緑間という名字に驚いた人もいれば容姿に驚いたやつもいるだろう、だが俺と黄瀬が驚いたのはそれよりも

同じ部活で結構長い間一緒にいた人の家族構成すらなにもしらなかったということだ。
緑間に妹がいたなんて初耳だった。
病院に通っていたということは姿を見なくても当然だが、まさか同じ学年に妹か姉かはまだわからないが兄妹がいたなんて。



「それじゃあ席はー、青峰の後ろな」

「は、はい」

そしてまさかの俺の後ろの席にくるなんて、確かに朝誰もいないのに新しい席が用意されていておかしいとは思ったが然程気にはしなかった。
俺の後の席へ向かって歩いてくる。

漆黒の髪の毛に、病弱という言葉が似合いそうなほどの白い肌、確かにあいつの面影はあるっちゃあるのかもしれないがそれほど似ていない。



「なあ、お前緑間の姉ちゃんなわけ?」

「へっあ、ああ、違いますよ…!私は妹です」

席についてからそう尋ねるとどこかそわそわとした様子でそう答えた。


「ふーん……」

「青峰っち見すぎ」

別に自分ではそこまで見たつもりはないが黄瀬に小さな声で指摘され「わりぃ」と謝る。
当の本人は「だ、だいじょうぶです……」と顔を俯かせながら言った、もしかして怖がられただろうか。


「なんで敬語なんだよ、別に同い年だろ」

「ご、ごごめんなさい…!」

「お前緑間ににてねえな」

どちらかというと緑間は意見をはっきりいうタイプで、妹はといえば視線を合わせようとはしないしなんだかおどおどしている。


「変なやつ」

そう言ったのが聞こえたのか少し泣きそうな表情で、眉を寄せている。

「青峰っち何やってんスか……」

「だってよおこいつさっきから目合わせようとしねえんだもん」




「あ、あの……」

黄瀬と話していると聞こえてきた小さな声に振り向くと、口をきゅっと結んで何かを言いたそうにしていた。



「わ、私男の人と…そんなに話したことなくて…だから、なれなくて、ご、ごめんなさい…」


だんだんと声が小さくなっていったがなんとか聞き取れた、納得するが


「お前アニキいんじゃねーか」

「し、真太郎は昔から、知ってて…えと、その…」

「お兄ちゃんと他人は別っしょ青峰っち。デリカシーないっスね」

「うっせえ黄瀬、お前は前向いてろよ」



「お前ら両方うるさいぞー緑間のことが気になるのもわかるけど今は先生の話を聞け!」


「…チッ」

「うぃーっス…」

担任に注意されてそこで話は途切れたが、1つ分かったことは





全然似てねえ。








___________________










「緑間さん…ってなんか違和感あるっスねー…名無しちゃんは学校初めてなんスか?」

担任の話がやっと終わって緑間妹にとっては最初の授業になるであろうものが始まる前黄瀬がそう話しかけた。質問攻めにされ、困り果てていたところを「ちょっとどいてくんないスか?」の一言で片してしまうモデルの力というか、うざかった。


「うん……きたくても来れなくて…」

「じゃあお前勉強ついていけねーな」

そう言うと少し表情をむっとさせて「真太郎に教えてもらってました…」なんていうからなんだ怒ることもできんじゃねーかと思った。



「ちょっと青峰っちばっか!ずるいっスー!」

うるせえと思いつつたぶん黄瀬も緑間の妹が気になるんだろう。おは朝信者で語尾になのだよがつく変人の妹となれば誰だって気になるだろう。


「俺と!お友達になりましょ!ね?」


たぶん思い付きとかそんな感じで口走ったんじゃないかと思う、黄瀬のその言葉に一瞬目を見開いてから「い、いいんですか…」と顔を赤らめてそう言った。
今日初めてみる表情だったと思う。

「も、もちろんっスけど…?」

自分で言っといて何驚いてんだ黄瀬、と内心思ったが口に出さないでおく。




「わ、私お友達はじめて……!」

頬を緩ませて笑った彼女に不覚にもどきりとしたとかそんなことはない、たぶん。
それでも笑顔のほうがかわいいじゃねーかとは思った。


「よ、よろしくっス…!」

黄瀬の方も笑顔に驚いたのか少し動揺している、何照れてんだ女の扱いなんて慣れてるだろうにと内心毒づく。


「よ、よろしくお願いします…!」

差し出された手をおずおずと握るだけで真っ赤になる彼女はやはり最初に言った通り男に慣れていないのだろう、握ったはいいがすぐさま離し先程よりも真っ赤になっていた。林檎みてえ。
それでもまた頬を緩ませて「嬉しいなあ」なんて言う彼女が


緑間の妹のくせにかわいいとかどういうことだ。









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緑間っちの妹とお友達になった。
正直ほんとになろうとは思っていなかったし何を言ったらいいか思いつかなかったので言ってみたらどの言葉よりも彼女の反応が良かった。

笑顔なんて見せなかったのに嬉しそうに笑って「よろしくお願いします…!」なんて言う彼女を見たらもしかして遺伝子がどっかでおかしくなったのかもしれないなんて思うだろう。

病院にずっといたということはどうやら俺のことも知らないらしく、「黄瀬涼太っていうんスよ!」というと「黄瀬君っていうんだ、黄瀬君、よろしくね」
名前を何度も確かめるように呼んでくれた。

兄妹というのはどこかしら共通点があるもので緑間っちみたいに変な人なのかという興味本位で話しかけてみると共通点がどこにあるんだろうと思うほど素直でいい子だと思う。
照れて目を合わせてくれないのが少しあれだが。
それでも長い睫毛は下と上両方くるりとカールしていて、これが共通点なのかなと思ったけど緑間っちは下だけだった。

とにかく俺が今日出会った妹というのはまあ、一言で言うと

遺伝子やっぱ間違えたんじゃないっスかね。



ツンデレでどこかとっつきにくいあの緑間っちとこんなかわいらしい子が兄妹とはどうしても受け入れられなかった。


「おは朝見てるっスか?」
一応確認のためにそう尋ねると「真太郎はいつも見てるけど、よくわからないです…」と苦笑いで返された、むしろ安心した。
おは朝信者だったらどうしようと思った。



今日俺は名無しちゃんのお友達第1号になれたらしい。


















「真太郎…!」

「ああ名無しか」

良く知った後ろ姿を見つけて駆けていく。走るのはまだあまり良くないと言われているがどうしても言いたいことがあった。


「あのね、お友達できたの!」

「良かったな、だから言っただろう大丈夫だと」

ぽんとあたまに手を置き笑った真太郎につい笑顔になる。


「黄瀬君っていうんだけどね」

言葉を続けようとしたとき真太郎の表情がぴくりと動いた、笑顔もいつの間にか消えている。



「…あの、真太郎……?」


「悪いことは言わない、黄瀬と友達になるのはやめておけ」



これは、つまり一体どういうことなのだろう。

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