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雪解けの春


遥か遠い昔――。

雪に閉ざされた白銀の世界。凍った空気に、降りしきる粉雪。あたり一面真っ白な雪に覆われた、北の国。ここは生物が生き抜くには、あまりにも過酷な土地だ。食物は育たず、住める場所も少ない。寒さに凍え、凍死する者が多い。

人間がこの地で生きていくには、不可思議な力を有する魔法使いが必要だ。彼らの加護なしに、この地で生きていくのはあまりに厳しい。そのため人間は、魔法使いたちを崇め、祀り、自分たちを見捨てないよう畏怖し、従った。

そのとある地には、古い時代の集落がそのまま残っていた。北の国で朽ちることなく残っているのは珍しい。しかしそこに人々は住んでおらず、寂しい家々があるのみ。


「ほう、此処が例の噂の場所か」
「うむ、そのようであるな」


ふたりの青年がその地に足を踏み入れた。黒髪に金色の瞳を持った、同じ顔をした青年。双子の片割れをスノウ、もう片割れをホワイトと言う。

彼らは、人気のいないあたりを見渡す。


「一帯が魔法で守られておるな。廃れてはいるが、この雪のなか保たれておる」
「人間たちが『眠れる村』と囁くのも理解できる」


双子が此処へ足を踏み入れた理由は、先日、人間たちが噂をしているのを耳にしたからだ。人間たちはこう囁いた。

北の国の、白銀の世界に隠された、とある地。そこには古くから築かれた大きな集落があり、雪にさらされているにもかかわらず、今もなお残っているという。しかし人はひとりもおらず、無人だ。しかし、奥深くにあるひとつの古城には、たったひとりの女がいるという。その女は呪われ、歳を取らず、永遠に眠り続けている。冷めることの無い、永遠の眠りに、囚われているという。

人間は物語のように噂する。とある地では寝物語に、とある地では童謡に、とある地では呪われた結末だと、それぞれが口伝した。一貫して、人間はこの土地を『眠れるの村』と囁き、哀れな呪われた娘を『眠れるの姫』と呼んだ。

双子はそれを確かめに来たのだ。

時が止まったかのように眠っている村を抜け、奥地にある古城へ足を踏み入れる。村には弱い保護魔法がかかっていたが、古城にはそれなりの保護がかけられている。無人の城の長い階段を上がり、魔力の気配が強い一室の前で足を止める。

守護魔法がかけられた部屋の結界を難なく解き、部屋へ入る。綺麗に整った部屋は、以前まで生活していたように見えた。部屋には大きなベッドが置かれており、天蓋のカーテンが下ろされいる。魔力の気配はそこから伝わってきている。

ベッドの前まできて、双子は顔を見合わせる。そして片手でカーテンを掴み、同時に中を覗いた。


「ほう、これはこれは・・・・・・美しい娘じゃ」
「それでいて愛らしい子じゃ」


ベッドには、美しい娘がひとり眠っていた。16歳くらいの娘だろう。瞼を閉じて、規則正しい寝息を立てて眠っている。シーツに広がる、朝焼けのような色をした長い髪が、まるで春のようだった。


「この娘、魔力があるな。育てば強力な魔女になるであろう」
「石にもされず、ただ時を止められ眠らされるとは・・・・・・かわいそうな子じゃ」


魔力を持った娘は、魔女だった。どういった経緯と理由かは知らないが、どうやら娘はどこかの魔法使いに呪われてしまったらしい。石にせず眠らす呪いなど、その魔法使いは随分と変わった趣向を持っているようだ。

娘を見下ろしたスノウは、ふと思いつく。「ホワイト」片割れに意見を求めるように呼びかければ「うむ、我も同じことを思ったぞ、スノウ」片割れのホワイトも同じことを考えており、同意に首を縦に振った。

再び顔を見合わせ、同時に唇を開き、囁く。


「「《ノスコムニア》」」


放たれたのは、双子の呪文。双子の力によって、娘にまとわりついていた呪いは、ガラスが割れるかのようにして崩れ落ちる。止まっていた時間は動き出す。

眠っていた娘の瞼が、静かに開かれた。


「目が覚めたか、美しい娘よ」
「我らがおぬしの呪いを解いてやったぞ、愛らしい子よ」


双子はベッドの両サイドに腰を下ろし、ようやく眠りから目を覚ました娘を覗き込んだ。

初めて見た娘の瞳はまるで夜のように、黒水晶のごとく輝いている。まだ朧げな瞳で、ぼんやりと同じ顔をした青年に視線を投げかける。


「我はスノウ、北の魔法使いじゃ」
「我はホワイト、我らは双子じゃ」


さあ、と幼子に優しく語り掛けるように双子が囁く。娘の右手をスノウが、左手をホワイトが、拾いあげ優しく包み込んだ。


「「我らと共に行こう――」」


止まっていた時計の針が、音を立て刻みだした――。