友達以上恋未満
――バンッ!
弾くような大きな音が響いた。夜月はその音に思わず身を丸め、ギュっと目をつむった。
その音の原因はエースだった。
放課後、一人で勉強をしておりそろそろ帰ろうと廊下を歩いていた。すると自分を探していたようだったエースと鉢合わせた。
エースは夜月を見つけるなり、無言で近づいて少し痛いくらい強い力で腕を掴んで引きずるように腕を引いた。困惑するまま腕を引かれると、近場の空き教室に連れ込まれ、扉が閉まった瞬間、両手を扉に叩きつけるようにして打ち付けた。
顔の左右に置かれた両手は逃げ場を失くし、目の前のエースは少し怖い顔をしてこちらを伺っている。
「ねえ、ジャミル先輩とキスしたってどういうこと」
「え?」
思ってもみなかった言葉に思わず素っ頓狂な声を上げた。目をぱちぱちと瞬きさせる。
エースは眉間に皴を寄せて、眉根を吊り上げている。
「え。あ・・・・・・そ、それは・・・・・・」以前ジャミルにキスされたときのことを思い出してしまい、かあっと顔が赤くなっていく。なんて言ったらいいか分からず言葉を詰まらせていると、そんな態度にエースはさらに腹を立てていく。
「ジャミル先輩と付き合ってるの」
「ちが・・・・・・」
声音が低くなっていく。視線も鋭い。
頬を染めたまま違うと首を横に振れば、エースはさらに詰めよってくる。
「ジャミル先輩が好きなわけ」
「わ、わかんない・・・・・・」
「はあ?」
素直な気持ちを口にすれば、苛立ったままエースが声を上げる。
それにビクリと肩を揺らして、身体を小さく縮こませた。
「恋、したことないから・・・・・・好き、とか・・・‥わ、わたしには分からない」
誰かに恋をしたことがない。人を好きになったことがない。そもそも他人と交流を持つことが少なかった。友達ができて、親しい人ができたのは、この世界に来てからのこと。だから誰かを好きになるとか、恋をすることなんて夜月には分からない。
此処へ来て親しい人ができた。けれど夜月にとってはそれだけ。友達ができて、一緒に過ごすことがただただ楽しくて仕方がなかった。だから恋なんて考えたことがなかった。
絞り出した声で告げた。エースからの返答はなかった。
しばらく沈黙が続く。顔を俯かせたまま、エースの反応を待つ。
「・・・・・・じゃあ、俺を好きになってよ」
小さな声で、呟くように吐かれた。
え、と顔を上げた。顔を上げると、エースは思っていたよりも近くにいて、鼻先が触れ合ってしまいそうな距離にいた。扉についていた両手で抱え込むように肩を掴まれる。グッと力を込められて、身動きが取れない。そして流れるように、唇を這わせた。
「えー、す・・・・・・?」
触れるだけのキス。
今の状況を飲み込めず、目を丸くしたままわずかに離れたエースを見つめた。
「俺を好きになって、ヨヅキ」
言葉を奪うように、再び唇を塞がれた。
弾くような大きな音が響いた。夜月はその音に思わず身を丸め、ギュっと目をつむった。
その音の原因はエースだった。
放課後、一人で勉強をしておりそろそろ帰ろうと廊下を歩いていた。すると自分を探していたようだったエースと鉢合わせた。
エースは夜月を見つけるなり、無言で近づいて少し痛いくらい強い力で腕を掴んで引きずるように腕を引いた。困惑するまま腕を引かれると、近場の空き教室に連れ込まれ、扉が閉まった瞬間、両手を扉に叩きつけるようにして打ち付けた。
顔の左右に置かれた両手は逃げ場を失くし、目の前のエースは少し怖い顔をしてこちらを伺っている。
「ねえ、ジャミル先輩とキスしたってどういうこと」
「え?」
思ってもみなかった言葉に思わず素っ頓狂な声を上げた。目をぱちぱちと瞬きさせる。
エースは眉間に皴を寄せて、眉根を吊り上げている。
「え。あ・・・・・・そ、それは・・・・・・」以前ジャミルにキスされたときのことを思い出してしまい、かあっと顔が赤くなっていく。なんて言ったらいいか分からず言葉を詰まらせていると、そんな態度にエースはさらに腹を立てていく。
「ジャミル先輩と付き合ってるの」
「ちが・・・・・・」
声音が低くなっていく。視線も鋭い。
頬を染めたまま違うと首を横に振れば、エースはさらに詰めよってくる。
「ジャミル先輩が好きなわけ」
「わ、わかんない・・・・・・」
「はあ?」
素直な気持ちを口にすれば、苛立ったままエースが声を上げる。
それにビクリと肩を揺らして、身体を小さく縮こませた。
「恋、したことないから・・・・・・好き、とか・・・‥わ、わたしには分からない」
誰かに恋をしたことがない。人を好きになったことがない。そもそも他人と交流を持つことが少なかった。友達ができて、親しい人ができたのは、この世界に来てからのこと。だから誰かを好きになるとか、恋をすることなんて夜月には分からない。
此処へ来て親しい人ができた。けれど夜月にとってはそれだけ。友達ができて、一緒に過ごすことがただただ楽しくて仕方がなかった。だから恋なんて考えたことがなかった。
絞り出した声で告げた。エースからの返答はなかった。
しばらく沈黙が続く。顔を俯かせたまま、エースの反応を待つ。
「・・・・・・じゃあ、俺を好きになってよ」
小さな声で、呟くように吐かれた。
え、と顔を上げた。顔を上げると、エースは思っていたよりも近くにいて、鼻先が触れ合ってしまいそうな距離にいた。扉についていた両手で抱え込むように肩を掴まれる。グッと力を込められて、身動きが取れない。そして流れるように、唇を這わせた。
「えー、す・・・・・・?」
触れるだけのキス。
今の状況を飲み込めず、目を丸くしたままわずかに離れたエースを見つめた。
「俺を好きになって、ヨヅキ」
言葉を奪うように、再び唇を塞がれた。
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