部長を務めているのは知っていたけど試合をみることは一度もなかった。
話をすることもそんなになかったし外になかなか出られない私を気遣ってくれているんだろうと思っていたけどそれが少し寂しかった。

それにバスケをする青峰君や黄瀬君もすごかった。
いつも教室にいるときのどこかふざけたようなおちゃらけた雰囲気はなくてボールを手に取った瞬間から真剣そのものでこんなに変わるものなのだと実感させられた。



ふと視線を移すとたまたま黄瀬君と一瞬視線がぶつかって、そらしたりすると失礼だろうしどうしたらいいか考えていると黄瀬君がにっこり笑ってこちらに手を振ってくれた。
周りにいた女の子たちは声を上げるけど今のは私にふってくれたということでいいんだろうかなと思いつつも嬉しくて小さく振り返す。

その後に黄瀬君が嬉しそうに話しかけたどこか儚げな雰囲気を持つ少年が何故か気になった。










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「名無しっちっスよ!黒子っち!」

「はあ……」

嬉々として言われても正直どの人なのか分からないし黄瀬君が手を振るだけで結構な数の女の人が反応していることに気付いてわざと言っているのだろうか。


「どの方ですか」

「あーそうっスねそういえば黒子っち知らないんだっけ!黒髪のちいさくて可愛い子っス!」

彼が手を振った際に小さく手を振っている人がいた。たぶんその人なのだろう初めて彼女を見て最初に思ったのは


「…病的ですね」

肌の白さとその雰囲気で言ったのだが「名無しっちは病気じゃないっスよ!」と言った彼にため息を吐く。


「どうして彼女ここにいるんでしょうか」

「そう言われればそうっスねーもしかして俺を見に来たんスかね」

自惚れる彼に少しいらっとして即答する。




「俺が呼んだのだよ」

振り向くと眼鏡をくいと上げた緑間君が立っていて少しその表情は若干険しくなっていた。


「緑間っち……」

黄瀬君の表情が曇った、なぜだか理由はわからないけど空気はよくはない。

「勘違いするな、お前のために来たわけではないのだよ」

「知ってるスよー…ていうか名無しっちになんてこと言ってくれたんスか!」

「ふん、ほんとのことなのだよ」


「すいません、話が見えないんですが」

彼女がらみということは分かるがそれ以外は話の主旨が全く分からない。


「緑間っちが名無しっちに俺のことひどく言ったんスよ!女にだらしないって!そんなことないっスよね!」

こちらに同意を求められ何と答えたらいいのか少し考える。
ファンと友達の区別は一応つけているしだらしないというわけではないと思うがいかんせん彼は少しファンサービスがすぎるような気がする。
普通ファンの子にメルアドをほいほい教えたりするものだろうかと思う時がある。


「……どうなんですかね」

申し訳ないが素直にうんとうなずけない。

「えっ黒子っちまで…!!」

「だからほんとのことだろう」

僕の一言で黄瀬君の立場が不利になり余計顔をしかめた。


「…緑間っちが何と言おうと友達になったんスからね」

「なに…」

一触即発とはこれのことを言うのだろうか、正直自分を挟んでやるのはやめてほしいし彼女が上で見ているということを覚えているのだろうか。
視線を上に移すとやはり不安そうな顔をしている彼女がいて、ふいに目があった。






だいじょうぶですよ



いつの間にか考えるより先に口パクで伝わるか伝わらないかなんてわからないけどそう伝えていた。

一瞬驚いた表情をしたが伝わったのか少しだけ安心したような表情を見せる。




「早く練習に戻らないと赤司君にペナルティ追加されますよ」

そう言うとやるせない表情だったがそそくさと練習に戻る2人にこれから毎回顔を合わせるたびにこんな風になるんだろうかと思うとどこか気持ちが重くなる。


とりあえず分かったのは緑間君の妹さんは人を引き付ける魅力があるということ。

緑間君が性格から想像できないシスコンだったこと。
















「真太郎すごかったね」

「人事を尽くしているからな」

部活が終わり、帰り支度を終えた真太郎と2人で帰り道を歩く。
そういえばこんなことも久しぶりのような気がする。



「真太郎、嘘ついたよね」

「…何のことだ」

いつ言おうかためらったが思い切ってそう言うと予想していた答え。


「黄瀬君悪い人じゃなかった」

「お前はまだよく知らないんだろう」

「……私もう元気なんだよ」

そう告げると一瞬押し黙って「分からないだろう」とだけ言った。


「病室にいるわけじゃないんだよ、今は普通の人と一緒なんだよ。心配しなくて大丈夫だから」

真太郎が心配するのは分かる。
妹だし、小さいころからずっと体が弱くて外に少し出ただけでも発熱したり大変なことがたくさんあったからこそ口うるさいのかもしれない。
クラスも離れて心配しても仕方ない、人見知りで1人じゃ全然できないことばかりでそんな私の面倒をずっと見てきてくれて



「…分かってるのだよ」

「そろそろ兄離れかなー」


「む、無理する必要はないのではないか」

たどたどしく言う真太郎に笑みがこぼれる。


「頑張るよ」

その一言にいろいろな意味を込めて。


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