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わたしはあなたのもの



視界に入ったそれがひどく印象に残った。
それがなんであるのか、興味をひいた。

ウルクの街を散策していた時だ。
ふらふらと歩いていると、夫婦であろう男女が愛しそうに抱き合って、幸せそうに唇と唇を触れ合わせて、視線を合わせて笑い合っていた。頬をほんのりと染めて、愛おしそうに相手を見つめている。

”しあわせそうにわらっている”。

その行為は、あんな風に笑うための行為なのだろうか。





「口付けだと?」


玉座に腰を掛けるギルガメッシュは、無表情に問いかけてくるシャナルハに向かって、訝し気に真っ赤な瞳を細めた。
シャナルハはとくに表情の変化もなく、声を上げるギルガメッシュにコクコクと頷いて見せた。

当たりに人の気配はない。シャナルハが来たのをみて、一段落もついたことでギルガメッシュが配下の者たちを下がらせたのだ。そのためこの場にはギルガメッシュとシャナルハの二人しかいない。

ギルガメッシュは肘をついて、シャナルハに改めて視線を送った。


「貴様がそんなものに興味を示すとはな」


なにかあったのか、と理由を問われた。
シャナルハは淡々とありのままを口にする。


「くちづけして、わらってた」


なんだか、しあわせそう。拙い言葉でシャナルハは続けた。
ギルガメッシュはそれを聞き、ほう、と感心するように息をついた。

肘をついていた腕を下ろし、ギルガメッシュは本来の問いに答えを送った。


「一般的に、口付けとは愛情表現の一つだ。それは愛した者や子に贈るのが主だ」

「あいじょう、ひょうげん」

「しかし、そこに愛情などというものがなくてもできる行為でもある。一概に口付けに意味を与えることはできん」

「・・・・・・」


シャナルハはギルガメッシュの言葉を聞き、視線をさまよわせた。答えられた言葉の意味を、自分なりに理解しようとしているのだろう。
そんな愚直なシャナルハをギルガメッシュは黙って待ってやる。


「それは、しあわせ?」

「さてな。幸福の意味も決めつけることはできん」


再び視線をさまよわせた。

シャナルハがこの行為に惹かれた要因は”幸せそう”にしている部分にあった。その行為は幸せにする行為なのか、その行為にはどんな意味があるのか。


「シャナルハ」


名前を呼ばれ、彷徨わせていた視線がはギルガメッシュを捉えて止まった。

ギルガメッシュは片手を伸ばし、こちらへくるように示す。したがってギルガメッシュが座る玉座に近寄れば、ギルガメッシュはさらに顎で促した。指示されるまま、シャナルハはギルガメッシュの膝に乗り上げ、玉座の上で向かい合う体勢をとった。

言葉もなく、じっと見つめ合った。そこには何の表情もなく、ただ見つめ合っている。
真っ赤な瞳とくすんだ青い瞳が交り合う。

ギルガメッシュの指がシャナルハの顎を捕らえた。そのままギルガメッシュは身体を少しだけ起こして、シャナルハの唇にそっと触れるだけの口付けを落とす。

唇から熱が伝染する。


「どうだ」


ほんのり濡れた唇に、フッと吐息が触れた。


「わたし、しあわせ?」


触れた唇を指でなぞった。


「さてな」


くつりと小さく喉で笑って、ギルガメッシュは口角を上げた。
顎を捕らえていた指が離れ、そのまま頬をなぞり、手のひらで添えるように包んだ。


「忘れるな、シャナルハ。貴様がどこへ行こうとも、誰を想っていようと、貴様は我の財だ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」


頬を撫でた手が首を撫で、後頭部に回る。
力の込めた手に引き寄せられ、今度は食まれるような口付けをされる。後頭部が押さえつけられ、動くことができない。

瞼を上げてこちらの様子を見ていた真っ赤な瞳が、瞼を下ろした。
それを見て、シャナルハは街でみかけた男女のように、ギルガメッシュの首に両腕を回して瞼を閉じた。

フッと、ギルガメッシュが笑ったような気がした。


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