「お前さ緑間、妹を大切に思うのはわかるけどさすがに嘘はだめだろ」

部活がまだはじまる前ふと今日のことを思いだしてテーピングをしている緑間に話しかける。

「何のことだ」

返ってきたのはまあ予想していた範囲内のことでこいつとぼけるつもりかよ、と一瞬思ったが黄瀬のことをほんとに女にだらしないと思っている可能性もある。


「お前の妹ずっと病院で暮らしてきたんだろ?だったら友達も欲しかったんじゃねーの、別に無理してお前がそれを制限する必要はないだろ」

「…別に黄瀬だけではない、お前も関わってほしくはないのだよ」

「だーからそれはお前がシスコンだってわかってるけどよー」

「シスコンではない!!」

「あいつ、寂しそうだったぜ?」

そう言うとぴたりと緑間の手が止まった、お、この言葉は結構効果ありなんじゃないかと思った瞬間



「名無しが寂しいのはもうずっとなのだよ」


意外だった。
そう答えが返ってきたことも、少しだけ緑間の表情が曇ったように見えたのも。



「とにかくもう名無しには関わるな」

「あ、おい」

制止の声を無視して部室を出ていく緑間を無理に止めようとは思わなかった。



「わっけわかんね…」



















「最近おかしいんスよね」

「あ?」

「名無しちゃん」

「あーあ…元からだろ?」

「それ普通に失礼っスよ」

まだきていない席をちらりと見てため息を吐く、ここ最近俺に対する態度がどことなくおかしいと感じていた。

友達、という言葉にあれだけ嬉しそうにしていた彼女がなんだか俺と言葉を交わすと青峰っちと話すときより言葉に悩んでいるというか、選んでいるような気がする。


「なんなんスかねー?俺なんかしたっけ」

「したんじゃねーの」

「青峰っち知ってるんスか?」

「知らねえ」

あからさまに目をそらすところからしておかしい、絶対知ってる癖に嘘が下手だ。


「言ったらマイちゃんの雑誌でどうスか」

「しょうがねえ」

単純すぎるだろ、と少し心の中で思ってしまった。いくらマイちゃん好きでもどうなんスかそれ。





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「つーわけだ、お前悪いイメージもたれてるってわけだ」

「はあ!?ちょ、それ初耳なんスけど!」

青峰っちが言うには緑間っちが名無しちゃんに俺のことを女にだらしないと言われそれで俺に聞こうにも聞けずそのままずるずるとそのイメージのまま俺はずっときていたというわけらしい。


「つーかあんたも否定したらどうなんスか!」

「逆ギレかよー、しゃあねえだろ調度そんときお前女に囲まれてたんだし言う言葉がみつかんねえだろ」

のんきにそう言ってのける目の前の男にも腹が立ったけどなにより緑間っち俺のことそんなイメージだったのかと思うと少し悲しい。


「別にあいつがお前のことそう思ってるんじゃなくて妹をなんつーんだ、あー…」

「なんスか…」

「まあそうむくれんなよ。つーかお前適当に友達になろうって言っただけのくせに何で怒る必要があんだよ」

指摘されてそう言えばそうだと気付く、何で俺はこんなにも緑間っちの妹にこだわっているんだろうか。


「それを知って悲しむのはあいつだろだから緑間もお前は嫌なんじゃねえの」


「……今は違うっス」

「予想以上に妹を大事にしてっからなアイツ」

俺の浮ついた気持ちを緑間っちは分かっていたのだろうか、よくわからないけど俺の中で罪悪感が漂ったのは確かで。



「お、噂をすればなんちゃら」

顔を上げると確かに教室に入ってきた名無しっちがいて、女の子に挨拶をされて若干しどろもどろになりながらも返している。男子にもされているけど明らかにそっちのほうが言葉につまっていて少しだけ可愛いなとおもった。

こちらに来ると必然的に見ていた俺と目が合うわけで、一瞬体が強張ってそれでもなんとか「おはよう黄瀬君、青峰君」と言ってくれる彼女に嬉しくなった。それと同時に先程話していたことが思いだされ胸が苦しくなる。


