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何でもないしあわせ



夜月は学生時代に付き合っていたラギーと卒業後に結婚した。

結局夜月は元の世界に帰る方法を見つけることができなかったが、もし見つかったとしても、ラギーと一緒に生きる道を選んだだろう。

卒業してオンボロ寮からも学園からも出ていき、ラギーが住むスラム街へ移り住んだ。ラギーと一緒に暮らしていた祖母も快く夜月を迎い入れてくれて、他の人たちからも優しく向かい入れてくれた。

盛大な結婚式などはしなかったが、身内や友人たちと小さくお祝いをした。
それだけでも夜月やラギーは心から幸せでいっぱいだった。

そうしてラギーの祖母を含めた三人暮らしで、裕福ではないけれど、それでも幸せで平凡な日々をのんびりと過ごしていた。



「ヨヅキくん!」
「っわ! ふふ、おはようございます」


キッチンに立って朝食を作っていると、後ろから忍び寄ってきたラギーにギュっと抱きしめられる。
背後から抱きしめるラギーはぐりぐりと頭を摺り寄せて、短い尻尾をぶんぶんと揺らしていた。


「ね、ヨヅキくん」
「・・・・・・? なんですか、・・・・・・っ!」


ちょんちょん、と指で突かれて首だけ振り向くと、チュッと触れるだけのキスを唇に落とされた。「あ、引っかかったッスね」シシシッ、と悪戯っ子のようにラギーはしてやったりと笑った。


「もう、ラギーさん」
「ヨヅキくんって全然慣れないッスよねえ、いっつも顔赤くして」


ほんのり頬を染めた夜月はムッとする。
そんな夜月の膨れた頬を突いて、ラギーはまたシシシッと笑った。


「もう離れてください、朝ご飯が作れないです」
「ええっ!」


すこしだけ抵抗を見せてラギーを離そうとすると、ラギーはヤダヤダとさらに身体に回した腕に力を入れて、ギュっと抱きしめてくる。

そんなラギーを置いて再び朝食の準備を進めると、ラギーは背中に顔を押し付けたり、いたずらをするように首筋や頬に軽くキスを落とした。そのたび「もう」と怒ると、白い歯を見せてにんまりと笑う。


「オレ、いま幸せだなあ・・・・・・」


噛み締めるように、ラギーがそんなことを小さく呟いた。
わずかにお腹に回された腕の力が強まった気がする。肩に項垂れるラギーに目を向け、夜月はクスリと笑った。


「ラギーさん、大好きですよ」


すると、ラギーはバッと顔を上げて大きな瞳を丸くさせた。大きな耳はピンと立て、ピクピクと動かす。
思ってもみなかったことを言われて呆気にとられるラギーに、夜月はまたクスリと笑った。


「今のは、ちょっと・・・・・・反則じゃないッスか」


今度はラギーの頬がほんのりと染まった。

すると、向こうからおばあちゃんが呼ぶ声が聞こえてきた。夜月は今手が離せないため、必然的にラギーが向かうことになる。少しばかり名残惜しく思いながらも、ラギーは夜月から手を放しておばあちゃんのもとへ向かおうとした。

キッチンを出る手前で、ラギーが「ヨヅキくん」と呼ばれた。


「俺も大好きッス」


シシシッ、と照れ臭そうにラギーは笑った。


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