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思わせぶりはきみの特技だ



それは、依頼された任務に北の国の魔法使いたちと向かった時の事だった。


「助けてくれてありがとう、魔女様!」
「あら、ふふ」


今回の任務で助けた男の子は、自分を助けてくれたターリアにチュッと可愛らしく頬にキスを落とした。
ターリアは微笑ましそうにニコニコとして、それを嬉しそうに受け入れている。

それだけなら何もない、ただの微笑ましい光景、可愛らしい光景で終わった。


「は」
「あ?」
「はあ?」


地を這うようなドスのきいた低い声が背後から聞こえてくる。

ギギギ、と賢者は顔を真っ青にして背後に振りかえる。そこには、眼光を鋭くさせて、いかにも機嫌が悪いと主張するオーエン、ブラッドリー、ミスラがたっている。その傍らにいるスノウとホワイトにいたっては、ポカンと口を大きく開けて呆然と立ち尽くしている。
彼らの視線は小さな子供にキスをされているターリアに向けられていた。


「魔女様。僕が大きくなったら、結婚してくれますか?」


男の子は無邪気に、きらきらとした眼差しでターリアを見上げている。
一方で、北の魔法使いたちの機嫌はどんどん悪くなっていく。今にも殺しに行きそうな殺気に、賢者は血の気が引いていく。

ターリアは「大きくなっても私のことを好きでいるなら考えてみるわ。約束はできないけれどね」と期待させるような言い方をして微笑む。それを聞いた男の子は嬉しそうに頷いて、大きく手を振って自分の家へ帰っていった。


「ふふ、幼い子供は無邪気で純粋で可愛らしいですよね。賢者様もそう思いません?」
「えっ! そ、そうですね! あはは・・・・・・」


賢者はターリアに相槌を打ちながら、背後でドス黒いオーラを放つ彼らに挟まれ、冷や汗をかいた。


「はあ? あなたまであんな寿命も短い人間なんかと結婚するって言うんですか」


不機嫌な声色でミスラが強めに言う。
眉間にはしわが寄っていた。


「あら、十年二十年先も私に恋して結婚したいと言うなら、考えてみる余地はあると思うわ」


それを聞いて、ミスラはさらに不機嫌になっていく。
賢者の胃がキリキリとしだした。


「へえ? おまえはか弱くて一人では何もできない身勝手な人間なんかと一緒になりたいんだ、趣味が悪いんだね」


続いてオーエンが口を開いた。
オーエンも苛立っていて、いくらか口調も普段よりはきつく、左右で色の違う瞳をそっと細める。


「私、人間は好きでも嫌いでもないもの。弱くてもいいわ、私が守ってあげればいいんだもの」


オーエンは無言だったが、明らかに苛立ちを募らせている。唇もきゅっと噤んで、睨みを利かせてくる。
賢者は胃に穴が開きそうな気がした。


「・・・・・・ま、ただのガキの戯言だしな」


まるで自分に言い聞かせるかのような言い方。けれど言っていることは真実だろう。
ターリアも「そうね。あくまで覚えていたらの話よ」と同意する。

ブラッドリーの言葉とターリアの返答を聞き、いくらかミスラとオーエンの不穏な空気も治まっていく。
賢者は一安心し、ほっと息をついた。

そういえばスノウとホワイトは何も言わないな、と賢者が思った矢先に「「ターリア」」と声の低い落ち着いた声音が響いた。


「我らの許可なく口づけを受けるとは・・・・・・」
「我らで塗り替えておかねばのう・・・・・・」


チュ、と左右でリップ音が落とされた。
大人の姿になっていたスノウとホワイトは、いつのまにかターリアの左右に回り込んでいて、ターリアの腰と手に手を添えながら、頬にキスを落としていた。

キスを落とされたターリアは目を丸くして、文句を言うように「ちょっと」と二人の間から抜け出す。

そんな三人の様子をぼんやりみていた賢者はハッとして、同じ光景を見ていた彼らに視線を向けた。
事態は悪化していた。


「殺します」
「は、不愉快なんだけど」
「クソジジイども・・・・・・!」


そこからはいつもの流れだ。最初にミスラが魔法を放って、続いてオーエンやブラッドリーも呪文を唱える。スノウとホワイトは「ほほほ」と笑いながら彼らを難なくあしらっていく。

目の前でドンパチされ、雪やら地上やら抉れていく様子をただただ賢者は眺めていた。


「では、私たちは帰りましょうか、賢者様」
「あ、はい。お願いします」
「ふふ、いえいえ」


事の本人であるターリアは全く気にしていない様子だ。
彼女に振り回されるのは大変だな、と思いながら賢者はターリアに連れられ、無事魔法舎へと帰還した。


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