「おはよっス、ねえ名無しちゃん」

「な、なに?」

「俺のこと緑間っちから聞いてるっスよね」

そう言うとあからさまに驚いたような顔をして青峰っちのほうを見るけど青峰っちはしらんぷりだ。まあ余計な口出しされるよりはありがたい。


「聞いてる……でも………」

「…でも?」

「人に言われた言葉だけで、その人を判断しちゃいけないって思うから…」

俺ももちろん彼女からそんな言葉出てくるだなんて思ってなかったし青峰っちもそんなこというとは思っていなかったらしく少し驚いていた。


「確かにね普段の黄瀬君を見てるとそうじゃないかなって疑っても仕方ないと思うんだけど、私にお友達になろうって言ってくれたのはそうじゃないからって信じたいの」

「………」

「信じたいだけだからほんとはどうだかわからないけど、良いよ。人間1つや2つ悪いところがあるもんだし、気にしてないよ」

じわりと胸の中が暖かくなっていく、




「お友達、だもん」


「…そうっスね」

友達、なんて軽い言葉かもしれないけど彼女にとってそれはとても大きなもので




「ごめん名無しっち、ありがとう」

「名無しっち……?」

「認めた人につけるあだ名っス」

そう言うと最初に友達になった時のように嬉しそうに笑う彼女に、俺はほんとにこの子と友達になりたかったんだと実感した。


「良かったなあ黄瀬」

にやにやと笑う青峰っちに少しいらついたけどそんなこと今はどうでもよくて、


「俺、嬉しいっス」

「私もだよ」


「今回取り持ってやったの俺じゃねーの」

余計なことをと思ったが今回は青峰っちが言ってくれなきゃたぶん俺はずっと気付けないままだっただろうからしょうがなく感謝する。


「そうっスね今回ばかりは青峰っちのおかげっスわ」

「気持ちがこもってねえなー、つか緑間妹」

「な、なんでしょう」

急に青峰っちに呼ばれてびくりと体を揺らす、もうちょっと優しく言えないんスかと言おうとしたがたぶんなおらないだろう。


「お前、黄瀬ばっかで俺とも友達になれよ」

「……え?」

言われたことが分からないという様子できょとんとする。


「よし、お前俺の友達な」

「………よ、よろしくね」

強引だったが名無しっちの顔は確かに嬉しそうで、



「つかあんたも大概素直じゃないっスね」

「黙れうっせえ1on1しねえぞ」

「すいませんっス!」


















「真太郎、やっぱり部活終わるまで待ってる」

今までは部活がある真太郎とは一緒に帰れず1人で帰っていたが少し寂しいなと思い真太郎に思い切って言ってみる。

「…大丈夫なのだよ、部活が終わるのは遅い。それまでどうするんだ」

「ギャラリーは…?」

毎日すごい応援がいるギャラリーならずっと見ていても邪魔にはならないしあの黄色い声援にまざるとなると少し鬱屈だが大丈夫だろう。


「心配だ、やはり迎えに来てもらってもいいから帰るのだよ」

「……でも」




「いいんじゃないか?」



真太郎以外の声が聞こえてきて振り返ると腕を組んでこちらをみる赤い髪の男の人が立っていた。


「だめなら体育館の下で見学しても良い、むしろ1人で帰らせる方が毎回心配で仕方ないんだろう?」

「赤司……」

ぽつりとつぶやくその名前には聞き覚えがあった。
病院でバスケの話を真太郎がしてくれたときに出てくるバスケ部の主将さんだった気がする。


「初めまして、緑間に妹がいるなんて初めて知ったよ。俺は赤司征十郎だ」

すっと手を差し伸べてくるのにどうしようか迷ったがおずおずと握る。なんだか黄瀬君のときより緊張する。

「…不服かい?」

「……いや、名無しギャラリーで見るのだよ」

「う、うん」

「俺が行くまでいなくなるなよ」

「分かった…」

なんとなく気まずい雰囲気だったのでギャラリーへとつながる階段をあがっていく、真太郎と赤司さんがまだ話しているのが見えたけどたぶん私にはわからない話なんだろう。


(真太郎のバスケ…初めて見るなあ)


中学へきてから初めてのことだらけ










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「あえてギャラリーにしたのは妹と部員を会わせたくないからか?」

「下にいると不自然だろう」

「…今まで教えなかったのも心配だからか?」

「存在を知らせたくなかったのは確かかもしれないな」

「あえて否定しないところはイェスと受け取るが」

「勝手にするのだよ」


緑間の妹というのは、俺でさえも転入してくるまで知らなかった。
たまに部活を用事といって抜け出していたのはたぶんすべて妹関係なのだろう。

たまたま姿をみつけたから近づいてみると緑間が大事に思うのも分かるような真っ白で黒い髪がよく映える、生粋の日本人という感じだった。


「興味が沸くな」





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