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もう一歩先へ



――正直、自分でも浮かれている自覚があった。

詳細な説明は省くが、紆余曲折を経て、晴れて夜月といわゆる恋人同士になることができ。
最初は夜月も戸惑ってなかなか受け入れてくれなかったが、最後にははにかむように微笑んで、手を取ってくれた。言葉にならないくらい嬉しいという気持ちであふれたのを今でも覚えている。

恋人同士になってからしばらく経った。

恋人になって変わったことは特になく、中学から通して一緒にいる時間が長かったため、これと言って変化はない。あえて言うなら、呼び方が変わったことくらいだろうか。
クラスメイトの奴らもそれを見てなんとなく察しているようだった。

それだけでも、自分が恋人であるという優越感があって、満足をしていた。
しかし、欲はどんどん広がっていく。

最初は憧れだった。夜月のようになりたいと思った。
夜月を知って守りたいと思った。救いたいと思った。
もっと近づきたいと思うようになった。触れてみたいと思った。
この感情が恋だと自覚した。好きという感情がすんなり自分の中へ溶け込んでいくのを感じた。
想いが通じ合って、恋人という立場になれた。少なからず夜月にとって特別な存在になれた。

そして今、もっと近づいて触れて、特別であると感じたいと思うようになった。


「夜月」
「ん? なに?」


食堂で向かい合って二人で学食を食べていた。
目の前に座る夜月は学食のパンケーキをフォークで刺しながら、こちらへ視線を向ける。


「今日、夜、おまえの部屋にいっていいか?」


少し緊張しながら言えば、夜月は首を傾げた。
何か大事な話でもあるのか、という夜月にああ、と頷けば、夜月は分かったと言って了承する。


「じゃあ、私は部屋で待ってるから」
「ああ、すぐ行く」


早く今日が終わらないかと、その日の放課後はそわそわした。




放課後、夜。
夕飯も食べ終え、風呂も済ませたあと、周りに気を遣いながら夜月の部屋へ向かった。
ノックをすれば夜月はすぐに扉を開けてくれて、どうぞと言って部屋へ招き入れた。

夜月の部屋は、ひとり暮らしをしていた時に使っていた内装とあまり変わらない。シンプルで物も少なく、白を基調とした部屋だ。

床に置かれたテーブルに合わせて置かれているクッションに腰を下ろす。
夜月ももう一枚のクッションに腰を下ろして、視線を向けた。


「それで? 話って?」
「あ、ああ・・・・・・」


早速本題を促されるが、言葉を詰まらせる。
自分でも緊張しているのが分かった。一人だけドキドキしているのが、なんだか悔しくも感じた。
夜月は不思議そうに首を傾げて、こちらが口を開くのを伺っている。


「・・・・・・俺は、お前のことが好きだ」
「えっ。あ、ああ・・・・・・うん。そ、そう・・・・・・」


突然の告白に、夜月は驚く。
返答も煮え切らず、こういう内容に慣れていないのか、少しだけ頬が染まる。

続けて、自分たちは恋人同士であること、今の状況に満足もしていることを、素直な気持ちで話していく。
夜月はそれに相槌を打ちながら、ひとつひとつの言葉をしっかりと聞ていく。

そして意を決して、うつ向きがちにしていた顔を上げ、真っ直ぐと夜月を見つめた。


「俺は、お前とキスがしたい」


夜月は目を見開いたまま、固まってしまう。しばらくして放たれた言葉の意味を理解すると、徐々に顔を赤らめ体温を上昇させた。


「あ・・・・・・えっと・・・・・・」


今度は夜月が顔を俯かせた。

床に手をついて夜月との距離を縮める。目の前まで来ると夜月の肩はビクリと揺れ、その肩を両手で優しく包みもむように掴で、うつ向いた顔を下から覗き込むように背中を丸めた。


「お前は嫌か?」
「・・・・・・いや、じゃ・・・・・・な、い・・・・・・」


顔を真っ赤にしながら、夜月は絞り出すような声で答えた。
それが嬉しくて、思わずクスリと笑みがこぼれた。

すこしだけ顔を上げた夜月の額に、自分の額をくっつける。
恥ずかしそうに視線を泳がせていた夜月が瞼を閉じたのを合図に、額を離し、唇に触れる瞬間に、そっと瞼を下ろした。

柔らかい感触が唇に触れる。ほんのり熱くて、高揚感がわき立ち、なんだか気持ちいい。

触れるだけのキスをして、そっと離す。
瞼を開ければ、羞恥心に眉根を下げる夜月と目が合った。


「・・・・・・もう一回」


返事を聞かないまま、同じように唇に触れた。
癖になってしまいそうで、少し、怖かった。


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